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経営組織論と『経営の技法』#238

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ②具体的経験(step1)
 まず、具体的経験は学習する本人が他者やさまざまな事物に働きかけることで起こる相互作用を意味します。学習者自身が働きかけることがまずは大事になりますし、それこそが経験であるといえます。
 ただし、どのような経験でもよいわけではありません。ここで重要になるのは、この経験の質です。学習を呼び起こす経験は、学習する人の能力を超えてこなさなければならない挑戦的、あるいは新規の業務や職務です。日々繰り返していることや慣れていることは、学習を引き起こす経験にはならないのです。
 仕事の世界では最初のうちこそ、どの仕事も挑戦的で新しい仕事ではありますが、慣れるに従って仕事の挑戦や新規性の度合いは減ってくるのが普通です。ですから、学習の観点から考えれば、異動をしたり昇進をしたりすることは、学習をする良い機会を生み出しているのだと考えることができるのです。
(図10-1)経験による学習と成長

図10-1

【出展:『初めての経営学 経営組織論』222頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 新しい能力につながる新しい仕事を常に追い求めていけば、能力の幅が広がっていき、新しい能力を特定の領域で求め続ければ、職人的にその専門性が深まっていきます。これは、その人のキャリアの方向性にも関わってきますので、新しい能力を付けて行く方向性については、その従業員のキャリアについても考える必要があります。
 このうち、本文では特に、異動など幅を広げる方向での能力開発が強調されています。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者として新しい領域を経験してもらうことは、従業員の場合よりも難しくなります。日本の大手企業の場合のように、人事異動などによって会社が強制的に新しい仕事の機会を与える、というものではないからです。
 けれども、経営者がリスクを取ってチャレンジする、という本来の役割を果たすために、「衆議独裁」が正しく機能し、デュープロセスが満たされるプロセスで会社組織が新たなチャレンジのための「お膳立て」をすることができるのであれば、会社組織が経営者に対して、新しいチャレンジをする「お膳立て」をします。この場合、会社組織の側が経営者に対して新しい機会を「提案」することになります。
 ここで、経営者が新しいチャレンジを選択すれば、そこから、経営者と会社組織による、新しい経験の構築作業が始まるのです。

3.おわりに
 新しいことに取り組むためには、もちろん、社内異動のように外から機会が与えられる場合もありますが、その場合でも少なからず必要ですし、自ら転職するような場合であれば、新しいことに挑む意欲が不可欠です。
 ビジネスマンには、経験値を高めるための意欲が不可欠であり、もしそのような意欲が失われてしまえば、その時点でのレベルで成長が止まることを、甘んじて受け入れなければなりません。
 その意味で、自分自身の意欲をコントロールすること、自分自身と対話し、自分自身の心の状態を健康に保てること、も重要な能力です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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