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松下幸之助と『経営の技法』#190

8/23 ポストと実力

~経験を積んだベテランだからといって、そのポストで実力を発揮できるとは限らない。~

 ある会社、あるいはまた、ある事業部といっていいと思うのですが、その事業部なり、1つの会社が、どうもうまくいかないという場合の話です。その首脳者は誰かというと、それは50歳の経験者である。しかも相当のベテランである。にもかかわらず、もうひとつうまくいかない。そういうような場合に、何かの機会でその人がかわり、そして40歳前後の若い、いわゆる新知識といいますか、そういう信念に燃えているような人が、たまたまそのあとを継がされる。そのような場合、見違えるほど、その会社はよくなり、また見違えるほど、その事業部はよくなるということを、実際に私は体験しています。
 ですから、その部なり、その会社の業績というものは、初めてその人がポストに立ち、そして実力を発揮することによって、すっかり変わってきたということです。いわゆるすっかり変わるということは、これは実力の差ということです。しかし若い人にはそういう実力というものは、若い人だからないともいえないし、また――だから、もっているともいえないし、経験を積んだ年齢のいった人が、必ずしも実力をもっているともいえません。ここが非常に面白いところです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が異なりますが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここでは、①経営者を変えることで、業績が大きく変わり得ることと、②経営者の能力に、年齢や経験は必ずしも関係がないこと、が語られています。
 ここで例示されている40歳前後の経営者については、「たまたま」「継がされる」と言っていますから、本来の候補者ではなかったのかもしれませんが、「信念に燃えているような人」だった、と評しています。やはり、会社を変えるためには、経営者に相当の信念と熱意が必要、ということなのでしょう。
 すなわち、株主が会社を変えようとする場合には、相当の信念と熱意のある経営者に変えると、うまくいく可能性が高くなるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。ここでは、松下幸之助氏の発言が、内部統制上、どのような影響や効果を与えるのか、について考えます。
 すなわち、グループ会社や事業部の首脳陣を決定する権限を有するであろう松下幸之助氏が、首脳陣の在り方について話しているのです。人事は、会社に勤める従業員にとって、しかも長期雇用を前提にしていたであろう会社にとって、非常な関心事です。従業員がこの発言を聞くと、グループ会社や事業部の首脳陣の選考基準が示された、と受け取っても仕方がないでしょう。
 具体的には、年功序列ではない首脳人事もあり得ること、その際、相当の信念と熱意のある者が選ばれるであろうこと、が示された、と受け取られるのです。
 もちろん、このような発言の影響力は松下幸之助氏も良く知っているはずですから、決して断定的な言い方をしていません。経験豊富な年長者にも期待を残させるような言い方をしているのです。
 このような発言は、年長者の意欲を削ぐ危険がある一方で、若年者のモチベーションを高めるとともに、年長者にも奮起を促す面もあります。信念や熱意がなければ、交代してもらうことになる、というメッセージになるからです。
 そして、経営者の人事に関する発言は、非常に大きな影響を与えますから、このように回りくどい表現になるのです。

3.おわりに
 特にメーカーでは、製品の品質や量を確保するために、組織の秩序が重視されます。そのためにも、年功序列型の人事体系が発展してきた、と言われることがあります。だからこそ、その秩序を破壊することにもつながりかねない若手首脳陣の抜擢は、慎重に行われることになるでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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