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松下幸之助と『経営の技法』#246

10/18 会社に対する信用

~小さなミスがあり、不良品が出てしまう。その対策にどれほど真剣に取り組んでいるか。~

 私どもの会社が製品をつくる際にたまたまちょっとしたミスがあって、部品の1つに不良のある商品を、ある販売店さんにお送りしてしまった時のことでした。その方は私どもの会社に、長年力強いご支援をお寄せくださっている方で、私どもの作る商品には常に非常な関心をもっておられたのです。それだけに、その不良のある商品を手にされると、”こんな商品を送ってくるとはけしからん。厳重に注意しなければ……“ということで、わざわざ会社まで出向いてこられたのです。
 ところが実際に会社へ来てみると、従業員が皆、一所懸命に仕事をしています。そして応対に出た人も親身になって応対するし、その商品の不良対策についても、それぞれが、わが事のように真剣に取り組んでいます。また工場を見ても、皆整然と仕事に励んでいるわけです。そういう姿を見てその方は、“これだけ皆が一心に仕事に打ちこんでいるのでは、たまたまこのような不良が1つぐらいあったからといって、怒るわけにはいかんなあ”ということで、かえって会社に対する信用を深められ、かつ安心して帰られたのです。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで、取引先の信頼を取り戻した、内部統制上のポイントは、以下の点です。
 1つ目は、従業員が皆、一所懸命に仕事をしていること。
 2つ目は、応対に出た人が親身になって応対したこと。
 3つ目は、商品の不良対策について、それぞれが、わが事のように真剣に取り組んだこと。
 4つ目は、工場では、皆整然と仕事に励んでいること。
 5つ目は、これだけ皆が一心に仕事に打ちこんでいる、という感想を与えたこと。
 ここで、厳しい規律で縛り上げている会社でも、4つ目は実現可能です。
 けれども、一所懸命に仕事する(1つ目と5つ目)だけでなく、相手に対して「親身」になり(2つ目)、仕事に対して「真摯」になる(3つ目)点は、その従業員が厳しい規律で縛り上げられているだけでは実現が難しい問題です。もちろん、厳しい環境でも「親身」「真摯」に仕事をする人はいますが、仕事をやらされている感覚があると、「親身」「真摯」とは伝わりにくくなります。そのような従業員が多くなれば、「皆」が一心に、一所懸命に仕事をしている、という感想を持たれることはないでしょう。
 そうすると、内部統制の問題として見た場合、従業員がこのように主体的、意欲的に仕事に取り組むような経営が重要である、ということが導かれます。従業員が「親身」「真摯」に仕事に取り組むための経営上の施策には、従業員教育のような直接的なことから、人事目標の設定や考課方法、管理職者による指導管理の在り方、さらには社風や企業文化まで、その総力をかけて取り組むべき幅広い施策が含まれます。
 その中でも、松下幸之助氏の経営施策として重視されるべきポイントは、氏の経営モデルとの関りです。
 これは、氏がかなり初期の段階から採用し、磨き上げてきたもので、従業員の自主性と多様性を重視し、どんどん権限移譲して任せてしまう、という経営モデルです。
 この方法がハマれば、従業員は、仕事をさせられたという意識ではなく、自らを高めるのと同じように、仕事の内容を高めようと主体的に取り組むようになり、職場に活気も出てきます。
 このように、苦情を言うために会社を訪れた取引先は、期せずして、松下幸之助氏の経営モデルの効果を目の当たりにすることとなったのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の経営モデルがしっかりとしていて一貫性があり、経営者自身もブレないことが重要です。特に多様性を重視する経営モデルでは、従業員が主体的に判断し、行動しますから、その中で皆が「親身」「真摯」に一所懸命仕事に打ちこむ意識を共有させるのは、実は容易ではありません。意欲を引き出すだけでなく、そのベクトルを合わせることも重要なのですが、それを規範や規律で縛り上げるのではなく、ベクトルを合わせることも、主体的な判断を尊重して上手に誘導しなければならないからです。
 結局、どのような経営モデルであっても、それを会社組織に徹底させ、従業員に浸透させることは、それぞれの難しさがあり、経営者は、経営モデルの良いところばかりでなく、このようなマイナス面や限界も理解し、組織としてそれを克服させなければならないのです。

3.おわりに
 従業員がやる気に満ちていて、「親身」「真摯」に働いている、と言われることは、経営者にとってもよほど嬉しかったのでしょう。その嬉しさも、従業員たちと共有したかった思いだったのでないでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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