見出し画像

経営組織論と『経営の技法』#90

CHAPTER 4.2.2 Column:アストン研究
 初期の組織論ではどのように組織を理解することができるか、さまざまな研究がなされてきました。そのうちの1つにイギリスのアストン大学のデレック・ピューらを中心としたアストン研究があります。
 アストン研究はさまざまな組織に対する調査研究を行いましたが、そのうちの1つの成果が、社会心理学のアプローチを用いて組織のフォーマルな構造を理解しようと試みたことです。
 ピューらはまず組織構造を6つの構造に分けて分析を行いました。それらの構造の次元は、①機能と役割の特化、②手続きの標準化、③文書のフォーマル化、④権威の集中化、⑤役割構造の定型化、⑥伝統性です。
 役割構造の定型化は、CEOの管理の幅や階層の数、ラインマネジャーの数などで測られます。また伝統性は標準化が慣習的に定まっているのか規則として定まっているかの程度です。これらの次元に基づく14の変数によって、さまざまな組織のデータから、彼らは組織構造の要素として、専門化の程度や標準化などによって定まる活動の構造化、集権化や組織の自律性によって定まる権限の集中化、現場マネジャーの管理の幅やライン管理者の比率などで構成される作業の人格的統制、そして事務員やスタッフの比率などによって構成される支持的要素の相対的大きさ、の4つの組織構造を定める要素を抽出しました。
 特に、活動の構造化と権限の集中化は組織の中心的要素とされ、この2つの要素によって組織の4つの類型が示されました。つまり、活動の構造化が行われれば権限の集中化(あるいはその逆)が起こるわけではなく、両者は独立な要素であると考えたのです。
 4つの類型は、権限の集中化も活動の構造化も高い、いわゆる官僚制と、権限の集中化も活動の構造化も低い非官僚制に加え、権限の集中化は高いが活動の構造化が低いパーソネル官僚制と、権限の集中化は低いが活動の構造化が高いワークフロー官僚制があることが示されました。
 前者は、昇進や解雇といった人事などの権威は集中しているが、業務そのものはあまり構造化されておらず、彼らの研究では地方の行政組織などに見られました。一方、大企業の多くは、権威はそれほど集中していないが、現場レベルでは手続きや作業は構造化されているワークフロー官僚制に見ることができました。
 アストン研究はそれらの構造の違いと状況との関係にも目を向け、のちの組織のコンティンジェンシー理論(第8章)へとつながることになります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』81~83頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理の観点から見ると、リスクセンサー機能、リスクコントロール機能が会社組織に備わっていて、経営者が決断するお膳立てが組織的にできることが必要となります。リスクを取ってチャレンジしなければ、会社は儲けることができないからです。
 そのために、独立した専門的な部門を設ける部分もあれば、各部門が業務として行うべき部分もあります。
 このような権限や責任の配分も、実際に機能するように設計しなければなりませんから、会社組織の実態を把握するためのこのような分析は、そのためにも活用されるべきツールになりそうです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から見た場合、会社組織の分析も、このような比較可能なデータとして示されると、投資判断の際の参考になりそうです。
 けれども、会社組織の状況を比較可能なデータで示し、活用できている状況ではありません。従業員の数や、組織図、拠点数等から、投資家が想像力を膨らませるべき状況で、それ以上の有意な分析はなかなか一般化できないのでしょうか。
 それだけ、数値化できない部分が、実際の経営では重要である、ということかもしれません。

3.おわりに
 けれども、会社組織の分析は、非常に興味深いものです。特に、いくつかの会社の中にいた私にとっては、自分が体験したことを思い出し、客観化できるからです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?