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経営組織論と『経営の技法』#158

CHAPTER 7.3.2:意思決定のゴミ箱モデル
 では、このような曖昧な状況において、何かしらの意思決定が行われているとすれば、その意思決定というのは、どのようになされるのでしょうか。
 ここまで述べてきたような曖昧さでの意思決定を「意思決定のゴミ箱モデル」と呼び、ゴミ箱モデルが該当する組織は「組織化された無秩序」状態の組織と呼ばれます。そこでは自分たちがどのような組織であるべきかという認識が組織メンバー間でバラバラであり、どのように組織活動がなされているのかがほとんど把握されておらず、さまざまな活動において役割が不明確で、メンバーがそれぞれ勝手に活動を行っているような組織ということができます。
 このような組織は、それぞれの組織メンバーが独自で動くような、専門職による組織、たとえば大学などの教育組織、研究所、さまざまなイシューを扱うことになる官公庁などで見られますが、程度によっては通常の経営組織でも、このような状態になることはあるでしょう。
 意思決定のゴミ箱モデルでは、意思決定の問題、解、意思決定を行う参加者、選択する機会がバラバラに存在し、独立していると考えます。これまでの2つの意思決定のメカニズムにおいては、意思決定をする人は決められており、問題の認識から探索、解の提示、そして最適あるいは満足な解を選択する機会へと意思決定のプロセスは進んでいきます。しかしゴミ箱モデルでは、これらはすべてバラバラに存在します。ですから、ゴミ箱モデルでは意思決定は必ずしも問題の解決につながるとは限らず、意思決定は偶然に依存することになります。少し具体的に考えてみます。
 たとえば、友達同士で旅行に行くケースを考えましょう。ゴミ箱モデルにおいては、さまざまな問題がこの組織に存在しています。夏休みにどこかへみんなで旅行しようという問題だけでなく、今度の飲み会はどこでいつやろうかといった問題、あるいは組織全員に共通した問題ではなく、仲間のうち数人あるいは1人が持っている問題、たとえば今度のテストの対策はどうするか、そろそろ引越しをしたほうがよいだろうか、といったメンバーの関心があることです。
 また、解も組織の中で独立してたくさん存在しています。図書館に良い勉強スペースがあるとか、北海道はラーメンがおいしいとか、新しい店が駅前にできたとか、おおよそ組織の中にあるさまざまなアイディアや考えなどは、解の候補であり、問題と結びつくのを待っているのです。
 このような状態で、場が持たれるとします。たとえば、食堂で休み時間にたまたま仲間の何人かが集まったとします。誰かが、夏休みに旅行に行くんだったらそろそろ行く所を決めないと、いい所がなくなっちゃうよ、と言い、それじゃ決めようかということで、北海道はラーメンがおいしいという話が旅行の行く先という問題とくっついて、夏に北海道ヘラーメンを食べに行くという意思決定が行われることになります。このような経緯ですから、もし違う人が違う場所で話をしていたら、全く違う行く先になったかもしれませんし、また今度決めようとなることもあるでしょう。あるいは、そもそも夏休みの旅行先を決めようという問いかけすら起こらないかもしれません。
 ゴミ箱モデルによる意思決定では、問いと解と参加者と選択機会はバラバラに存在し、その意思決定はタイミングに依存するため、必ずしも同じ状況で同じものになると限りません。問いと解と参加者と選択機会があたかもゴミ箱に無秩序に投げ込まれていき、それが何かのタイミングによって結びつき、何らかの決定がなされることから、ゴミ箱モデルと呼ばれます(図7-3)。
(図7-3)意思決定のゴミ箱モデル

図7-3

【出展:『初めての経営学 経営組織論』159~頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見た場合、この「ゴミ箱モデル」があてはまる場合には、「構造」「タイミング」のあり方によって、リスク管理の状況が変わってきます。仮に、全てが偶然によって決定される、ということであれば、リスク管理が全く効いていないことになります。
 したがって、実際に意思決定し、活動する際に、どのようにリスクコントロールするのか、という問題が最大の問題になることがわかります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者が「ゴミ箱モデル」に該当する組織を経営する際のポイントが明らかになります。混とんとした組織だからこそ、想定外のスキルやアイディアなどが結びつき、新しいものを創り出すことが期待されるなどのメリットがあります。
 そのようなメリットを殺さずに、しかしリスクをコントロールできる能力が、経営者に必要とされることがわかります。株主は、経営者がこの2つの要請を両立するように、ガバナンスを効かせることになります。

3.おわりに
 「ゴミ箱モデル」が当てはまる場合と、その際のポイントが見えてきました。実際に、この「ゴミ箱モデル」が当てはまる組織を経営する際のポイントを、次に考えましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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