松下幸之助と『経営の技法』#239
10/11 景気と人間の本質
~好況時には腹がふくれ、不況時には腹が減る。景気は、人間の本質の通りに動いている。~
経済界もだんだんと好況に転換していくだろうと思う。なぜかというと、人間というものは、腹がふくれると物を食いたくない。なんぼ料理があっても、要らぬ要らぬという。腹が減ってくると、どんな物でも食うことになる。つまり好景気の間は、早く言えば腹がふくれてくるわけだ。すると、働かぬようになる。しばらくすると、また不景気になってくる。腹が減ったわけだ。だから何でも食う。景気はくり返すというが、人間の本質の通り動いているのではないかと思う。特に心がけのいい人は、理性をもって困難を克服する。いっぱい食わないで、いつも8分目に食っておく。そのかわり、ある一定期間ちゃんとためておく。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
ここでも、昨日(10/10の#238)と同様、松下幸之助氏の経済観が語られています。
ここでは、いわゆる景気循環であり、10年ごとに景気不景気の波が来ることについての説明です。経済学の領域でも、景気循環の原因などについて様々な議論がされているところです。松下幸之助氏は、これに対して、人間の食欲を例えに説明しています。この説明は、現在でも相当の合理性が認められます。例えば、リーマンショック後の不景気の中で、当然ながら、日本でも個人消費が冷え込みましたが、一時期個人消費が増える現象が観察されました。これは、個人消費者が支出を控えることについて疲れてしまい、少し贅沢をしたのが原因とされ、「倹約疲れ」という名称が付けられました。
このように、消費者の心理、しかも理性的なものというよりは、より本能的なものが、経済に影響していることは、現在もその合理性が認められており、景気循環を消費者の心理から説明することも、それなりに合理性が認められるのです。
ただ、問題はこの分析が正しいかどうかではなく、経営者が経済学者でもないのにそのような経済問題を論じることの意義です。
この点は、昨日も指摘したとおり、経済学は万能ではなく、世の中の経済事象の全てを予測できないだけでなく、全ての経済事象を説明できるわけでもありません。だからと言って、手をこまねいているだけでなく、自分なりに経済状況の変化を予測し、必要な対策や、逆に先手を打って、それを活用するような施策を講じなければなりません。経済学的に素人かもしれませんが、それなりに経済状況を把握し、それに合わせた対応をしなければなりません。
例えば、弁当屋にとって、天気は、弁当の売上げを大きく左右させるものです。したがって、弁当屋の経営にとって、天気の予想が重要です。ある弁当屋は、天気予報も参考にするものの、自分たちでも様々な情報を駆使して会社なりに天気を予想し、毎日、その日に作る弁当の量を決めています。
経済状況は、天気のように毎日変わるものではないかもしれませんが、ほとんどの会社が経済の影響を受けますので、経済予測は全ての会社にとって重要な問題の筈です。それを外に示すかどうかはともかく、経営者が経済に関心を持つことは、経営者の資質としてむしろ当然のことなのです。
2.内部統制(下の正三角形)の問題
次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
実は、経営学も、特に従業員の心理を研究し、経営の在り方の研究に活用しています。
特に、松下幸之助氏は、従業員の自主性と多様性を重視し、どんどん権限移譲して任せる経営モデルを早い段階から採用し、磨き上げてきました。自分の命令に従え、という場合よりも、任せたから思う存分やってくれ、というやり方のほうが、従業員の気持ちや精神状態に対する配慮が必要となり、敏感になっていくでしょう。実際、氏の言葉の中にも、従業員の心理に関するものが多くあります。
しかも、家族で始めた小さい会社から、大企業に育てていく中で、数多くの従業員と、様々なかたちで関わってきており、経験も豊富です。そのように、従業員の心理を観察し、働きかけ、会社の動きへの影響を実感してきた松下幸之助氏は、消費者などの個人の経済に対する影響も、興味を持って研究すべき対象になるのでしょう。
3.おわりに
昨日(10/10の#238)は、経済を人間がコントロールできるようになる、という話でした。その話との関係で見ると、今日は、人間が経済をコントロールできるようになるための1つの条件を示したことになります。すなわち、皆が「心がけのいい人」になり、理性をもって行動し、いつも腹8分目にし、貯金(?)もする、そうすれば景気循環もコントロールできる、ということのようです。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。
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