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経営組織論と『経営の技法』#188

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ⑥まとめ
 人事は流行に従うといわれます。成果主義やメンター制度、さまざまなキャリア支援の施策、採用におけるインターンシップや面接方法など、ある施策ややり方が取り上げられると多くの企業が横並びでそのやり方を導人していき、多くの企業で同じ時期に新しい同種の人事施策が導入されるケースが多くあります。
 組織フィールドは産業や企業規模などによって、さまざまに規定される可能性はありますが、日本という労働市場においては同型化が結果として起こっているといえます。これらの同型化が、就職協定など政府や経済団体の指示によって、採用の時期や方法が横並びになるとすれば、これは強制的同型化といえます。
 また、人事担当者が人事担当者同士の情報交換などによって新しい有効な施策の情報を得て、それを自社でも行うことで起こっているのであれば、これは規範的同型化といえるでしょう。成果主義人事施策の導入やその後の修正は、このような形であったと考えることができるかもしれません。一方、労働市場が大きく変わる中、大企業や産業におけるリーダー企業を模倣することによって施策が類似してくるのであれば、これは模倣的同型化ということができます。
 制度として環境を捉えた場合、環境とは自分たちの組織構造や仕組みに影響を与えるものとして捉えられます。環境との折り合い方は環境に適合した組織を選択するという形ではなく、制度的規則による環境からの期待に応えていく必要に迫られます。一方で組織は制度的環境からの期待に応えることで正当性を得ることができます。そして組織は正当性を得ることで、その制度的環境においてより生存の可能性を高めていくことになります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』189~190頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 今回は、ガバナンスの観点から先に検討しましょう。
 ここでは、特に人事制度について、強制的同型化、規範的同型化、模倣的同型化が行われやすい、ということが指摘されています。
 このように、改めて並べて比較すると、規範的同型化と模倣的同型化は、非常に重なる部分があるとイメージできます。同業他社のノウハウを輸入するのが規範的同型化のイメージですが、それは、必ずしも十分分析して納得したうえで行われるとは限らず、少なくともその範囲で模倣的同型化と重なるからです。
 つまり、この3つの同型化は、どうやら厳密に相互排他的に区別されるべき概念ではなく、重なり合う部分もある概念のようです。
 これに対して、競争的同型化は、競争の結果として発現します(もちろん、その後修正されることは十分あり得ます)ので、同型化の契機に分類上の重点のある上記3つ(強制的・規範的・模倣的同型化)と、少し分類の視点が違います。
 このように見ると、経営者が会社組織を作り上げていくプロセスとして、3つのきっかけがあるが、結局は市場での競争に勝ち残るモデルを作り上げ、業界スタンダードにまで磨き上げる(競争的同型化)、という会社組織を作り上げていくストーリーとして見ることも可能でしょう。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 内部統制の問題は、経営者のツールとして組織が一体として活動し、その際、適切にリスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)が確保されることを目標とします。端的には、何度か取り上げている「衆議独裁」のシステム化ですが、そのもっとも重要なツールは、人事です。労働法、と言っても良いでしょう。
 これは、大資本形成の過程で、労働者からの搾取と非難された経営と労働者の関係について、社会全体がもがきながら作り上げたルールである、労働法という枠組みがあり、その枠組みの中で、いかに効率が良くて安全な組織を作り上げるのか、ということが、会社組織だからです。
 この観点から見ると、労働法に関わる業務を司る人事が、社会のトレンドの影響を受けやすい、ということは非常に興味深いことです。人事制度自体は、特に長期的に従業員を活用しなければならない産業であるほど、安定的でなければなりません(変化ばかりする不安定な会社には、従業員は長く定着しません)が、けれども社会のトレンドはフォローしている、という点で、会社組織は安定性と柔軟性の両立が常に模索されている様子がうかがわれるのです。

3.おわりに
 ここ数回の検討で、市場での競争方法(競争戦略の問題)だけでなく、会社組織としても、競争環境に合わせていき、正当性を獲得していく、ということの重要性が理解されました。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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