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経営組織論と『経営の技法』#52

CHAPTER 2.3.1:事前の調整としての標準化・スループットの標準化
 次に、スループットの標準化ですが、これは処理する手順を標準化することです。料理でいえばレシピ、ものづくりなどの作業でいえばマニュアルを整備することがスループットの標準化の典型例です。ファストフード店などでは、このマニュアルが徹底していますし、そのマニュアルどおりに作ることで、ある一定の能力と訓練を積めば、アルバイトであってもいつでも同じ品質のものが迅速にできるようになっているのです。
 コカ・コーラは今でもそのレシピ(コカ・コーラではフォーミュラと呼ぶ)が公開されておらず、そのレシピを知っている人は世界に2人ともいわれています。それだけ秘密にされているのは、逆にいえば、そのレシピさえわかってしまえば同じものができてしまうからだといえなす。レシピを公開しても、特定の高い技術がなければ再現できないようであれば、真似することはできないからです。
 このように、手順やマニュアルの標準化を通して、想定外のことが起きないようにするための分業による調整が、スループットの標準化になります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』38~39頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 マニュアル化は、リスク管理の観点からも特に重要です。
 たしかに、一部の論調には、マニュアル化による弊害ばかりを強調するものが見受けられます(画一的、硬直的など)。
 けれども、安全にかかわるような作業や、健康に影響を与える品質管理にかかわる作業は、マニュアル化し、ルーティン化するところがまず基本にあり、その基本の上に、柔軟で応用可能性の高いスキルや意識を育てる必要があります。
 実際、人命にかかわる事故として、ある遊園地のジェットコースターから客が放り出されて死亡した事件の事故調査報告とその分析があり、そこでは、ジェットコースター発車前のシートベルト着用の確認作業がマニュアル化されておらず、担当する従業員によってばらばらだったことが、原因の1つと指摘されています。
 このような事例は、世の中、数えきれないほど多くあり、マニュアル化こそ、リスク管理の基本中の「き」なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 前回は、インフラとしての標準化、という観点で見れば、会社制度と会計制度が、リスク管理上重要なツールである、と指摘しました。
 今日のテーマであるスループットの標準化は、作業内容の標準化ですが、こうなると、なおさら投資家による株主の牽制にとって、イメージすることが難しくなります。
 経営の内容は経営戦略そのものですが、経営戦略こそ、競争上、他社との差別化が必要な分野であり、標準化と無縁だからです。
 また、経営者へのチェックや牽制の方法も、監査手法はある程度標準化可能でしょうから、たとえば公認会計士による会計監査なども、標準的な手法によってある程度のチェックや牽制が可能になりますが、しかし下手に標準化しすぎると、悪意のある経営者はその裏をかいた悪だくみを簡単にできてしまいますので、マニュアル化には限界があります。
 たとえば、経営の手法として、人気の店を多店舗化するためにマニュアルの活用が上手かどうか、という経営者の資質を見極める一つの要素として、ここでのスループットの標準化がツールとなるかもしれません。

3.おわりに
 世の中では、マニュアル化の弊害の方ばかり強調されますので、マニュアル化のデメリットは容易にイメージできるでしょうが、冷静にメリットとデメリットを見極めましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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