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経営組織論と『経営の技法』#271

CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ②入手先の増加
 資源依存を回避する戦略は、さらに2つに分けられます。
 1つは、資源の入手先を増やすことです。入手可能性が特定の組織に限られる場合、資源の依存度は高まってしまいます。そのために、別の組織からの資源を得られるようにすることで、資源の依存度を下げることができます。たとえば、特定の小麦粉を取り扱っている別の業者を探すことで、これまで取引をしていた業者は簡単に価格を上げるといった行為がとりにくくなります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』250頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 原料の入手先が増えると、会社組織内にはそれを管理する業務が増えます。管理コストの面から、逆に取引先をあえて一社に絞る戦略もあります。この場合には、その取引先も当社だけが納入先になれば、前回#270で検討したような「相互」依存関係となり、不自由さが相殺されます。つまり、取引先を絞ることによるメリット(管理コスト削減)が、そのデメリット(資源の依存度を高める)を上回る場合には、上記本文のような対応(入手先の分散)を選択しない方が合理的です。
 つまり、上記本文のような対応(入手先の分散)を選択するのは、取引先を絞ることによるメリット(管理コスト削減)が、そのデメリット(資源の依存度を高める)を下回る場合と考えられます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者には会社を強靭なスポーツ選手のように鍛え上げてもらい、市場での競争に勝ち続けてもらうことを期待します。投資したお金を増やし、回収することが経営者のミッションであって、会社はそのためのツール・競争手段だからです。
 このように見ると、スポーツ選手が競争で勝つために、競争環境を整えることも重要であることが分かります。ビジネスをスポーツとしてみると、審判は市場での購入者であり、その勝敗や特典は売上金額の多寡によって決せられます。けれども、競技自体が公正でフェアに行わなければなりません。市場の健全な競争環境がなければ経済も発展しませんから、独占禁止法や下請法により公正な取引やその環境が定められ、公正取引委員会によってそのような環境が守られているか監視されています。
 その中で、資源の依存度を背景に不当な要求をすることになれば、フェアな競争を阻害するでしょう。これらのルールに違反する可能性も出てきます。このような場合には、市場環境を公正なものにするため、不当な要求に屈せず、公正取引委員会などと共にこれを是正するために行動すべきときがあるかもしれません。
 そもそも経営者は、市場での競争に勝つために、会社組織を鍛えて体を鍛え、市場での競争の技術を高め、実際に市場の競争でいくつもの決断をしていきます。
 しかしそれだけでなく、市場での競争環境が適切なものになるように市場やその番人である公正取引委員会などに働きかけなければならない場合もあるのです。

3.おわりに
 資源依存を回避する方策として、広く見れば、このような市場への働き掛けもあり得るところです。
 けれども、これは会社組織としての対応というよりは、会社の外に働きかける問題ですので、ここではこれ以上検討しません。2つの三角形の図で、内部統制とガバナンスの問題を示していますが、さらにその周囲の環境問題(市場など)も問題になることを理解しておきましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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