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経営組織論と『経営の技法』#265

CHAPTER 11.1.1:資源の依存度の要因 ①3つの要因 ❶資源の重要性の要素(取引量)
 1つは、その資源の相対的な取引量です。これは、自分たちが取引している資源に占める特定の資源の割合を指します。これが大きいと、資源の重要性が高くなります。たとえば、パン屋さんにとって、小麦粉の相対的な取引量は高くなります。なぜなら、パン屋さんの商品はほとんどパンであり、パンを作るには小麦粉が不可欠だからです。ですから、パン屋さんは小麦粉を卸す業者に対して依存度が高くなり、業者が小麦粉の値段を高くするといっても受け入れなければならないかもしれません。小麦粉を仕入れられなければ自分たちの商品が全く作れなくなってしまうからです。しかしもし、パン屋さんがスープや惣菜なども手がけるようになれば、それらにはあまり小麦粉を使用しませんから、小麦粉の相対的な取引量は減ってくることになります。
 たとえば、このような状況で同じように小麦粉の値段を高くするといわれても、スープや惣菜で売上げを維持できると考えられれば、その要求に対して強い態度で臨むことができます。依存度が低くなっているために、影響力を受けなくて済むのです。このような相対的な取引量は、組織の事業が単ーか多様かによっても変わってきます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』247頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 取引先が強力な影響力を有する場合に、その悪用を防止する、という健全な取引環境を維持するのは、独占禁止法や下請法などの経済法の領域の問題です。
 また、ビジネスの柱を一本だけでなく複数本にし、リスク分散を図るのは、経営戦略の領域の問題です。
 このように、会社組織に影響を与える内部的な事情(その中でも、外部環境と連動している事情)を知れば、小麦粉の供給量や価格の変動に対応するために、a)経済法的な対応方法(公正取引委員会に通報するなど)、b)経営的な対応方法(2本目、3本目の柱となるビジネスを育てるなど)のほか、c)これから検討される経営組織的な対応方法もイメージできるようになります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者に求められるのは、a)~c)のいずれが正しいのかを延々と議論するのではなく、それぞれの長短や実現可能性、組み合わせの良し悪しやそのバランスを見極め、決断し、実行していく能力です。決断にはリスクが伴いますが、儲けることがミッションである以上、リスクを取ることが経営者の役割りであり、その前提としてリスクを見極め、適切にコントロールすることが必要です。
 このように、様々な手法を知るだけでは足りず、実際にそれらを使いこなし、リスクを取る決断をし、さらにそれを実行させていくことが、経営者に必要な資質となります。

3.おわりに
 さらに、法的な手法としては、小麦粉の販売業者との取引条件を契約で定める際に、将来の価格変動のリスクや取引量の変動のリスクを、取引先に負担してもらう契約にすることも考えられます。
 けれども、そのような契約条件を相手に了解してもらえるかどうかは、その背景となる契約当事者の力関係次第です。ここでは、特に小麦粉に関する依存度が強ければ力関係上強く交渉できなくなってしまう、という事態を問題にしていますので、すなわちここで示したような条件の契約を締結できないような事態になることの問題を検討していますので、議論の目的と手段の関係を間違えないようにしてください。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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