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経営組織論と『経営の技法』#155

CHAPTER 7.2.2:適応行動としての制約された合理性モデル ②価値判断と事実判断
 話を戻して、このように制約された合理性による意思決定の中で、より合理的な組織にするにはどのようにすればよいでしょうか。そのことを考える前に、組織活動における意思決定のタイプについて考えたいと思います。
 組織活動における意思決定は、大きく2つに分けることができます。1つは、「何をすべきか」ということを決める目標決定にかかわる意思決定(価値判断の意思決定問題)であり、もう1つは「どのようにすべきか」ということを決める手段の選択にかかわる意思決定(事実判断の意思決定問題)です。
 これまでの話からわかるように、組織では一般的には何をすべきかという価値による意思決定はより組織の上層部、どのようにすべきかという手段による意思決定は、より現場レベルで行われることになりますし、そうでなければ良い組織とはいえません。
 このうち、価値による意思決定は組織の目標やポリシーにかかわる意思決定ですから、しっかりと考慮したうえで意思決定がなされるべきですが、手段による意思決定は同じようなことが組織で繰り返し起こることもあります。その際に、いちいち満足化原理によって考えるよりは、あらかじめ組織として決めておくほうが組織活動はスムーズに進みますし、統一的な行動をとることができます。
 たとえば消防署では、火事の通報が人ってから出動し、消火活動を行うまでの活動はプログラム化されています。つまり、火事の通報が入ってからいちいち対応を探索し、決定していくのではなく、あらかじめ定 まったやり方によって活動をしています。消防署のメンバーは、手続きや活動の手順、役割分担やルールなどいくつかのパターンを事前に把握し、その中から適切な活動を選択し、組織活動を行っていきます。そしてそのための訓練を繰り返し行っています。つまり、事前に意思決定の範囲を狭くし、スムーズな組織活動を行うことで、迅速な消火活動にあたっているわけです。
 さまざまな料理を選ぶことができるレストランでは、どうしてもメニューを選ぶことに時間がかかってしまいますが、メニューが2つしかなければ、それほど時間がかかることはありません。組織は繰り返し行われるような意思決定においては、ある程度活動のレパートリーを定め、その中から意思決定を行わせることで、意思決定における探索と選択のプロセスを短縮化させることができるのです。
 つまり、制約された合理性による意思決定から考えれば、組織はプログラムや手続き、活動の手順などをできる限りルーティン(日々のお決まりの手順や作業)化し、できる限り意思決定を単純化していくことが合理的ということになるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』156~157頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 現場での判断を減らすことが話題の中心となっています。
 このことは、例えば権限移譲の問題として議論したり、ルールやマニュアルによる標準化の問題として議論したりします。
 これに対し、本文では、これを意思決定のありかたの問題として議論しています。なるほど、意思決定のプロセスとしてみて、慎重なプロセスが必要なものと、逆に簡易迅速であるべきものを対比するのは、また新たな切り口を手にできました。
 つまり、このようなプロセスとしての重要性などから見て、権限移譲が可能であり、平準化が可能である、という見方もできるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者による経営判断は、よほど経営者がマイクロマネジメントをしていない限り、ほとんどが重要なものですから、「価値による意思決定」に該当するでしょう。したがって、監査などを通してガバナンスを効かせる場合に、経営者の経営の適切さを見る際には、経営判断が「慎重に」されたかどうかがポイントになります。
 けれども、会社組織の設計や運営も経営者の仕事ですが、その場合には、ここでの「手段による意思決定」についてどのようなプロセスを設けるかを考えることになりますので、経営者の組織設計・組織運営の良し悪しの問題として、チェックすべき対象になり得ます。
 このように、意思決定のあり方の違いは、ガバナンスを効かせる場合の効かせ方にも差があります。

3.おわりに
 意思決定は、組織にとって重要なプロセスです。いろいろな切り口を持っておくことは、とっても有用です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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