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経営組織論と『経営の技法』#35

CHAPTER 2.2.2:分業のタイプ
 ここまで分業のタイプについて述べてきましたが、改めて分業についてまとめてみると、図2-1のようになります。

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 この図からわかるように、これまで説明してきた分業のタイプは、完成物に対してそれぞれの分業の仕事がどのように結びつくのかという点と、それぞれの作業が工程上どのように置かれるかという点から分けることができます。
 それぞれの分業の仕事がどのように結びつくのかという点に関しては、それぞれが加算的な類型か機能的な統合かによって分けることができます。たとえばカレーライス120人分を6人が20人分ずつ担当するという分業は、カレーライス120人分を作るという仕事に対して加算的な集計になります。一方、幕の内弁当をそれぞれの総菜ごとに担当するという分業は数だけの問題ではありませんので、機能的統合になります。
 次に、それぞれの作業が工程上どのように置かれるのかという点については、直列か並列かによって分けられます。たとえば、流れ作業のような工程の場合は直列型の配置になります。カレーライスでいえば、材料を切る作業と炒める作業、そして煮る作業は工程の順番に従っていますので直列型ということができます。
 一方、並列型は同時に同じ作業を行う場合です。たとえば、120人分のカレーを6人が同時に20人分ずつ作るのは並列型の仕事の配置になります。支店を複数持つような空間的な並行分業は、この並列型の仕事の配置になる部分が多くなります。
 これまで紹介してきたいくつかの分業の例をこの図に基づいて説明すると、①シフト制のような時間的な並行分業は、仕事は加算的集計であり、直列型に配置される分業です。②直列型/機能別分業の例としては、カレーライスの材料を切る、炒める、煮る作業に分けるような分業が挙げられます。③考えることと作業をすることに分ける垂直分業もそれぞれの行動を機能別と考えれば、垂直型/機能別分業の一形態だといえるでしょう。④並列的で加算的集計の分業は、カレーライス120人分を20人分ずつ6人で分担して作るようなケースが当てはまります。⑤最後に並列型/機能別分業としては、幕の内弁当を総菜別に作るようなケースが当てはまります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』29~30頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは、昨日指摘されたさまざまな分業形態が整理されています。
 すなわち、加算的集計か機能的統合か、直列型か並列型か、という分類ですから、4類型となります。
 また、水平型か垂直型か、という分類も可能ですし、作業工程の一部についてさらに分業するような場合もあるでしょう。さらに、極端に言えば部品の数だけ、作業工程の数だけ、分けていけますから、組み合わせ方は無限大です。
 リスク管理の観点から見た場合、たとえば契約書を作る業務をどのように組み込むのか、という問題を考えてみましょう。
 まず、加算的集計か機能的統合か、という観点です。
 法務は専門性が高いということが理由でしょうか、機能的統合の形態、すなわち契約書を作るのは法務部の仕事、と整理される場合がそれなりに多く見かけられます。
 けれども、契約書は取引のツールです。揉めた場合の解決方法も重要ですが、たとえば納品のスケジュールや品質に関するルールや、決済のルールなど、取引関係の在り方に関するルールが網羅的に決められます。そして、取引に含まれる様々なリスク(たとえば、納品される原材料の品質が悪い、納期が守られない、競合他社の方が優遇されてしまう、など)と、それをどのようにコントロールすべきなのか、という方法については、実際に業務を担当する部門の方が詳しいはずですし、実際に取引相手との力関係も踏まえてどのようなルールにすることが好ましく、かつ、現実的に可能なのかについて、法務部がわかるはずがありません。もちろん、法的に専門的なアドバイスが必要な部分(知的財産権、独禁法、反社会的勢力、個人情報保護法などの各領域)もありますが、本来的な業務そのものが円滑で合理的に進むことがまずもって重要なはずです。
 このように見れば、契約書を作成する業務を機能的に切り出すよりは、各担当部門に対応させた方が好ましいと考えられます。
 次に、直列型か並列型か、という観点です。
 契約書は、会社の事業予算からお金を引き出したり、経費を清算したりするための必要書類であって、そんなに大差あるものではないから、色々な申請書類と一緒に、取引が決まった後に最後の段階で作成すれば良い、と整理される場合がそれなりに多く見かけられます。
 けれども、契約書を両社で確認する段階になって、この条項はおかしい、こういう約束のはずだ、と認識の食い違いが明らかになるようなことが発生します。そこまでいかなくても、条件の細かいところを再確認しながらやり取りし、表現を確定していくと、意外と時間がかかってしまいますが、そうすると、既に合意ができていると思っている担当部門から、書類作るのに、一体どれだけ時間がかかるんだ、と不満が出されます。
 このように、直列型の場合には、契約内容の交渉と、それを契約書にまとめ上げる作業の2段階になり、かえって時間と手間がかかってしまいます。
 これに対し、契約内容の交渉の際に合わせて契約書の内容も決めていく、という並行型の場合には、一見すると作業量が増えるように見えますが、実際は、たとえばこちらから希望する取引条件を、全て反映させた契約書を相手会社に示し、これに対して相手会社として受け入れ可能な条件を反映させた契約書で返してもらう、という方法で交渉すれば良いだけのことで、新たな作業が別に発生するわけではありません。さらに、この契約書でのやり取りに際して、たとえば知的財産権に関するルール等、本来の取引そのものではない、周辺部分のルールも同時並行で調整していくことができます。どういうわけか、ビジネス側の担当者は、パワポのような資料のやりとりで取引条件を決めたがりますが、結局、契約書の形にするのですから、パワポのような資料は補助的な説明資料や、どうしても必要であれば契約書の一部として契約書に添付すれば良く、契約書としてどのような形で調印されるのか、という最終形態まで見届けようという意識を持つべきなのです。
 以上のように、リスク管理のツールとしてイメージしやすい契約書を作成する業務について、本来の取引交渉の業務と、どのように分業すべきか、という観点から、分業の方法論をリスク管理にも応用してみました。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 株主と経営者の関係について、「分業」という観点から見た場合、経営全般を経営者が担い、株主はその様子をチェックする事後監査のような役割を担う、という形で整理することも可能でしょう。
 「所有と経営の分離」の観点から見れば、所有者である株主は、ある意味で無責任なのですが、実際は、会社経営で儲けてもらうことを期待しており、会社経営がうまくいって儲かる、という点では、株主と経営者は利害が一致しています。その点で、会社経営がうまくいくために、役割分担している、という見方もできるはずです。
 そうすると、株主と経営者の関係は、機能的統合であり、直列型となるのが、原則ということになるでしょう。なぜなら、「所有と経営の分離」により、経営者に経営の全てを任せているため、経営に口出ししないのが原則であり(その分、経営者の責任も重い)、事後的なチェック(決算報告など)はともかく、事前の経営方針の決定や指示は、よほどのことがない限り想定されないからです。

3.おわりに
 契約書を作成する業務に関し、分業形態の分類方法を活用して整理してみました。
 このように、ここで鈴木教授に教えてもらった分業形態の分類方法は、会社組織の設計の観点で役に立つのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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