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経営組織論と『経営の技法』#258

CHAPTER 10.3.2:実践共同体における学び ①2つの段階
 私たちは、組織内外のこのような実践共同体での活動を通して学習をしていくと考えられるのです。たとえば、組織の中のプロジェクトチームも職場も、会社の外の交流会も学校も部活も実践共同体といえます。私たちは、この実践共同体にメンバーとして参加しながら活動をし、だんだんとそこでの役割を変えながら、実践共同体の活動に関与していくことになります。
 たとえば、仕事においても新人は、いきなり大きな仕事を託されることはほとんどありません。先輩について一緒に仕事をしたり、先輩や上司の仕事のサポートをしたりします。また1人で仕事をするにしてもその職場のメインの仕事ではなく、小さめの仕事をするのが普通でしょう。
 しかし、社会化プロセスを経て、仕事ができると認められると徐々に大きな仕事を任されるようになります。あるいは後輩が入ってくれば、指導役を任されることもあるかもしれません。そして、先輩たちが職場を離れていくに従って、大きな仕事を任され、職場の中心的な存在となっていきます。
 そのプロセスにおいては、知識や能力を習得するだけでなく、職場の活動の理解や自分自身の役割の認識も学習し、変わっていきます。つまり、実際の仕事の場面では、その人の実践共同体への参加の形が変わることと、その人の行動とそれを通しての実践共同体の理解、そして自分自身の役割認識などが連動して同時的に変化していきます。その中でより実践に根差した知識や能力、技術を習得していくことになります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』233頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは、補助的な仕事(第1段階)からメインの仕事(第2段階)に変化していく様子と、それに伴って学習の方法や内容が変化していく様子が解説されています。
 組織を設計し、プロセスを設計する中で、従業員の役割や責任、経験などに応じて役割などを変えるのは当然のことです。また、それによって学習してもらいたいことが変わってくるのも当然のことです。
 内部統制の観点からも、従業員に感じ取ってもらいたいリスク(リスクセンサー機能)は、それぞれの役割や権限、責任によって異なりますから、ここで検討されていることは、(これまで検討してきたとおり)リスク管理の問題と教育・学習の問題に共通する視点となります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者は従業員の能力と意欲を高めることが要求されますが、そのための万国共通のツールが、出世(人事)です。出世をちらつかせて頑張らせるわけですが、それに能力が伴わなければ、お互いが不幸になりますから、能力向上の機会も与えなければなりません。
 したがって、経営者にとってツールとなる「人事」との関係でみると、学習や教育の機会を与えるということは、経営者の有する人事権のツールとしての効果を高めることになります。つまり、経営者は自分の経営能力を高めるためにも、株主の負託に応えるためにも、従業員に学習や教育の機会を与えるべきです。
 まさに、「情けは人の為ならず」の本来の意味が当てはまるのです。

3.おわりに
 器が人を育てていく面と、成長するからこそ機会が増えていく面と、両面があります。
 前者の欠点は、従業員が自分で積極的に活動を起こす契機が弱まるところです。だからと言って、後者のように従業員が自分で積極的に活動を起こすことを待っていることも、現状に妥協することを促しかねません。
 このように、従業員に学習や教育の機会を与える場面でも、バランス感覚が重要になります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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