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経営組織論と『経営の技法』#194

CHAPTER 9:個々人の成長を促す
 ここまでの章では、すでに組織が持っている能力をより有効に使うという観点から、組織の力を大きくすることを考えてきました。たとえば、個人の持っている能力を100パーセント引き出すためにモティベーションの理論があり、集団や組織の中の個人が持つさまざまな情報や考えを活かすために 集団の意思決定の理論がありました。
 しかし、そもそも組織の中の人々や組織の持つ潜在的な力が大きくなることも、組織の力を大きくする大事なアプローチです。この章では、個人が仕事の中で成長するプロセス、あるいは仕事生活を豊かにするプロセスであるキャリアについて考えることにします。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』197頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 会社で管理職や役員を経験してみてよくわかりましたが、部下のやる気を出して、元気に仕事をしてもらうために必要なのは、「お金」と「人事」です。いい仕事をすれば、ボーナスや翌年の処遇で報い、軽率な失敗をすれば、しっかりと罰する、という「信賞必罰」が、昔からの人事の基本であり、松下幸之助氏もその重要性を繰り返し述べています。実際、松下幸之助氏の指導は、ものすごく褒めるときと、非常に厳しく叱るときと、メリハリがはっきりしていたと言われます。
 しかも、人件費には限界がありますから、「お金」で喜ばせるには限界があります。
 そこで、社内での出世をチラつかせるなどの、「人事」が、信賞必罰を形にするための最大のツールになります。ここでチラつかせる「出世」などが、キャリアパスになります。
 実際、法務部の場合には、社内弁護士と一般の法務部員が混在していましたが、社内弁護士については、主に会社を出た後のキャリアパスについて、法務部員については、主に会社内でのキャリアパスについて、将来の相談に応じるだけでなく、実際に法務部出身者が活躍している実例を作り、キャリアパスを実感させることが、メンバーの意欲を高めるために効果的でした。
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見ると、会社組織を人体に例えた場合、リスクセンサー機能は全従業員が担います。人間のからだ中に巡らされた神経が、蚊に刺されたような微細な情報まで脳に届けることで、体に対する危険を相当程度、早い段階で察知できるのですが、この神経の役割は、会社組織の全ての業務に及ぶはずです。なぜなら、会社が社会と接するあらゆる場面で、何らかのリスクが存在するからです。
 そうすると、従業員の意欲を高めることは、このリスクセンサー機能を高めることですから、キャリアパスを従業員に示すことは、会社のリスクセンサー機能を高める重要な役割を果たしています。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 上記のように、モティベーションを高めることも大事ですが、さらに重要なのは、従業員全体の能力を高めることです。
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者のミッションは「適切に」「儲ける」ことで、会社組織はそのミッションを果たすためのツールです。つまり、実際に事業活動を行って「適切に」「儲ける」のは、会社組織です。そして、儲けるためには、会社組織が市場での競争に勝たなければなりませんが、そのためには競争環境に応じて常に変化し、成長しなければなりません。競争相手の同業他社も、競争に勝つために持続的に変化や成長しているからです。
 このことからも、従業員の成長が重要であり、そのための教育などが重要な経営ツールとなってくるのです。

3.おわりに
 成長の機会を与えることは、従業員に長く勤めてもらうために必要なだけではありません。転職しながらキャリアアップするタイプの従業員にとっても、この会社で新たな能力や経験が得られる、したがって次の転職で有利になる、と思うからこそこの会社に転職してくれるからです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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