経営組織論と『経営の技法』#291
CHAPTER 11.3:ネットワーク型組織
第4章ですでに述べたように、現代の企業組織は、製品や技術が複雑になったことや、広範囲の市場をカバーする必要があることなどから、ほとんどの場合、他の組織とのネットワークを持ちながら組織活動を行っています。そして、その組織間のネットワークのタイプはさまざまです。その中には市場取引によって取引ごとにつながりを作っていくような関係もありますし、特定の強い組織を中心に強固な階層(ハイアラーキー)でビラミッド型に構成された関係も、ネットワークによって構成された組織形態といえます。
しかし、戦略的提携などで結びついた組織など、組織を束ねる原理としてこれらとは異なる原理を持った組織形態もあります。このような組織形態をネットワーク型組織と呼びます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』261頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
ネットワーク型組織の意義ですが、組織の内と外の境界がなく、例えばその組織の1つの部署の中に、厳密にいえば社外の人間も含まれるような場合として説明されています(4章)。
これを前提にすると、大きな意味での会社組織の中に、メンバーや部門として従業員でない者や会社部門と違うチームが組み込まれている組織のことをネットワーク型組織と言うようです。そうすると、会社組織論の中に、これまで検討してきたような社外のコミュニケーション論が組み込まれていくことになります。
このような形態は非常に少ないように思うかもしれませんが、決して例外的な現象ではありません。
例えば、大きなシステムを抱える金融機関では、システム会社の従業員やチームが会社システムの開発や保守のために会社に常駐し、従業員と一緒になって仕事をしています。また、総務業務をアウトソーシングしたり、税理士に会計帳簿を定期的に見てもらったりしますから、社外のリソースを活用する場面は意外と多いものです。
もっとも、ここでの議論を見ていると、このように会社組織の中に社外のリソースが組み込まれたような場合ではなく、(リーダーとなるべき会社が存在するかもしれませんが)複数の個人や会社が関与して仕事を進めているような状態を「組織」として、より広く捉えているようです。そこでは、契約的な手法(契約に基づく義務の履行を求める手法など)や労務管理的な手法(人事考課に基づく動機付けなど)が使えない場合と位置付けているからです(次回#292)。
このような、より広い「組織」をイメージし、その特徴を検討しましょう。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、社外のリソースをあたかも自社の組織の一部として結び付け、使いこなすことが求められることになります。
たしかに、法的に見れば社内のリソースは従業員ですから、労働法によって規律されます。そこでは、解雇が自由にできないなど、従業員の生活を保護するための厳しい規制があり、労務管理が会社の重要な経営問題・政策問題になります。他方、社外のリソースは取引の相手方であり、業者ですから、(それが仮装でない限り)労働法は適用されず、契約によって定められたルールによって規律されます。その分、独立した事業者として自己責任で業務遂行してもらうことが前提になります。取引先の管理は労務管理よりも難しくない、というのがこれまでのビジネス上の感覚でしょう。実際には、後者でも会社の責任が軽くならない場面が増えてきており、後者のコストや手間、リスクに関する優位性は相対化していることは、注意が必要です。
けれども、経営者としてはこのようなリソースの特性も考慮し、経営資源の配分を適切に行うことが求められるのです。
以上が、会社組織に社外のリソースを組み込む場合のリーダーシップですが、上記のように複数の個人や会社が関与するグループのような状況を考えると、経営者に求められる能力はより幅広くなります。すなわち、契約や人事権のような裏付けのない状況でメンバーをまとめ上げ、方向付け、動機づけなければならないからです。このような、より緩い集まりでのリーダーシップについては、前回まで検討してきたことですので、ここからはこのような緩い集まりを、その特徴に応じて状況を整理します。
3.おわりに
緩い集まりをまとめ上げ、方向付け、動機づけることで成果を上げていくことは、会社組織をまとめ上げていく場合と違った能力、特にコミュニケーション能力が必要となります。コミュニケーション論の中で論じられている理由もここにあるように思われます。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。