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経営組織論と『経営の技法』#268

CHAPTER 11.1.1:資源の依存度の要因 ①3つの要因 ❸資源の統制力
 資源の依存度を決める3つ目の要因は、他の組織が持っている資源の配分や使用法の決定に対する裁景権の大きさです。別の言い方をすれば、資源の統制力です。自分たちにとって必要な資源を持つ組織に対して、もしその資源の配分や使用法に関して裁量権を多少でも持てれば、依存度は低くなります。反対に、資源の使用について何も口を出せなければ、依存度は高くなってしまいます。
 たとえば、特定の小麦粉を扱う業者に対して、パン屋さんは依存度が高くなりますが、もしその小麦粉業者の経営に口を出せるような何らかのパワーがあれば、自分たちに小麦粉を供給することを止めるということは起きにくいですから、依存度は低くなります。
 逆にいえば、希少な資源を持っていてもその使用について自分たちで決められなければ、他の組織の自分たちの組織への依存度は低くなってしまうともいえます。たとえば、大量の顧客情報はそれを持つ組織にとっては重要な資源であり、その情報を欲しいと思う他の組織は少なくありません。しかし、もしその情報を得るときに、使用制限をきちんと定めてあれば、情報を持っている組織は、簡単にその資源をもとに他の組織に影響力を及ぼすことはできません。
 これを別の視点から見れば、このような規制や法律を定めることができる行政や機関は、定められる組織に対して依存度が高くなるといえます。自分たちが持っている資源の使い方について、ルールを決めることができるのであれば、ルールを決められる組織は、資源を持っている組織に対して依存度が高くなるわけです。銀行が監督官庁に対してその指示を受け入れるのは、監督官庁が銀行のさまざまな資源の使用に関して制限を加えることができるからなのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』248~249頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 上記本文では、内部統制というよりも、会社の外に対するコントロール・統制力による資源の依存度への対応が示されています。
 すなわち、統制力が発揮されれば資源の依存度が低くなりますから、統制力を発揮する側にとっては、自分が受ける資源の依存度を下げ、自由度が増します。他方、統制力を発揮される側にとっては、せっかく有する資源の依存度の影響力が下がってしまうため、事業の優位性が低下してしまいます。
 問題は、このような会社の外との関係での統制力ですが、統制力を発揮したり、逆に統制力を発揮されたりする会社内部の会社組織にも影響がある点です。
 例えば、統制力を発揮する側の場合、自社だけでなく他社もコントロールすべきルールや権威、権力を手にし、それを使いこなすことが必要になります。そこで、これをどのように獲得し、使うべきかを見極める判断能力や、実行すべき行動力が必要となりますので、会社組織にもそのような機能が備わり、成長していきます。上記本文の例で言えば、ルールを作る行政機関には、ルールの在り方を検討したり、その実行状況を検証したり、さらにその適切な運用を強制したりする機能が備わるようになりますので、組織構造としても、これら機能を所管する部署が独立して設置されるなど、これに沿ったものになります。
 他方、統制力を受ける側の場合、統制力を発揮する側から受ける影響を見極め、これに対応できなければなりませんから、会社組織にもそのような機能が備わり、成長していきます。上記本文の例で言えば、銀行は金融庁の要求を分析し、対応を検討し、社内に指示すべき「コンプライアンス部」「調査部」のような機能を独立させ、強化することになります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、経営者は、統制力を発揮したり、受けた統制力に対応したりするだけでなく、それが経常的に起こる場合には、上記のように会社組織自体もこれに対応して変化させなければなりません。経営者は、会社組織の在り方についても経営判断を行い、対応する必要があるのです。

3.おわりに
 統制力自体に話を戻すと、会社組織が市場で競争し、そのために会社組織を作り上げますが、競争の際に競争相手である他社に、本来の競争とは異なる影響力を行使する場合もある、ということが分かります。純粋な競技から見ると、何かずるい気もしますが、それぞれの会社も社会や市場での生き残りに必死です。行き過ぎは独占禁止法や下請法など、経済法のルールに違反しますが、そうでない限り止むを得ないことでもあり、それをどのようにコントロールし、対応するかを考えなければなりません。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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