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経営組織論と『経営の技法』#186

CHAPTER 8.3.2:3つの制度的同型化 ④規範的同型化
 規範的同型化は、主に専門職化することから生じる同型化です。専門職化とは、専門的教育による知識に甚づく資格によって正当化される専門職のコミュニティの成長を意味します。この専門職化によって、同じ専門職である人々の間でネットワークができ、そのネットワークによって、さまざまな組織規範が組織間を横断して伝わるようになります。そして、それらの組織規範が組織内の専門従事者を通じて、組織に導入されることで、同じ組織フィールドの組織が同型化していくことになります。
 たとえば、動物園では近年、猿なら猿の仲間といったように分類学上に近い動物たちをまとめて展示する分類展示からアフリカエリアやアジアエリアといったように地理的に近い動物をまとめて展示する地理学展示へと変わってきました。最近ではサバンナ地域など同じ環境で生息する動物を1カ所に展示する生態展示や、旭山動物園(北海道旭川市)に代表されるように、動物の特徴的な行動を見せる行動展示へと展示方法は変遷してきましたが、1つの展示方法が生まれると、その展示方法が支配的になり、全国の動物園がそのような展示方法になっていきます。これは動物園を管理する専門家の横のネットワークで、これらの新しい展示方法が共有されていくからだと考えることができます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』188~189頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から、リスクをコントロールする機能としてみると、リスク管理部やチーフリスクオフィサー、リスクマネージャー等のリスク統括機能が、規範的同型化の面が強いように思われます。
 日本では、これらのリスク統括のイメージが十分浸透していませんが、欧米の製造業者等では、リスク統括の機能はかなり浸透しています。様々なリスクは、その多くが現場で気づかれ、現場でコントロールされるべきですが、会社全体の経営政策に関わる判断のためには、それら全体を把握し、評価し、コントロールする方法を考えなければなりません。必要なリスクを取ってコントロールすることが、チャレンジのために必要だからです。
 現在、リスク統括機能について、アクチュアリーなどの統計数理の専門家を社内に雇われ始めているなど、経営に役立つリスク統括のあり方が実験され、情報交換されている状況です。日本企業も、リスク統括機能の検討・導入に熱心ですが、そこでは、リスク統括の専門家同士の交流を通してそれが行われているのです(PARIMAが、その具体例になります)。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ここで紹介したリスク統括機能は、製造業全般に応用されれば、と思いますので、少し適用される領域が広くなりますが、組織フィールドの一種と言えるでしょう。本文でも、組織フィールド内での「規範的同型化」が一般的とされています。
 そして、規範的同型化には、他の同型化と同じく横並びの要素がありますので、差別化を競う経営者にとって好ましくない面がありますが、けれども、競争相手のノウハウを吸収するという面もあります。要は、同業他社の良いところは真似をし、悪いところは反面教師にする、というためには、まずは同業他社の様子を知る必要があります。
 そこで、会社が大きくなってくると、このような機能を会社の中に持たせることが多くなります。経営者として、同業他社の情報がどうしても重要になってくるからです。同業他社とべたべたでも困りますが、適切な距離を見極めるためにも、経営者は「規範的同型化」も視野に入れ、同業他社の情報収集を適切に行うべきです。

3.おわりに
 規範的同型化は、社外にネットワークを持つ専門家を活用することでもあります。専門家を会社に雇うことについて、この点もメリットとしてカウントしましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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