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経営組織論と『経営の技法』#129

CHAPTER 6.1.2:組織文化の利点 ②動機づけ
 また組織文化には、ある方向へのコントロールだけでなく、モティベーションを高める機能もあります。なぜなら、組織文化が共有され、ほとんどの組織メンバーが同じ価値観や行動規範、あるいは意味システムを持つ中で活動することは、互いに気心が知れ、居心地が良いことが多いからです。誰もが、自分と同じような価値観を持つ人には親近感が湧くでしょう。そして、このような組織文化による動機づけは、給与や昇進といった報酬による動機づけに比べて良さもあります。
 1つは、先ほどと同様に、環境や状況が不確実な中で働いている人への動機づけです。環境や状況が不確実だと、適切な行動の判断が難しくなります。つまり、何が適切な行動なのかがわかりにくくなります。そのため、報酬を与えるために必要な公正な評価が難しくなるのです。
 2つ目の良さは、報酬は、給与であれ昇進であれ、使える資源に限りがありますが、組織文化にはそのような資源の制約がない点です。組織の中に報酬に使える予算やポストに限りがなければよいのですが、実際は予算やポストには限りがあります。つまり、その報酬を与える人を限らなければならず、モティベーションが上がる人が限られることになります。
 一方、組織文化は等しく組織のメンバーに影轡を与えることができるため、その制限がありません。組織文化は、単に人々の行動を揃える機能を持つだけでなく、組織文化によって積極的な行動を引き出す、動機づけの機能も併せ持っているのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』132~133頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 2つ指摘されているメリットのうち、1つ目は、曖昧で分かりにくい指示や状況下で、自分で判断して責任を負わされるよりは、(報酬が多少少なくても)何をすべきかはっきりしている方が良い、ということでしょうか。たしかに、自分が何をしたらいいのかわからない状況はストレスを感じますので、そのような状況での判断や対応をすべき専門家やマネジャー、経営者でない限り、割に合わないと感じるでしょう。
 いずれにしろ、モティベーションを高めることも、リスク管理上重要なことです。たとえば、リスクセンサー機能は全従業員が果たすべきですが、マニュアル等で指示した事項を報告するだけでなく、各部門の担当者だからこそ感じることを報告してもらうことで、会社全体の感度が上がるからです。
 リスク管理も含め、質の高い仕事をしよう、という種類の組織文化で意欲を高めることが重要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 以前にも指摘したとおり、欧米の経営者は、組織文化を意識的に作り、高めていこうと、さまざまな施策を行います。社員向けの福利厚生の一環でしょうが、イメージづくりの部分に相当のコストを割いている感じです。
 けれど、この点はかつての日本でも、似た部分があります。社内運動会や社員旅行など、この会社にいて良かった、と思われる雰囲気や組織文化作りにコストをかけています。
 それを考えると、組織文化についても資源の限りがあると言えなくもありませんが、特に重要なのは、いろいろな立場や考えの従業員に等しく影響を与えられるところでしょう。職位の高い者から低い者まで、営業や現場の従業員から、スタッフ職まで、同じ背景で、同じように動機づけできるところが、不公平感を生みにくく、使いやすい理由と思われます。

3.おわりに
 組織文化のツールとしての効力に関し、前回は方向づけ、今回は動機づけでした。ベクトルの方向と長さ、と言えるでしょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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