松下幸之助と『経営の技法』#252

10/24 対立しつつ調和する

~正しい意味での競争を行いつつ、その対立、競争の中に調和を見出していく。~

 その業界に属する店がそれぞれに健全で、お客様に信用されるものでなければなりません。もしそうではなく、業界の中に不健全なお店が多ければ、「あの業界はダメだ。信用できない」ということになって、業界全体としても共同の大きな損害を受けることになってしまうと思うのです。
 そういうことを考えてみますと、お互い商売を進めていく上で、自分の店を健全なものにしていくことがまず第一に大切なのはいうまでもありませんが、それと同時に、他のお店ともうまく強調して、業界全体の共通の信用を高めるということも配慮していかなければならないと思います。もちろんそうはいっても、他のお店と仲よくすることのみにとらわれて、互いに競争するという姿が生まれてこないということではいけません。そういう競争のない状態からは、業界の進歩、発展というものはやはり生まれてこないでしょう。ですから、お互い正しい意味での競争、秩序のある対立というものは大いに行わねばなりませんが、その対立、競争の中に調和を見出していく。つまり対立しつつ調和することによって、自他ともの健全化を考え、同時に業界全体の信用を高めることを考えていくことが肝要だと思います。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ここでは、いつもと順番が違いますが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここでは、主に経済市場での競争環境の問題がテーマになっています。競争相手が必要だが、競争環境は健全でなければならない、という、市場競争の在り方に関するお手本のような話です。
 特筆すべきは、松下幸之助氏はこのことを、かなり早い段階から主張し、その実現に向けて自分自身もできることに取り組んでいた点です。競争の効能や、競争の結果訪れるであろう理想の社会など、様々な観点から、競争環境について論じているのです。
 これは、ズルいことをせずに、真っ向から勝負を続けてきたことや、その中で会社が信頼され、成長してきたことが、大きな原因となっているようです。
 松下幸之助氏はベンチャー企業の走りのようなものですが、ニッチなところから事業を開始しても、いずれ競合他社が現れたときにどのように対応するのかについて、経営者の個性が出てきます。馬鹿正直に正面から勝負を挑むばかりがあるべき道とは言いませんが、いつまでもニッチの世界での独占状態を夢見て、ズルい方法に走る経営者もいる中、松下幸之助氏の発想は、今後のベンチャー起業家にとっても参考になる言葉が多いはずです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 会社は、経営者のミッションを遂行するためのツールですので、経営者の考えを忠実に形にし、実行できることが、まずはその出発点となります。いや、皆が自由にやりたいようにやる会社もあるじゃないか、というかもしれませんが、自由にやりたいようにやらせたい、という経営者の思想や意向が現実化しているという意味では、経営者の考えを忠実に形にしている、ということに変わりありません。
 ここでは、健全な競争を行い、互いに切磋琢磨し、業界全体の信頼も高める、という経営者の意向を実現するために、健全な競争を行う会社に作り上げることが必要となります。
 特に、競争のルールを守る、という点ではコンプライアンスを会社全体が遵守することが重要となりますし、実際に競争によって自社の製品やサービスの品質に磨きをかけていく、という点では全従業員が一丸となって目標に向かって努力を重ねていけるような風土や組織、運営が必要となってきます。それぞれの目標の為に、経営上考えられる様々な施策を組みあわせ、実行していくことになります。

3.おわりに
 先日、テレビの経済情報番組で、業界の2強対決を特集していました。そこでは、主に対立の苛烈さと、それによって商品やサービスの質がどのように向上したのか、が紹介されていました。当事者にって苦しいことですが、それが2強双方の魅力を高めている様子も、明らかに伝わってきました。
 自社の発展だけでなく、業界全体の発展も視野に入れていたこと、そのためには馴れ合いではなく健全な競争が必要と見ていたこと、など、松下幸之助氏の先見性は、やはり卓越しています。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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