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松下幸之助と『経営の技法』#255

10/27 生かしあう時代
~日本と日本人の特質を正しく把握する。その上で、他国から学び、吸収する。~
 日本人であるならば、日本なり日本人としての特質というものを正しく理解し、これを正しく他の国々の人に伝えつつ、共同の幸せを求めていくことが大切だと思うのである。もちろん、国際化時代には、他国から学ぶものも一層多くなるだろう。その点は、謙虚に学び、素直に吸収していかなければならない。新しい知識、新しい技術を、人類共有の財産としてともどもに生かしあうところに、人間の進歩があり発展があるからである。
 しかし、国際化時代においては、大いに学び、吸収するだけであってはならない。日本からも諸外国に積極的に伝え、これを参考にしてもらうものがなければならないと思う。それは経済的なものだけでなく、伝統とか文化とか、ものの考え方とか、そういった物心両面にわたって考えられるのではないだろうか。
 つまり国際化時代は、世界人類が、ともに教え、ともに学び、それぞれの知恵と体験を生かしあっていく時代なのである。それだけに、お互い日本人は、世界全体をみつめるとともに、まず自分自身なり、自分たちの国家、社会そのものを、しっかりと把握しておくことが先決であるといえよう。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 経営戦略のうちでも、市場での競争戦略は、(それが組織論に影響を及ぼすにしても)第一義的には市場の問題です。すなわち、経済学に関わる問題であり、株主の投資判断の最も重要な要素を占める市場戦略に関わります。
 そこでのポイントとしては、1つ目は、昨日の10/26(#254)で指摘したことと同じです。すなわち、中長期的な戦略から、市場を開拓するために、市場の為に貢献する戦略として、合理性が認められる点です。この点は、繰り返しになりますので、昨日の原稿をご覧ください。
 2つ目は、グローバル化の重要性です。
 例えば、日本の市場での競争には独特な規制や慣習、品質へのこだわり等があり、ガラパゴスと称されます。もちろん、日本市場で評価されれば世界で通用する、と称される分野もありますので、悪い意味ばかりではないのですが、日本企業は海外で評価されるために海外の市場のことを学ぶだけでなく、海外の市場で日本の製品やサービス、その背景にある文化などを知ってもらうような発信も重要だ、ということは、様々な形で指摘されていることです。日本の文化まで知ってもらえてきたからこそ、日本の製品やサービスが広く受け入れられてきている、という主張に、経済的な裏付けがどこまであるのかわかりませんが、実感としては理解できるところです。例えば、アメリカが世界経済の主役になったのは、ハリウッド映画などを通したアメリカ文化の発信と、それによるアメリカへの親しみや憧れの影響が大きかった、という指摘には、なるほどと思わせるものがあるでしょう。
 しかし、このいずれの点も、最近では相当の合理性を理解できますが、松下幸之助氏はこのことに相当早い段階から気付き、しかもメッセージとして概念を明確に整理し、発信していたのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 昨日の話では、従業員が「共存共栄」の意識を持つことは、仕事にやりがいを感じるであろう従業員が増えるという意味でも効果的、ということでした。
 さらに、今日の話では、従業員たちは海外で日本文化などを発信すべきことになります。単に自社製品やサービスを海外でアピールするだけでなく、一緒に日本文化も発信する、ということです。
 具体的に見ると、1つ目は、各従業員が日本を代表している、という自覚を持った言動をすることです。そのような社員教育まで必要になる、すなわち、ここで最後に松下幸之助氏が触れているように、特に海外で勤務する従業員には、日本の国家や社会をしっかりと教育しなければならない、ということになります。
 2つ目は、特に広報活動の重要性です。たしかに、外国製品やサービスのテレビコマーシャルなどの中には、その会社の母国の素晴らしさと重ねることでイメージを高めようとするものも見受けられます。けれども、ここで松下幸之助氏が述べていることは、もっと本格的な文化普及活動のことでしょう。製品やサービスのCMはおろか、企業のイメージCMであっても、それだけでは足りないことのようです。
 さて、そこまで風呂敷を広げてしまうと、本当に日本の会社がそこまで本腰を入れて日本文化の発信に取り組むのでしょうか。まだまだ少数派のようにも思われます。
 その意味で、会社組織を挙げた取り組み、というレベルまで掘り下げてみると、松下幸之助氏の発言はやはり、相当先に進んでいるのです。

3.おわりに
 このような見方に対しては、今のようにかなり自由に海外に出れる時代だからそのように見えるだけであり、海外に出ることが難しかった時代には、メーカーも、商社も、大使館も、皆が必死になって日本を売り込んでいた、日本文化の発信は、昔の方が言われなくても皆やっていたことであり、むしろ今の方が表面的で、発信力が弱いのではないか、という意見が聞かれました。
 なるほど、昔読んだ「城山三郎」の経済小説にも、このような雰囲気が色濃く漂っています。
 ただ、すぐに営業成績に結びつかなくても、相手に自分たちのことを理解してもらうための努力が必要である、ということには変わりがなさそうです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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