松下幸之助と『経営の技法』#222

9/24 人間を主体に考える

~人間あっての経営である。だからまずは、人間のあり方を考えなければならない。~

 経営といい、商売といっても、これは結局、人間が行うものである。人間が行うものであるからには、経営や商売は人間を抜きにしては考えられない。というよりもむしろ、人間を中心において考える、人間を主体に考える、ということが非常に大切ではないかと思う。
 人間あっての経営である。だからまず、人間というもののあり方を考えなければならない。よき経営を実現しようと思えば、まず人間のよきあり方について検討しなければならない。それが基盤になる。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 内部統制の問題は経営そのものであり、リスク管理もこれに含まれます(一体です)。
 そして、現在の経営学は、例えば、会社と従業員のベクトルを合わせたり、従業員のモチベーションを高めたりするなど、様々な場面で従業員の心理状態を問題にします。従業員の心の動きを分析し、それを組織運営にどのように反映させ、役立たせていくのか、という視点からの分析や研究が行われています。
 この意味で、経営に関して「人間を中心において考える、人間を主体に考える」という言葉は、経営学から見ても合理的なのです。
 問題は、人間がどうなっているのか、という人間観察にとどまらず、さらに「人間のよきあり方」の検討が必要、と人間の理想についてまで追求しようとしている点です。
 たしかに、松下幸之助氏は経営者だけでなく、管理職者や従業員に対して、どのようにあるべきかを度々説いています。
 しかし、その内容は状況や相手の立場に応じて変わってきますから、ここでは「人間のよきあり方」の具体的な内容については検討しません。むしろ、ここで問題にしたいのは、そのような様々な「人間のよきあり方」を追求する理由です。なぜ、「人間のよきあり方」が重要なのでしょうか?
 1つ目の考え方は、経営者や上司の言うことをよく聞く、忠実で働き者、というような、つまり会社に使われる「機械」「パーツ」のような人間としてのあり方を意味する、という考え方です。松下幸之助氏も、経営者、管理職者、従業員、と相手に応じて話をしていることがあり、それぞれの役割に応じた「あり方」を求めているようにも見えるのです。
 2つ目の考え方は、会社の中での便利な人ではなく、社会一般的に見て良い人を意味する、という考え方です。
 松下幸之助氏は、例えば9/22の#220では、経営理念や使命観が浸透し、従業員1人ひとりの血肉となってはじめて生きてくる、と説き、従業員は経営者の示す経営理念や使命観を共有してもらうことが重要であることを示しています。そうすると、経営理念や使命感の内容が問題になりますが、これは会社が商売で儲けて従業員やその家族を幸せにするとともに、さらに商売を通して顧客や社会に貢献することです。上げ始めるときりがないくらい、氏は、このことを様々な観点から何度も繰り返し説いています。
 したがって、松下幸之助氏には、従業員に対し、商売を通して社会に貢献する意識を持ってもらい、しかもそれに熱心に取り組むような人間になって欲しい、という期待があるように思われます。
 これは、松下幸之助氏の経営モデルの影響が非常に大きいように思われます。
 すなわち、氏は、かなり早い段階から従業員の自主性や多様性を重視し、どんどん権限移譲して任せるという経営モデルを一貫して採用し、磨き上げてきました。ところがここで、任された従業員が、松下幸之助氏と異なる経営理念や使命感を持っていては、任せた相手によって進む方向性がバラバラになってしまい、組織としての一体性が壊れてしまいます。ベクトルを合わせるために、従業員には同じ価値観を共有してもらう必要があり、「人間のよきあり方」を説く理由がここに存在するのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、従業員にも経営理念や使命観を共有してもらうのは、経営者のミッションに関わります。
 経営者は、株主から資金や経営の機会を託されていますが、そのミッションは「適切に儲ける」ことです。「儲ける」ために何をしても良いのではなく、会社が良き企業市民として社会に受け入れてもらえなければ、会社は継続的に「儲ける」ことができません。このことは、最近の数多くの品質偽装事件(食品、素材、製品など)で、マスコミや社会に非難された会社が経営の危機に瀕した例もあることから容易に理解できます。このように、「適切に儲ける」というミッションには、会社が社会に受け入れてもらえるように働きかけることも含まれるのです。
 そうすると、経営者は会社が社会に受け入れられるように導かなければなりません。そして、この経営者の「適切に儲ける」というミッションを遂行するためのツールが会社であり、その会社の中でそれぞれの業務を任されるのは従業員です。従業員にも、会社が社会に受け入れらなければならないという意識を持ってもらう必要があります。
 したがって、ここにも、従業員に同じ価値観を共有してもらう必要があり、「人間のよきあり方」を説く理由がここにも存在するのです。

3.おわりに
 製品やサービスが長い期間評価され、会社がそれだけ長い期間儲けることができるなら、それは製品やサービスが社会に役立っていて、金銭的に評価された(購入された)証拠です。製品やサービスそのもので、顧客や社会に貢献するだけでなく、それによって活気が出ることを通してさらに、貢献します。
 このように、市場で評価される商売を行うことで、顧客や社会に貢献しよう、という意識は、日本で古来からいわれている「三方良し」にもつながる発想であり、松下幸之助氏の求める「人間のよきあり方」は、(細かい部分まではわかりませんが)誠実に仕事をし、社会に貢献できる製品やサービスを作ることのようです。
 そして、会社の従業員がみな「人間のよきあり方」を体現してくれれば、会社も間違いなく発展します。
 このように、「人間のよきあり方」は、会社と社会、個人と社会をそれぞれ結びつけるものであり、それによってよい経営も可能になるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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