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経営組織論と『経営の技法』#197

CHAPTER 9.1.1:キャリア論の射程 ②仕事人生
 キャリアを考えることの意義は、自分の仕事人生をより良いものにすることです。逆にいえば、自分の仕事人生をより良くしたいと考えるからこそ、人はキャリアについて考えるのです 。これは決して組織にとっても悪いことではありません。
 なぜなら、自分の仕事人生を充実させようと思う人は、仕事に対するモティベーションが高いからです。また、仕事人生を充実させようと思う人は、仕事に対する取り組み方だけでなく、特定の仕事に対する向上心も高くなり、自分の仕事にかかわる知識やスキルを自ら習得するなど、仕事の能力を高めることに積極的になります。そのことは組織にとっても大いにプラスということができます。ですから、キャリアを考えてもらうことによって、組織の力を大きくすることができるといえるのです。
 しかしそれでも、仕事人生を終えようとする人がキャリアを考えることにはあまり意味がないのではないかと思うかもしれません。そういうわけではありません。第2節で述べることになりますが、キャリアを考えることで、社会や自分の組織、あるいは専門集団における自分の役割を理解するようになります。たとえば、現役生活が終わろうとしているスポーツ選手が、後進の指導の道を考えるように、定年間近の人であってもキャリアを考え、自分の来た道を改めて考えることで、その後の人生を有意義に過ごすことができます。
 このような点は、一見経営組織には無用のものと考えがちですし、組織の力を大きくすることにそれほど寄与しないと考えがちですが、仕事人生を終えようとしている人が、これまでの自分の仕事生活に満足していることは、そこで働く若い人にとっても励みになることは間違いありません。
 ベテランの選手がみんな、用なしのような扱いを受けて失意のうちに去っていくチームよりも、ベテラン選手が新しい役割を得て前向きに 去っていくチームのほうが、若い選手はチームに対してあるいは自身の仕事に対しても、前向きに取り組むことができるでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』199~200頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 前回(#196)に続いて、キャリアを考えることの重要性や効能が検討されています。
 つまり、キャリアを考えることが、本人に影響を与える(モティベーションを高める)だけでなく、周囲にも影響を与える(若い人の励みになる)のです。
 会社従業員のモティベーションや意欲は、リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点からも重要です。リスクセンサー機能に関し、リスクに気付く感度が変わってきますし、リスクコントロール機能に関し、リスクに対処する方法やスピードが変わってくるからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、これは経営者の資質としても重要な問題です。
 それは、従業員の能力を引き出して、会社組織全体の競争力を高めることが、経営者に期待されているからです。
 したがって、従業員のモティベーションや意欲など、会社の活気を高めるように、経営者に対してガバナンスを効かせていくことが、投資家である株主として必要なことになります。

3.おわりに
 キャリアを、仕事に関係する問題、と狭くとらえるのではなく、生活や人生と関わる問題、ととらえることの重要性を学びました。
 そのうえで、会社組織論との関係を検討していくことになります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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