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経営組織論と『経営の技法』#191

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ③内的制約と外的制約
 先に述べたように、組織エコロジー論では、このような組織形態を組織は環境において、簡単に変えることができないと考えています。それは組織慣性があるからです。では、なぜ組織慣性が生まれるのでしょうか。その理由には内的制約と外的制約があります。
 内的制約には、以下の4つがあります。
 1つ目は、組織が今の状況のために設備投資などの大きな投資をしているため、組織形態を変えることで埋没コストが発生してしまうからです。
 2つ目に、意思決定者は現在の組織形態において能率的に業務が行えるようにデザインされているために、今の業務にかかわる情報は入ってきやすいが、新しい変革のための情報が入りにくくなっているためです。
 3つ目に、組織形態を変えるとなると、組織内部の人々の既得権益などの再配分が行われることになります。それによって今までパワーがあった人はパワーを失うことが考えられます。そうなると政治的な抵抗に遭ってしまうため、組織形態が変わりにくいのです。
 4つ目に、歴史や伝統があるために、なかなか変わりにくいことが挙げられます。組織形態を変えることは、場合によってはこれまでの組織の過去を否定することにつながりかねません。組織の歴史や伝統は新たな変革において、どうしても障害になってしまうのです。
 一方で外的制約としては、2つのことが考えられます。
 1つは、組織形態が変わること、つまり今いる領域からの離脱や新しい領域への参入に障壁があることです。新市場への参入障壁が高かったり、今の領域から離脱するためのコストがかかったりすると、組織形態を変えることによる利益は小さくなってしまい、組織にとって現状維持への強い誘因になってしまうのです。
 もう1つの制約は、組織形態を変えることで、正当性を失うことがあるからです。たとえば、公立大学では学部教育をやめてしまえば、公的な補助金を得ることが難しくなってしまうため、簡単にやめることができません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』192~193頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで示された6つの要素は、環境の変化に合わせるために会社組織を変化させる際、障害になる要素ということになります。
 これは、一面で、組織を変えるプラン作りのポイントでもあります。
 6つの要素を見ると、これらの要素が同時に問題にされるのではなく、プランの検討が進み、現実化が進むにつれてバラバラと問題の存在が明らかになってくることが多そうです。
 たとえば、最初に1つ目の問題、すなわちこれまで投資した設備の廃棄の問題が出た後、しばらく経って3つ目の問題、すなわちこれまで主力だった業務の役員や管理職者の処遇の問題が出てくる、という具合です。
 このように見ると、組織を変えるプランを作る際、検討の過程で見えてくる問題を先取りして検討するべきポイントが示されている、とみることが可能です。つまり、会社組織変更プランを作る際のチェックリストとして活用できるでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、経営者が組織改革に熱心な場合、それ自体はむしろ好ましい面もあるのですが、時に暴走することが懸念される場合もあります。
 そのような場合、ここで示された問題への対策をおざなりにしていないか、経営判断のプロセスをチェックする際のリストとして使えそうです。すなわち、経営者としてチャレンジすることは良いことですが、上記の諸問題を発生させるだけの無理な組織改革ではなく、むしろ想定される諸問題をしっかりと克服することが必要です。
 つまり、投資家である株主から経営者を見た場合、経営者による会社組織の変革の状況を監査する際などの重点ポイントとして、活用できるでしょう。

3.おわりに
 物理的な意味での慣性の法則が働いている、ということですが、会社組織を改革することの難しさは、倒産処理の問題(倒産した会社を再生させる場合)と比較しても容易に理解できます。
 倒産処理の場合は、外科手術と似ています。手術台の上に載せられた患者に対し、左足切断を決定するのは大変なことですし、命にかかわるのでスピードが大事ですから、非常に難しい判断と対応が求められます。けれども、それがなければ助からないとわかっていますので、相当大胆な会社組織の変革ができます(必要です)。
 他方、そうでない会社組織の改革は、実際に元気に運動しているスポーツ選手の肉体改造にあたります。日々のトレーニングや競技への参加を中断せずに、肉体改造していきますので、選択肢も限られますし、命にかかわるような緊急性もないため、なかなか思い切ったことができません。それでも、肉体改造しなければ、ライバル選手(ライバル会社)に負けてしまいますので、トレーニングメニューや食事内容、競技に取り組む意識など、変えなければならないところが沢山あります。
 ここで示された6つの要素も、スポーツ選手が肉体改造する際に、それを躊躇してしまう要素と置き換えて考えてみれば、イメージしやすくなるかもしれません。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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