マガジンのカバー画像

労働判例を読む

545
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

労働判例を読む#167

「京王電鉄ほか1社事件」東京地裁H30.9.20判決(労判1215.66) (2020.6.26初掲載)  この事案は定年後の勤務形態として2つの制度(A継匠社員制度とB再雇用社員制度)を有する会社らYの従業員らXが、Aによって雇用されていることの確認を求めた事案です。ここで、Bは、車両清掃業務を、週3日、各8時間行い、時給1,000円、とする制度で、解雇事由に該当することが明らかな場合を除いて締結されます。他方、Aは、車両運転業務を、正社員と同様の所定労働時間行い、月給1

労働判例を読む#166

「学校法人追手門学院(降格等)事件」大阪地裁R1.6.12判決(労判1215.46) (2020.6.25初掲載)  この事案は、勤務成績不良を理由に降格された、大学の職員Xが、退職させることを目的とし、人事権を濫用するものとして、大学Yを訴えた事案です。裁判所は、詳細に事実認定を行い、人事権の濫用はなく、降格は有効、と判断しました。 1.判断枠組み(ルール)  本事案では、就業規則に、降格のあることが明記されています。そのような規定がない場合には、そもそも一方的な降格

労働判例を読む#13

「国・歳入徴収官神奈川労働局長(医療法人社団総生会)事件」東京地裁平29.1.31判決(労判1176.65) (2018.9.21初掲載)  この裁判例は、行政庁による①労災の認定と、それに基づく②労働保険料の認定(値上げ)があるところ、②の認定を不服とする使用者がその取り消しを求めた事案で、裁判所が取り消しを認めなかった事案です。 1.原告適格  まず、使用者が②の訴訟を提起することについて、保険料値上げの不利益を被る当事者であることから、訴訟を提起することを認めて

労働判例を読む#165

「ジャパンビジネスラボ事件」東京高裁R1.11.28判決(労判1215.5) (2020.6.19初掲載)  この事案は、産休明けに有期契約者となり、更新拒絶された従業員Xが、無期契約者(正社員)の地位にある、などと主張した事案です。  1審は、Xが無期契約者の地位にあること等は否定しましたが、損害賠償請求を認めました。  2審は、1審を全て書き直し、Xの請求をごく一部だけ認容し、同時に、XのYに対する損害賠償請求を認めました。 1.ストーリーの重要性  1審の判決を見

労働判例を読む#164

「ハンターダグラスジャパン事件」東京地裁H30.6.8判決(労判1214.80) (2020.6.18初掲載)  この事案は、茨城工場への転勤によって片道2時間45分の長距離通勤となった従業員Xが、交通事故によって障害を負い、4カ月の休職と4カ月のリハビリ勤務(時短勤務)後、梱包作業に復帰し、ときに20キロの荷物も運ぶまで回復していました。会社Yが、Xの茨木工場勤務が長期化することから、Xの健康、安全管理、業務の円滑のために、工場近くに準備した社宅に転居するよう、転居命令を

労働判例を読む#12

「KSAインターナショナル事件」京都地裁平30.2.28判決(労判1177.19) (2018.9.20初掲載)  この裁判例は、定年後再雇用した従業員に対する配置転換が違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償を命じた事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は2点あります。 1.配置転換権の濫用  この裁判例では、原告従業員による経営陣への問題提起や批判は、中国の関連会社からの役員賞与送金の問題点の指摘以来、すなわち、原告従業員の定年再雇用の以前から続いてお

労働判例を読む#163

「学校法人河合塾(文書提出命令・抗告)事件」東京高裁R1.8.21決定(労判1214.68) (2020.6.12初掲載)  この事案は、担当授業数を減らされた予備校講師Xが、予備校Yに対して、従前の授業数の契約の存在の確認や損害賠償の請求を求めた事案です。その訴訟手続きの中で、Yは、授業アンケートの結果が主な理由であると主張しつつ、それを裁判所に提出しなかったことから、Xが授業アンケートやその集約結果を提出するように求めたのが、ここでの手続です。  裁判所は、一部の資料に

労働判例を読む#162

「大阪市(旧交通局職員ら)事件」大阪高裁R1.9.6判決(労判1214.29) (2020.6.11初掲載)  この事案は、ひげを生やしていたことによる低考課やひげを剃るように求める上司らの指導が違法であるとして、地下鉄の運転士ら(X)が、雇用主である大阪市Yに対し、損害賠償を求めた事案です。裁判所は、20万円の損害賠償責任を認めました。 1.人事考課  ひげを剃らなかったことによって低評価されたとしても、それが給与の差に直接つながっていない(絶対評価を相対評価にする過

労働判例を読む#11

「学校法人D学園事件」東京高裁平29.10.18判決(労判1176.18) (2018.9.14初掲載)  この裁判例は、協調性のない数学教師を解雇した事案で、解雇を有効と判断した事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は1点あります。 1.地裁と高裁の違い(ルール)  解雇の有効性に関し、1審では無効、2審では有効と判断しています。この、事実認定及び評価に関する違いが、重要なポイントになります。  まず、ルールを対比しましょう。  1審は、勤務態度不良に関し

労働判例を読む#161

「社会福祉法人北海道社会事業協会事件」札幌地裁R1.9.17判決(労判1214.18) (2020.6.5初掲載)  この事案は、病院Yで採用され、内定を得ていた社会福祉士Xが、以前同病院を受信した際にHIV感染の事実を記載していたのに、就職の際にはこのことを秘していたことから、虚偽申告を理由に内定が取り消しされた事案です。  Xは、損害賠償の請求を求めたところ、裁判所はその一部を認容し、Yの責任を認めました。 1.内定取り消し  裁判所が、Yの不法行為であると認定した

労働判例を読む#160

「学校法人北海道カトリック学園事件」札幌地裁R1.10.30判決(労判1214.5) (2020.6.4初掲載)  この事案は、定年後再雇用された幼稚園の教諭Xが再雇用を拒否された、という雇止めの事案です。幼稚園Yは、Xによる新人教諭に対する複数のハラスメント行為があり、それによって当該教諭が退職してしまったとして、雇止めを有効と主張しましたが、裁判所は、雇止めを無効とし、Xが教諭として労働契約者の地位を有することを認めましたが、Xの精神的慰謝料の請求は否定しました。 1

労働判例を読む#10

「学究社(定年後再雇用)事件」東京地裁立川支部平30.1.29判決(労判1176.5) (2018.9.7初掲載)  この裁判例は、定年後再雇用した従業員の雇用条件に関し、従前と同じ条件、という従業員からの申し入れを認めず、給与の大幅減額、という会社からの条件を認めた事案です。実務上のポイントとして特に注目している点は2点あります。  なお、労働契約法20条(いわゆる同一労働同一賃金)の適用も問題になっていますが、この点は、労働契約法20条に関する最高裁判例の検討を近々行い