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5月の「虎に翼」 寅子の喪失と再生

 5月はとても濃くて長い一か月だったように思います。
 連休が明けて、いろんなことがある怒涛の一か月で、私もしんどかったですが、皆さんもきっとそうですよね。
 「虎に翼」もあっという間に寅子の司法試験の挑戦から合格、就職、結婚、出産、戦争突入、敗戦、夫の死、父や兄の死、日本国憲法制定まで、あまりに密度が濃かったと思います。
 簡単に振り返ってみたいと思います。

第6週 司法試験合格までの道のり

 結局合格したのは寅子だけ。怒りを禁じ得ない展開でした‼️
 一度目の不合格の際、桂場から
 「同じ成績の男と女がいれば男を取る。それは至極まっとうなことだ。かなりの手応えなんて言っているうちは受かりはしない! 誰をも凌駕(りょうが)する成績を残さなければな」
 と。これは明らかな差別ですが、当たり前のように、上から言われる悔しさ。しかも、これが是正されていない。
 医学部入試でもつい最近まで露骨な女性差別がありましたよね。

 そして司法試験二回目の挑戦を前に、香淑さんは公安に負われて試験を断念して帰国。涼子さんは家のために結婚を余儀なくされる。
 梅子さんは、夫が司法試験当日に離婚状をたたきつけ、末の子と共に逃げることを決意。
 「どうか私のような立場の女性たちを守ってあげてください」と寅子に託しました。
  私もこの言葉、胸に刻みたいと思います。
 さらによねさんは、口述試験で偏見に満ちた面接官に「偏見を押し付けるな」と一括。それが理由で落とされてしまう。でも
 「自分を曲げずにいつか必ず合格してみせる」
 といいます。これはとても心に残りました。
 勇気があり潔く、憧れますね。
 実際私が口述試験を受けたのはバブルの頃でしたが、セクハラはわかりませんが、パワハラ的な面接は当たり前にありました。
 そして、試験中に試験管の顔色や言動を伺いながら柔軟に見解を変えることを奨励され、自説を曲げない受験生は落とされていました。理想ある人の心を折る試験でした。最近は変わっていることを望みます。
 
 死屍累々のなか寅子は合格したけれど、倒れた戦友たちの無念を私は忘れません。

第7週 司法修習から弁護士登録

 寅子は弁護士登録したものの、花岡は別の女性と婚約、仕事では女性差別され、結婚しようとするもののお見合い相手も見つからない。
 そうですよね。ありありです。ただ、新人弁護士はふつう単独受任をしない。ボス弁護士と共同受任の下働きから始めるので、ドラマでボスが寅子に一人で受任させようとする展開はちょっと首をかしげました。
 法曹になると、男性は通常将来を約束され、順風満帆であり、結婚相手も引く手あまたであるのに対し、女性はあちこちで差別され、壁にぶち当たる一方、「結婚しないの?」「行き遅れ」「仕事もできない、使えない」等とハラスメントを受け、なかなかつらい立場で仕事をすることになる例が多い。
 学びの場では輝いていた女性のもとを、彼女を崇拝したり尊敬していた男性がどんどん去っていったり、振ったりしますね。一方、見知らぬ女性弁護士と結婚したい男性は少ないわけで、女性は弁護士になったことでむしろPunishされる。
 どの業界でもそうですが、女性は男性よりも多くの苦悩を背負って自分の道を進まないといけないことがよく描かれています。
 そんな中、自宅の書生さんだった優三さんの申し出で突如結婚。棚から牡丹餅ですね。私も弁護士2年目に、寅子よりさらに棚から牡丹餅で結婚したので、親近感満載の展開でした。

第8週 新婚生活・出産・優三が戦地へ

 寅子は、クライアントの嘘を見抜けず、自分の甘さを痛感する、という場面がありますが、この桃井かおりVs 岩下志麻の「疑惑」という映画を思い出しました。すごい映画です❣️
 私が高校1年の時の作品ですが、一生懸命真面目に勉強して弁護士になってもこんな仕打ちを受けて私生活も不幸なら弁護士なんてなるものではない、という感想を持ちましたが、にも関わらず、なぜか弁護士になってしまったわけです😆

  
 私は、刑事事件はもちろんいろいろありますけれど、家事事件や労働事件のクライアントの女性が性格が悪くて酷い仕打ちに遭うことは、幸いにしてほぼなかったです。今後も何があるかわかりませんが。
  昨今(共同親権の審議などで)、虚偽DV等と言って被害者を侮辱する人たちがいますが💢、私が数多く手がけた事件では、次第に相手方(男性側)の虚偽の弁解が明らかになることはあっても、女性が虚偽のDVを主張した事件は一件もありません。

 そして、結局寅子は、妊娠して弁護士事務所を退職するしかなくなる。
 私は、弁護士を選んだ理由の一つが、資格は一生ものだから、結婚や出産などの理由でキャリアを脱落しなくていいのではないか、という理由でしたが、当時の寅子にとってはそういう状況ではなかったのでしょう。
 私の世代は均等法第一世代の少し後を追いかける世代でしたが、多くの女性が、出産を機に、ハラスメントや差別を受け、居場所を失い、悔しい思いをしながら仕事をやめざるを得ませんでした。そのことを本当に思い出してしまいました。
 穂高先生は言います。
穂高「いやいや、世の中そう簡単には、変わらんよ。雨垂れ、石を穿つだよ、佐田くん。君の犠牲は、決して無駄にはならない」
 これに寅子は怒りますが、当然ですよね。穂高先生は、寅子の犠牲を踏み台にして、次の世代が続けばいいように思っているように聞こえますが、その発想は、人を道具のように利用する(カントが戒める)思考態度ではないでしょうか?

 
 ただ、確かに、世の中は簡単には変わりません。
 私も、若い時に、一時非常に思い詰めて多くを背負って焦燥感を感じながら、自分を犠牲にして働いた時期がありますが、一人が思い詰めて身を粉にしても社会は短期的には変わらない。深い挫折感を味わったり、病気になって倒れたり、周囲や社会を恨んだり、活動をやめてしまったり、人権の活動に嫌気がさして二度と戻ってこなくなる人も見てきました。
 もっと長い目で見て時にはペースダウンして、がんばらないけどあきらめない、とが今の時代なら少しずつ可能になってきているのかなと思います。

  でも、当時は選択肢が多い時代ではなかった。
  だから、寅子はそうするしかなかったのだと思う。
  よねさんに激しく責められても。
  しかも戦争に突入、子どもが生まれたのに、優三さんは戦争へ。
  出征直前の優三の寅子に向けた言葉が素晴らしすぎます。
  世の男性全てがこんな風に女性を応援してくれるといい。
  単なる理想ではなく、実際にお手本にしてほしい。
    私の周囲の女性弁護士の間では、
  「私の夫も自分が行き詰まった時に夫がこんなことを言ってくれた😭」
   という人が何人かいました。
   女性を支える良き夫のロールモデルは、今の社会にも結構実在します。

「トラちゃんが僕にできることは謝ることじゃないよ。トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです。
また弁護士をしてもいい、別の仕事を始めてもいい、優未のいいお母さんでいてもいい。
 僕の大好きな、あの何かに無我夢中になってるときのトラちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。
いや、やっぱり頑張らなくてもいい。
トラちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」

Mantanweb

第9週 寅子の喪失と再生、日本国憲法

  兄が死ぬ、夫の優三が死ぬ、父が死ぬ。

  寅子は心を押し殺して日々働いていたけれど、ある日自分と向き合い、あの優三の言葉を思い出して号泣。
 その時に焼き鳥を包んでいた紙に書かれていたのは、日本国憲法でした。
 寅子や友人たち、さらに周囲の男たちをも、ずっと苦しめてきた
 女性差別、民族差別、家制度、人権の否定、家父長制。
 新しい憲法の下では個人の尊厳(13条)がうたわれ、人は平等で差別されないと明記される(14条)。
 戦前の因習のアンチテーゼが憲法に明確に書きこまれたのです。

 憲法がどれほどの人々の犠牲や悔しさ、無念を乗り越えて、それを変えるために作られたのか、個人の尊厳と平等が、がんじがらめの状態にあった人々をどんなくびきから解放するものになるのか、どんなに尊い切実な価値を持つものなのか、とても雄弁に語られていたと思います。
 寅子は憲法に希望を見出すのです。疲弊した東京の街で、疲労困憊して歳を重ねた女性たちも憲法の条文に見入って感慨深そうにしていたのが、感動的でした。
 法律、憲法は決して他人事で、自分には関係のないことではない、
 自分たちが自分たちを生きるために、深くかかわる自分事だ、ということを私たちにも気づかせてくれます。
 憲法は一人一人の生き方を解放し、希望を与える糧である。
 それは優三さんのメッセージにも通じます。
 「トラちゃんが心から人生をやり切ってくれること」


 寅子は、憲法に希望を見出して、
 「もう一度法律の世界に飛び込んで、人生をやり切りたい」

と決意する。
寅子の再生を後押しした日本国憲法。
その誕生がもたらした影響を考えると、改めて大切にのちの世代に引き継いでいきたいと思いを新たにしました🩷

6月からの寅子の奮闘に期待します。

PS  製作陣や出演者のお話でさらに学べます。
挫折や喪失を描いた8〜9週の演技がとても大変だったこと。

玉音放送ではなく日本国憲法こそが三淵さんのターニングポイントだったという実話に忠実だったということ。
そしてよねさん🩷のことなど。


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