見出し画像

アメリカ留学のハードルをハードルでなくすために私たちができること

Dartmouth大学の学部入試において、Need-Blindな入学審査ポリシーが留学生にも拡大されることが発表されました。多くの若い才能を後押しする、画期的な取り組みだと思います。このニュースを目にして思うことがありましたのでつれづれと。

なにが画期的なのか

ざっくり言うと、奨学金やローンのオプションを拡充し、お金のために進学を諦める学生をゼロにする、という取り組みです。入試の段階では家計や資金調達の方法について不問となり、受かった後に自己資金との差額を大学が補填します、ということになるそうです。

大学が昨年から推進していた「Call to Lead」というファンドレイズキャンペーンがうまくいったことに加え、奨学金のソースとなる大学の基金が昨年46.5%の利回りで着地したことも後押しになっていると思います。

なお、留学生を含む100%の学生にNeed-Blindポリシーを適用している学校はとても少なく、DartmouthはHarvard, Princeton, Yale, MIT, Amherstに続いて全米6校目になりました。

上がり続けるアメリカ留学のハードル

学部の受験生、つまり高校生の状況を考えてみると、多くはお金を稼ぐことを知らない経済的な弱者です。どれだけ優秀でも、家庭の裕福さ、または奨学金やローンなどの情報へのアクセスなどで受けられる教育の質が変わってしまうのが現実です。

加えて、アメリカの教育コストは年々高騰しています。Harvard大学の学生が運営するHarvard Open Data Projectに興味深い指摘を見つけました。

Harvard大学の学費は年3.6%(2010-20)のペースで上昇を続けており、2009年には入学する生徒の家計の収入の平均値を超えました。大半の学生にとって、奨学金やローンは大きな救済になっているということでしょう。

画像1

ところが、学校が用意する奨学金やローンの多くは留学生を対象としていないというギャップがあります。貧しい発展途上国からの留学生にとって、アメリカ留学の壁は上がり続ける一方です。日本のように経済停滞する国からの留学生も例外ではないと思います。

声の届かない失望に思いをはせる

私自身、学部の入試でお金を理由にアメリカ留学を諦めた経験があります。

高校2年生で初めてアメリカへの短期留学を経験し、目の前の世界が開ける経験をしました。この10ヶ月は、今でも人生で最もカラフルな期間だったと思います。自分にはアメリカの自由で伸びやかな水が合うと確信し、帰国後、アメリカの大学6校を受験しました。

生まれ育った田舎には、アメリカ進学を考える仲間もいなければ、留学をサポートした経験のある先生もいませんでした。自分は合格に値する人間なのか確信を持てないまま、学校選び、SATやTOEFLの受験、エッセイの執筆まで、誰にも頼れず一人でやりました。苦労の甲斐あって、2校から合格をもらうことができました。初めての合格通知は分厚いA4サイズの封筒に入っていて、手を震わせながら開封したのを覚えています。

ところが、同じ封筒に入っていた入学金と学費の振り込み用紙を見て、一気に現実に引き戻されました。年間500万円、4年間で2000万円ほどの出費が必要だと書いてあります。もちろん学費について考えていなかったわけではないのですが、お金というものの現実味がなく、これまで通り受かったら親とか誰かがなんとかしてくれるだろう、と甘く考えていたんだと思います。すぐに親に相談しましたが、中流階級ど真ん中の家庭にとっては非現実的な数字で、工面する方法を考える間もなくあしらわれてしまったのを覚えています。あれだけ手に入れたくて一人でもがいてやっと掴んだ夢が、一気に形を失って手からこぼれ落ちていくようでした。

残念ながら、ここで私のアメリカ留学の夢は一旦ついえてしまいました。留学できなかったことは、この後10年以上尾を引くことになりました。留学していたら自分はどれほど成長していただろう、その自分の影に追いつけているだろうか。キャリアが好転する時も、失敗する時も、こんな感情が首をもたげ、苦虫を噛み潰すような思いをしてきました。

今になって考えてみると、自力で奨学金やローンを探してなんとかなったのかもしれませんが、自分でお金を稼いだこともない高校生が、相談できる友人や先生を持たず、親にも断られた状態で、果たしてこれらの情報にアクセスできるでしょうか。

冒頭のニュースを目にして、若い才能が活躍できる環境が広がったことに心から希望を感じるとともに、あらためて声にならない失望がたくさんあることを想像しました。

私たちになにができるか

このnoteを読んでくださる方々は、海外MBAに関心のある社会人の方が多いと思います。

皆さんのように海外に憧れ、まさに外に出ようとする若い才能が、声を発せないままその夢を諦めている可能性について思いを馳せていただけるとうれしいです。もし周りにそういう方を見かけた場合、その手を取って一緒に考える味方になってあげてください。彼らは希望に満ち溢れて皆さんの力なんていらないように見えますが、実は失望と紙一重のところにいるかもしれないからです。

コロンビア教育大学院に留学する田原さんの投稿にもとても共感しますので貼っておきます。

私は、再び海外留学の夢を掴めた幸運に感謝するとともに、一人でも多くの後進のロールモデルになれるように励むこと、そして夢を諦めざるを得ない方々を想像しながら情報発信に努めることを改めて心に誓いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?