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先週大量に発見されたVHSビデオテープの山の中に『2006年9月2日南堀江ネイヴ・葬式』とラベルが貼られたモノが見つかった。

これは以前「誰でも無い、誰かの葬式」と題して、『葬式』という作品を大阪、神戸で行ったものを1本のテープに記録影像として残しているものであろうと思う。そうじゃなかったらそれはそれで只単に怖い。

ネイヴ以外にもこの『葬式』という演目は行われており、それこそ第1期のストロベリーのメンバーの頃は千日前クラブウォーターでも行っている。

第2期メンバーになってからの大阪は、今は無き新世界フェスティバルゲートの最上階にあったブリッジという箱。後藤まりこちゃんのイベントで、そちらに出演した際、この演目を行った。確か2Daysでのイベントで、関西ゼロ世代と呼ばれているバンドがズラっと登場していた覚えがある。

神戸は確か今でいうところの、太陽と虎の前身の箱、アーバンスクエアだったかな?そこだったと思う。MUSHAxKUSHAとか一緒だったような気がするけれど、あまりこの時の事は覚えていない。この頃お世話になっていたイベンターのSさんのイベントだったかもしれん。

この『葬式』という演目を思いついた時、葬式というからには棺桶が必要だろうと、コンパネと胴縁をコーナンで買ってきては、日曜大工よろしく、のこを引き、釘を打ち、リアルサイズの棺桶を造った。

演出上、その棺桶の上で役者が飛び乗り演舞を行ったりするので頑丈じゃないといけない為、軽量な棺桶ではなく、ガッツリ重量感、いや実際馬鹿重い棺桶を仕上げる必要性があったのである。そんな面倒な演出を考えてしまったもんだから、自業自得とはこのことで、日曜日の朝から恨み辛みを込めた108本の釘を打ち付け、役目を終えた柱時計と共にこの棺を納めるのであった。

『葬式』という演目が故、勿論團員すべて喪服であり、不条理だが舞台上には墓石や卒塔婆をズラリと並べていた(MV『真夏の手鞠唄』でも使用している墓石や卒塔婆である)

この卒塔婆も自家製
この墓石は人形供養の山に突き立てたので今は手元に無い

観客も、流石ストロベリーのコアな共犯者揃いとあって、殆どの観客が喪服で観劇…否、参列し、開場前だというのに、ライヴハウス前には喪服の集団が悲しむ訳でも無くニコニコと笑いあって、中には缶ビールを片手に呑みながら談笑する光景が見られ、何も知らない通行人はさぞ疑問だったであろう。

ゴシックイベントや、ヴィジュアル系バンドのイベントなら黒服に身を包んだ娘さん達が多々おられるだろうが、ライヴハウス前に喪服の衆である。僕が第三者でたまたま通りすがった人間ならば「嗚呼、きっとカリスマミュージシャンが亡くなったから、そのファン達が集っているのだろうな」と、どうせ僕が死んでもこんなイベントは誰も組んでくれませんよーだ、と悲観的な情景を思い浮かべていたであろう。

だが、これは葬式は葬式でも「誰でも無い誰かの葬式」なのであり、演劇でもあり、怨歌が歌われる『ライヴ』なのである。開場前から既に観客はおろか、通行人までもが、『葬式』という作品の登場人物として、この『ライヴ』に加担しているのである。

開場時間になり、ライヴハウスの入り口では参列者と化した観客は、受付でチケット代金を支払う際、本当の葬式のように帳簿に名前を書かされ、塩が配られた。客電も薄暗く、椅子が綺麗に並べられ、参列者はあたかも本当に葬式に来たかの様な錯覚を覚えるのだ。

「これより誰でも無い誰かの葬式を始めます」のアナウンスと共に、幕が開き、ストロベリーソングオーケストラの楽曲『鏡町葬送曲』と共に、客席後方から棺桶を担いだ役者がなだれ込んでくる。木槌を持った役者(おそらくモンブランもやっていた)が曲のリズムに併せ、コン!コン!とリズムに併せ釘を打ち付けるのである。

受付で名前を書いた参列者達は『焼香』なるシーンになると、一人一人がアナウンスで呼ばれ、ステージに向かい焼香迄も行うのだ。ここでちゃっかりしているコアな参列者なんかは懐から香典袋なんかを取り出して祭壇に添えていたりして、この『葬式』を楽しんでいたりした。粋じゃないか。まあ、生きでは無く、死んではいるのだが。

演劇作品『葬式』は、ストロベリーソングオーケストラでは上記にも挙げているように2003年はクラブウォーター、2006年にはネイヴやブリッジ、アーバンスクエア等で行っており、まさに不条理演劇、完全なるメタフィクションで構築されていたのだが、僕は自分が死んだ時も、こういった演劇ふぁしたいのだ。メタでは無く、本当の死を以て、『葬式』という作品が完結するのである。いや、ほんと、歯もどんどん無くなるし、これを書いている今もやたら咳がコン!コン!出てるし、身体中毎日倦怠感があるし…って、なんやコレ?もう老後の縁側日記みたいになっとるやないか。まだまだやりたい事はあるから、この『葬式』といった演劇をやる前に、もう少しだけ命の時間をください、神様・仏様。

で、この『葬式』という作品である。
それはこんな感じの流れだ。

アンダーグラウンド界の自称・重鎮でもあった、ストロベリーソングオーケストラの座長・宮悪戦車が、トランポリンのアクシデントで天井に突き刺さり死亡!という訃報が、現メンバー、そして鏡町を離れていったOB達に伝わる。鏡町を離れて何年経つのだろうか、まあ、座長の葬式ではあるが、久々当時の團員皆集まって、無茶ぶりばっか言ってきた座長の悪口でも言ってとことん酒でも呑むべかな!と葬式に皆が集まる。

が、そこで受付に立っている、いまだ半パン2本線の喪服しか持っていない飴彩なんかに手渡されるのは一冊の台本であり、会場を見渡すと、何故か照明を吊るバトンなんかが、大道具の圭ちゃんによって仕込まれていて、そこに照明をぶら下げるイケベちゃんの姿も見受けられ、PA席にはマニピュレーターの阪本君がスタンバイ。まあ、もうみんな良い年になっていたりする。

こ、これは何?と、その手渡された台本を捲ると、1ページ目に配役が書かれており、おそらくこの作品には登場しないだろうなと思わしきメンバー名は既に『闇』と書かれていて、この作品のコロスとなる。

【コロス】とは、演劇用語のひとつで、 映画でいうところの“エキストラ”のような役や、 メイン以外で何役も演じ分けるような役、 明確な“役名”が無いような役割の事を言います。

Google検索より

1発目の台詞、老眼鏡、入歯をハメた時計詩母が噛み倒しながら「ざ、座長、コレは、そ、掃除機です、は?」と只でさえ細い目が更に細まったり、眼帯をつけた疫馬車虫佐が「僕はいつになっても死ねませんでした、座長が羨ましいです、ウマレテスミマセン」と棒読みで弔辞を読んだり、堀部夫妻は、葬式なのに新婚さんいらっしゃいの収録にでかけていたりする。もうその頃は新婚じゃないのに。

い、いかん、こんな事を書いている魔にも刻々と何かしらの病魔が僕の体を蝕んでいく筈だ。今すぐにでも台本を書いて逝かねば!

総勢108名による手作りコンサートならぬ手作りお葬式。
ただ、唯一残念なのが、この人生最終作品である『葬式』を見ることが出来ないという事。地獄でリモートしてくれたら、それこそ幽鬱チューブにでも繋いで鬼の目を盗みつつ目劇バキュンする事が出来るのであろうか?


さて、連載で続いている瀉葬文幻庫の小説『BARギロチン-昼酒』の続きデス。
瀉葬文幻庫の自主企画『怨塊禁書』の台本も第一稿が仕上がり、このまま修正が無ければ、制作期間に入っていく次第。続いて、8月に行うストロベリーソングオーケストラの単毒公演『夜雨に帰ル、Ame-1:50』の制作も同時に進めて逝かねばなりません。5月は松山座の公演もあるし、なんやかんやと実は超多忙な鏡町。僕はこのあと、この原稿を仕上げたら、ナレーション仕事「怪談」、そして「パワハラ」をテーマとした2つの仕事をこなしてきます。

それではBARギロチンの続きをご覧ください。
こちらもそろそろ〆にかからねば…


BARギロチン-昼酒- 7杯目


「いやあ悪いねー、うん、この酒、美味いなあ。いや私もね、匿名の電話の客の云う通りにやって来たものの、人形町大字影牢かげろう親不知おやしらず四百五十九番地といった旧住所特有のややこしい物、携帯電話で連絡を取ろうにも圏外表記。陽も落ちてきた事だし歩き疲れたので、今晩はどこか宿にでも泊まり、明朝改めても良いかと、だが果たしてこんな所に宿なんかあるのだろうかと、ぼっさり歩いておったらこのBARの灯りが見えたのですよ。って私ですか。まあ私は俗世間一般で云うところの、拝み屋でございまして、この地に蔓延する、或る憑物を祓いにやって参った訳でして…」

と、拝み屋と名乗る男が、酒を口にし言った。
その酒を注ぐモノが口を開く。


日にちまいにち梅雨来れば 雨はじょんじょん降ってくる

 雨はビイルか特級酒か ぽかんと口あけ飲んでみりゃ

甘くてからくて酸っぱくて

惚れた女にすてられた 奇妙な味が舌にしむ

今日も今日とて六月の

しとしと雨のせつなさよ、、乾杯

その詩を聞いた拝み屋が、高揚した面持ちで目の前のモノに再び口を開いた。

「乾杯!ホウホウ、詩、、ですか。こんな御時世に珍しい。私も文学は大好きなもんでねえ」

そのモノは微動だにせず、酒を呑みながら、

「手に入れた金はすべて呑んでしまう。日本酒、焼酎、ドブロク、泡盛、なんでもござれと、只、ビイルは水っぽいからといつも敬遠されていた。酒の肴は印肉で、いつも口を真っ赤に染めていた、、。これは川崎蛾良かわさきがりょうという日本画家を見て火野葦平ひのあしへいが書いた詩であります」

と、そのモノは自分の中指で唇をなぞった。その姿が妙に色っぽく、拝み屋は一瞬身震いしたものの、どこか聞いた事のある名前を思い出そうと数秒黙り込んだ。

「ああ、火野葦平ですか、、。私が良く赴く書肆にも葦平の詩集を見かけた事がある。戦犯作家といった印象だが、こういった詩を書くのか。珍しい詩を持ち寄っておられるのですねえ」

すると、先程まで酒を呑み続けていた対面のモノの動きがピタっと止まり、薄っすら笑みを浮かべたかと思うと、次なる言葉を投げかけてきたのだ。

「どうでしょう拝み屋さん、互いの詩、コトノハを持ち寄って少し遊んでみませんか」

すると、その言葉を聞いていたのか聞いてはいないのか、カウンターの奥の方で座っている流しのモノがポロン、ポロンとギターを鳴らしだした。拝み屋はその音色を聞きながら、詩、を紡いだ。

「ホウホウ、互いのねえ、それじゃあ私から紡いでいくとしよう。ホラホラ、これが僕の骨だ、生きてゐた時の苦労にみちた、あのけがらわしい肉を破って、しらじらと雨に洗われ、スックと出た、骨のさき、、とか」

「中也ですか、、。またアレも大層な酒飲みだったと聞きます。まあまあ、もう一杯いかがですか?」

「ああ、すまんね。それじゃあ次あんたの番だ」

「いつでも、自分の思っていることをハッキリ主張できるひとは、ヤケ酒なんか飲まない。女に酒飲みの少ないのは、この理由からである」

その刹那、ギターの音も止み、拝み屋も動きを止めた。
違和感を覚えたのだ。

「太宰やな。また酒飲みやないか。前半の文章は共感出来るけど、後半がまるで説得力が無いな、もう一回なんて?」

「女に酒飲みの少ないのは、この理由からである」

この文章に違和感を覚えたのだ。
閑話休題であるが、筆者のまわりには女の酒飲みしかいない。この拝み屋もそんな環境で生きてきたのかもしれない、故のただならぬ違和感なのであろう。

「え、ちょ、ちょっと聞いた?女に酒飲みの少ないのは、って、、他のお客さんどない?どう思う?」

拝み屋が他の客に問うも、他の客は談笑を続けているだけだ。

「ああ、流れ止めてしもうた。すんません、続きをどうぞ」

再びギターの音色がポロン、ポロンと店内に鳴り響く。女に酒飲みが少ないと口にしただけで殴り合いの事件に発展するかと思った静寂を認めるかのように、

「と、ぐうの音も出ない満場一致したところで私の番ですね。そうですね、折角だから、ここに居るお客さんに詩を選んでもらって、私と拝み屋さんで詩を読んでみませんか?」

と、拝み屋に新たな遊戯を持ち出し、そのモノと拝み屋は小一時間、詩を紡ぎながら酒を楽しむのであった。

拝み屋が紡ぎ、それに対してこのモノが紡ぎ返す。
言葉というものがどれだけ貴重なものだったのか、改めて痛感する時間が流れた。

「いやあ楽しかったよ、しかしこの詩は初めて聞いた詩だなあ。傾向、リズム、形式、、そして何より思想といったものが特に無い、、が、いやあ、しかしあんたさっきから作り手が酒飲みのコトノハばかり紡ぐよねえ、よっぽど酒が好きなんだねえ」

「酒を呑むとどうも詩を紡ぎたくなるのです。こうして咫尺しせきを弁じない時にだけしか詩を紡ぎとうない、厄介至極な思想=死相を持った、詩人=死人でございます」

更にそのモノは拝み屋の空になった器に酒を注いだ。

「ホウホウ、それは酒患いとでも呼ぶのか、、時に拝み稼業として聞きたい事があるのだが」

「なんでございましょう」

拝み屋は酒の入った器をテーブルに置き、静かにそのモノに問うた。

「この地に蔓延する憑物の事なのだが、、その憑物、、あんた、、酒童じゃないか?」

すると、それまで真っすぐに拝み屋の事を見つめていたモノは首を左傾に向け、まるで何かに取り憑かれたようなドスの効いた声で、新たな詩、を紡ぎだした。

たらたらと滴る氷のしずくよ

針となり、氷柱となり、剣となり

消防ポンプのサイレンの

火を恐れる消防手の

おどおどした笛の音となる氷河のきらめきよ

お前の噴火口はどこにあるのだ

氷が煙をはいている

眉の下の眼の瞳の奥の

氷河の肋骨に火が燈る

剣の男よ、氷河よ、青白い火山と変じよ

お前のことを歌うたんじゃけ、おまえにやるわい


と、詩を紡ぎ終えると、その酒童なるモノは笑い出し、拝み屋の首元に纏わりつき、新たに詩を紡ぎだした。


次回、最終回に続く。

それではここからは毒者限定記事デス。
前回は2015年の池袋手刀での犯行影像をお届けしましたが、今怪もそのような過去の犯行履歴をお届けしようかと思います。

2016年頃になるのかな?ナゴムレコードにも所属していた『死ね死ね団』が企画していたイベントに出演していた際の影像。新宿LOFTでの犯行影像をお届けしたいと思います。

まだ詩母君とかもツアーに参加出来ていた頃の影像デスね。
詩母君と虫佐君との演舞も中々新鮮なものがあります。

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この【仮分数のヒトビト】では、ストロベリーソングオーケストラや伝説のコント集団・ストロベリーソングオーケストラ野球部、僕が飴彩里沙羅と行っている瀉葬文幻庫に纏わる秘話、そして毎回何かしらのレアな付録が憑いてきます。 共犯者の方は生ビールを一杯呑んだつもりで定期購毒、毒者と成り果ててください。(月に4~5怪の更新になります)

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