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#3 全ては夢か、現か。【海辺のカフカ】

こんにちは、いちこです。
ここでは、読んだ本の紹介をしていきたいと思います。
1記事につき1冊または1シリーズ、ご紹介していきます。
こんな感想もあるんだな、と思っていただけたらと思います。
本に興味を持ったり、選ぶ時の参考になれば幸いです。

今回ご紹介する作品は、最近読んだ本です。
この本、読み終えた後は気力を使い果たした感じで放心状態というか、ぐったりしていました。

泣いたり笑ったりという感情の起伏ではなく、理解するのに頭を使う本と言いますか。
詳しくは後ほど触れます。

時折、そういう「放心状態になる本」というものに出会います。
今思い出せるもので言うと、「屍鬼(小野不由美)」、「悪魔の飽食(森村誠一)」、「君の名残を(浅倉卓弥)」なんかがあります。

ジャンルは関係なく、止まらない勢いで読み切って、放心しました。
しばらく体調に出ましたね。

恐らく、濃密な人間描写や、理不尽さ、残酷さの極み、みたいなものに触れると、この現象が起こるのかなと考えたりします。
こういう本に出会う時、文章とか言葉の圧倒的な力を感じます。

もう一回読むかと言われると、かなり覚悟がいるので躊躇いますけど…。

【本日の本】

本日ご紹介するのは、
村上春樹著、「海辺のカフカ」です。
新潮社より上下巻で出版されています。


【内容】

君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」
ーー15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真……。

新潮社ホームページより


【感想、雑談】

ここからは、私の個人的な感想や雑談をしていきたいと思います。

今まで村上春樹作品にまともに手を出したことはありませんでした。
なんというか「村上春樹」というジャンルみたいな、なんとも言えない敷居の高さと、名前が一人歩きして「あ、難しそう」という。(ド偏見)

大学生時代、「ノルウェイの森」を読んだのですが、途中で挫折。
ということもありましたので、小説への苦手意識がなかなか抜けませんでした。

でも、エッセイとかは好きなんですよね。
「村上さんのところ」という、ファンからの質問に答えるみたいなコンセプトの本は大好きです。

結構はっきりと簡潔に物を言う感じがさっぱりしてて。
エッセイの中でも、風景や感じた空気感の描写が具体的かつ独特で、エッセイでこんなに面白いなら小説も読みたいなーともずっと思ってきたので、アラサーになってやっと、といった感じです。

正直、タイトル以外の情報を知らなすぎてどの本を読むかすら迷うレベルでした。

普段はあらすじで読むものを決めるのですが、あらすじが役に立たないなんてことある?というレベルで既に難解。
どの作品も、あらすじを読んでも全然わからない。
なので、完全にタイトルだけで決めました。

一つ一つの話、文章としてはわかるし、比喩も独特ながら共感できるものがある。
ただ、ストーリー全体としては難解に感じるし、超常的なことが日常的に起こりすぎて混乱しました。

いくつかのキーワードが呼応するように行き来する物語の中で提示されていく。

これはハマるかどうかは分かれそうです。
人を選ぶかも知れませんが、ハマったらかなり深い沼だと思いました。
私は、ハマるかどうかはまだわかりません。
ただ、別の作品をもう一作読んでみたいなとは思います。これが沼の始まりなの…?

冒頭でもお話ししましたが、読み終えた後かなりぐったりときました。
グロテスクだったとかではなく、とことんカオス。

混乱と、自問自答と、自分の存在への疑問が生まれて、心の不均衡をきたすような。
生きることや、今まで生きてきた常識を疑うような。

頭の中身をバラバラに分解されたような、気分の悪さ。
それでも読み進まずにはいられない力のある本でした。

こういう本は、滅多に出会えるものではないし、出会えたとして、読む覚悟や準備ができないと読めない本だと思いました。
今だからこそ、読めたのだなと感じます。

内容について何も喋っていませんでしたね。
15歳の少年が、「もうここでは生きていけない」という切迫した気持ちを膨らませ、誕生日に家出をする。
やがて高松へ辿り着き、そこで人と関わったりしながら私設図書館の一角で過ごすことになる。
家出した少年の家では、父親が何者かに殺されて…

という話と同時に、戦争中のある地方で子どもたちに起きた不可解な事件と、知的障害を持ちつつ猫と話すことができるおじいさんの話など、複数の場面が行き来し、上巻を読み終えた段階ではまだ話がよく見えない。

下巻に向かって徐々に収束していくんですが、それでも「この世界観は何だ…」というのが正直なところでした。

言葉のリズムというか、文体が小気味良いなと思いました。
声に出して読みたくなるような不思議な抑揚がまた世界観をより謎めいた雰囲気にしているような。

ふと、不安になる感覚、人を観察した時の印象、会話をした時の言葉の揺れなど、言葉にしづらい感情を独特な単語で形にしている感じ。

『人間というのはじっさいには、そんなに簡単に自分の力でものごとを選択したりできないものなんじゃないかな』

カフカ

『先を見すぎてもいけない。先を見すぎると、足もとがおろそかになり、人は往々にして転ぶ。
かと言って、足もとの細かいところだけを見ていてもいけない。
よく前を見ていないと何かにぶつかることになる。
だからね、少しだけ先を見ながら、手順にしたがってきちんとものごとを処理していく。
こいつが肝要だ。何ごとによらず』

ジョニー・ウォーカー

『ナカタさんの人生が一体何だったのか、そこにどんな意味があったのか、それはわからない。
でもそんなことを言い出せば、誰の人生にだってそんなにはっきりとした意味があるわけじゃないだろう。
人間にとってほんとうに大事なのは、ほんとうに重みを持つのは、きっと死に方のほうなんだな、と青年は考えた。』

なかなか面白い言葉たちです。

全体を通して、「メタファー」という言葉が
キーワードとして出てきます。色々な比喩、暗喩めいた表現。
私は、私なりの解釈で読みましたので、それが本当はどういう意味なのか、考察などは他の方にお任せします。

個人的には、大島さんの言葉に共感や、気付きが多かったです。
生い立ちのせいか、多難な人生のせいか達観している大島さん。淡々とした言葉の中に、グラグラと煮えるような熱さを感じる人でした。

『この世界において、退屈でないものには人はすぐに飽きるし、飽きないものはだいたいにおいて退屈なものだ。
そういうものなんだ。
僕の人生には退屈する余裕はあっても、飽きているような余裕はない。
たいていの人はそのふたつを区別することができない。』

『僕らの人生にはもう後戻りできないというポイントがある。
それからケースとしては少ないけれど、もうこれから先に進めないというポイントがある。
そういうポイントが来たら、良いことであれ悪いことであれ、僕らはただ黙ってそれを受け入れるしかない。
僕らはそんなふうに生きているんだ』

『乗り越えるもなにも、僕がやるべきことはたったひとつしかない。
この僕の肉体という、なににも増して欠陥だらけの入れものの中で、なんとか日々を生きのびていくことだけだよ。
単純といえば単純だし、むずかしいといえばむずかしい課題だ。
いずれにせよ、うまくそれがいったからって、偉大な達成と見なされるわけでもない。
誰かが立ちあがって温かく拍手してくれる
わけでもない』

己の人生に重ねて深く理解できる言葉が多い作品は抜き書きする文章が多くなります。

最終的に少年は、前向きな決断をしたと思います。
全ての物事は「元に戻される」けれど、初めの頃のような暗さは感じない。
生をまっとうしようという前向きさを感じました。


【おわりに】

この本のタイトルを検索すると、サジェストに「意味わからない」とか出ました。
(わかりみ)

私の感想のまとまりのなさもすごいことになってますね。
まだ消化しきれていないのでしょうね。

あまり先入観を持たずにまっさらな状態のほうが面白さが見つかるかも知れません。(今更)

そのままを受け入れる、という姿勢で素直に読んでいくといいかなと思います。
意味はわからなくても、そういう世界もあるのだ、と受け入れていく。

冒険ものとかサスペンスとか、特定のジャンルを読みたい時はおすすめできませんけど、何でもいいなという気分の時に丁寧に読むのはいいかも知れません。

流行のライトノベルのようなわかりやすさは決してありませんが、読み手の経験やその時の気持ちで捉え方がかなり変化しそうです。
そう言う意味ではかなり面白い体験ができるのではないでしょうか。

興味が湧いたら、読んでみてください。
長くなりましたが、今日はこの辺で。
ありがとうございました。

いちこ


【参考】

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