#夏の読書感想文 藤本ひとみ「KZ’D いつの日か伝説になる」(講談社)
俺の夢はヒーローだ。多くの人間を救って英雄と呼ばれ、死んだら伝説の男になるんだ。
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この夏、本を読みました。
別に、宿題として読書感想文の課題は出ていないのですが、面白かったので感想文を残しておこうと思いました。
藤本ひとみ先生の書き下ろし長編ミステリー「KZ’ Deep File いつの日か伝説になる」です。
もともとは、ライトノベル形式で「探偵チームKZ(カッズ)事件ノート」というシリーズが講談社の青い鳥文庫より展開されており、小中学生に熱い支持を受けています。
2015年にはEテレの天テレアニメ枠でアニメ化されており、当時小4の僕もリアルタイムで見てました。
そのスピンオフとなっているのがこちらの「KZ‘ Deep File」というシリーズです。ライトノベル版で主人公となっていた女の子(立花彩)は登場せず、彼女を取り巻いていた個性豊かな男の子たちが事件を通じて成長していく物語になっています。
各描写が丁寧に描かれていて、主人公たちと僕との年齢が近いこともあり、これからの学校生活をどう生きていくかを考え直すきっかけにもなりました。
あらすじ
主人公は超名門私立中学に通う上杉和典(中2)。同じ学校に通う同級生の黒木貴和と小塚和彦も登場。そして本作の重要人物となるのが幼馴染の小林健斗。彼はある悲しい事情で中学受験を断念。高校進学も危ぶまれる中で、彼の中での想いが次第にある方向に変わっていく。
そんな4人が夏休み、黒木の誘いで京都で開かれる旧財閥グループの懇談会に参加。そこで繰り広げられる小林との駆け引きや、2つの蜂の巣の謎、時代は戦中の悲惨な現実にまで遡り、一連の事件の真実を追いながら、彼らがそれぞれ成長していく物語です。
黒木の過去
事件よりもとにかく心に残ったのが、黒木の抱える過去。アニメ版などでは、大人っぽくてスタイリッシュな立ち振る舞いをしていましたが、本作で明かされる黒木の生い立ちに衝撃。彼のような人がもし身近にいれば、なんでも上手にこなせ、すごく心強そうな感じがするものの、黒木自信が内に秘めた闇を人間味たっぷりに上杉に告白するシーンは、「もし自分が黒木と同じ境遇なら、自分の将来は…」と考えてしまうと、すごくやりきれない気持ちになってしまいそうです。
黒木は、上杉にこれを告白するために京都に誘ったようなもので、(実は、旧財閥と黒木との関係がものすごいのですが…) 自分の深い悩みを聞いてほしい、そして長く付き合いのある上杉なら理解してもらえるだろうという思いがあったそうです。黒木くんには、良い将来がありますようにと願いたいばかりです。
小林の計画
小林には、旧財閥グループの上位層を殺害し、彼らの資産を相続税として国に渡して国家に貢献するという計画がありました。確かに、貧困層と富裕層の格差を埋めるために国家を潤すというのは貢献という意味では大事なことであると思いますが、人を殺してでも、自分の人生をなげうってでも国のためになるというのは、考えが曲がっていると思います。しかし、小林の悲しい過去と、彼の置かれた現実を考えると、このような思考に至ってもおかしくはなかったと思います。
結局は、僕のような若い層が政治にどれだけ関心を持っているかが、全ての人が幸せに生きることができるかを決める一つの要素であるとも思いました。僕の年齢ではまだ選挙権は持ってないので、選挙権を手にするまで、世の中の色々なことを知らなければならないなと考えます。
記事冒頭のセリフは、小林が小学生の時に上杉に語ったセリフです。上杉が小林を犯罪者にしないように必死に駆け回るところも、男の友情のようなものを感じ、胸が熱くなりました。
戦中から繰り返される悪夢
一連の事件解決となったキーワードが「蜂の巣」です。動植物大好きな小塚が、謎に置き去りにされている蜂の巣を持ち帰って調査したところ、ある衝撃的な事実が発覚します。これが、太平洋戦争中まで時代を遡り、戦中の日本軍の壮絶な現場・環境を映し出していました。今月15日で終戦から76年を迎えますが、僕のような戦争を全く知らない世代が戦争を知る上でも、この本はもっと多くの方々に読んでほしいと思います。
一応フィクションなので、人物名・団体名は架空のものですが、史実との絡め方が本当に秀逸というか絶妙で、あたかも現実にあったかのような錯覚が起きてしまいました。
村上氏の思い
村上氏、といきなり出てきていますが、本名村上総は旧財閥グループのトップ。小林が狙っていた人物の一人です。事件を紐解いていくうちに、小林と村上氏との意外な関係が明らかになるのですが、村上氏の企業トップとしての即決性や知見の広さ、そしてリーダーとしての指導力に、長年の経験から裏付けられた実力を感じます。村上氏が幼少期(ちょうどそれが戦中)に遭遇した壮絶な体験にも驚きました。
最後、上杉が村上氏に追及する場面で、僕に刺さった村上氏の大切な一言がありました。
君たち若者が持つ快活さと真摯さ、繊細さ、
どんな事にも真っ直ぐに向かっていく妥協のない気持ちは、
今後いつの間にか消えていき、二度と戻ってこないものだ。
輝くような今の時間を大切にするといい。
作者の藤本ひとみ先生が伝えたいメッセージだと思います。
今、世の中は色々大変ですが、そんな逆境に負けず、今の時間を大切に生きていきたいと思いました。
作中に散らばった小ネタなど
「KZ’ Deep File」はあくまで「探偵チームKZ事件ノート(本編)」のスピンオフということなので、本編との繋がりがいくつかありました。
その代表的な例が本編主人公「立花彩」のぼかし出演です。明確にはっきりと「立花彩」とは記載されていませんが、彼女を思わせるようなフレーズが唐突に現れ、ライトノベルやアニメから入ったファンを楽しませているような気がします。
また、この記事を読んでるKZファンはおそらく、「若武はなぜ登場しない?」と気にかけている人もいると思いますが、ネタバレすると彼は膝の手術のため、今回はお休みでした。(若武のような性格は今作の雰囲気に合わないから、意図的に登場を控えさせたのでしょうか…)
他にも語りたいことは山ほどありますが、この辺にしたいと思います。
結論をいうと、めちゃめちゃ面白かったです。
出会って良かった作品でした。
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