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お疲れさん!


 去る12月末のある朝9時。母と畑へむかう。

 お正月用の野菜を取るためだ。うちだけでなく、妹たちや親戚、近所の方やお世話になった方々の分も用意する。

 今日は、先日取らなかったもの、ブロッコリー、キャベツ、大根、ほうれん草、正月菜、カブを収穫する。

 まずは、ブロッコリー。ブロッコリーは、真ん中の株が、一番大きくできる。それを取った後、脇から小柄な株が次々とできていく。スーパーなどで売られているのは、真ん中の株だ。母は、手早く、鎌で切り取る。真ん中も脇も。わたしが受け取り、バケツに入れる。ブロッコリーは蕾の集合体。暖かい冬、放っておくと、次々と花が咲いていく。どんどん収穫しないといけない。あっという間に、バケツは満タンだ。

ブロッコリー



 次は、キャベツを収穫する。下肥が良かったのか、大きく育っている。外葉付きで、わたしがなんとか抱えられるくらい。母は、キャベツを一つ選ぶと、斜めに倒した。そうすると、するりと取れる。キャベツの根っこは、一本だけ。その根を鎌で取り、外葉を手で取ったら、見慣れたキャベツになる。持ち上げたら、ずっしりとした重みを感じる。大きくなったなぁ。


キャベツ


 大根の収穫は、特に気を使う。大根は、土深くまで育ち、意外と柔らかく、とても折れやすいからだ。前日に雨が降って、土は湿っている。この日は6本取った。母が、スコップで、大根の周りの土を掘る。わたしは、大根を回しながら、ゆっくりと引き抜く。この塩梅が、本当に難しい。差し上げる分の大根、折れているわけにはいかない。

 気をつけていたのに、2本折ってしまった。2本目は、ふたりして大笑い。あまりににも、見事に、折れていたから。母に呆れられると思ったが、「折れた大根は、ゆず大根にするからええわ」と言ってくれた。大根の葉っぱをひと束ちぎり、それで表面の土を落とす。残りの葉っぱはつけておくと、運びやすい。

大根よく見ると真ん中2本折れてます…


 ほうれん草は、まだ収穫するには早いくらいのおチビさん。それでも、ほうれん草を楽しみにしている夫の両親の分だけ、取ることにした。母が大きそうな葉を見つけては、取ってくれた。根を少し残して、鎌で刈る。柔らかそうな葉っぱ、美味しそうだ。

おチビのほうれん草


 お次は、正月菜。小松菜の一種だが、愛知県の一部などでしか、育てられていないようだ。この菜葉は、うちの雑煮に欠かせない。うまく育たないときもあり、必ず2回に分けて、種を蒔く。今年は、先に蒔いたのは、ジャンボサイズ。後のは、まだまだ赤ちゃんサイズ。

 赤ちゃんサイズを食べるのは、忍びない。ジャンボサイズを収穫する。毎年、アブラムシの被害にあうので、今年はネットを被せた。おかげで、被害もなく、綺麗な葉が並んでいる。今年は、どうしてか、茎がとても折れやすい。慎重に収穫し、カゴに入れる。

正月菜



 最後は、カブ。これも、まだまだ小さい。直径3センチほどか。ぽんぽんと母が抜いていく。わたしは葉を取り、土を落とし、バケツに入れていく。丸く、かわいい。今年は、例年より皮が硬めだ。

カブ


 野菜を一通り収穫したら、うちへ戻り、野菜を配れるように、新聞紙で包んでいく。葉物野菜は、外葉を取り、一把ずつ、輪ゴムでまとめ、新聞紙で包む。大根は、古タオルで土を拭い、新聞紙で包む。カブは洗って、生乾きのまま、新聞紙に包む。包んだ新聞紙が、ばらけないように、ガムテープを使う。それから、新聞紙に、中身と誰用かを、マーカーで記入していく…

 野菜を包みながら、母と話していて、野菜作りのしんどさの話になった。母はもう70をいくつか超えているし、体力もなくなってきている。父も80手前。もう、野菜作りをやめようかと、何度も話が出てきている。

 わたしが主にやるよと、話しているが、その考えは甘いらしい。夫は、仕事がとてつもなく忙しいから、あまり頼れない。わたし、ひとりでやるのは無理だと、母は思っているんだ。確かに、トラクターには乗れないし、力はある方だとしても、男ほどにはなく、あまり重いものも運べない。

 でも、一番大きな理由は、母がこんなきつい仕事をわたしにはさせたくないことのようだ。前の夏、野菜を育てて思ったが、本当に野菜は思うようにならない。比較的、育てやすい夏野菜でも、枯らしてしまったものもある。

 母が、ポツリと、「それでも、娘たちには手作りの野菜を食べさせたいんだわ」と言った。そのとき、素直にわたしもその中に入っていると、思った。今までは、「妹たちのことね」と、幾分冷めた気持ちでいたのに。やきもちを焼いてたんだなぁ。

 そうして、その母の気持ちが、今のわたしにはよくわかる。わたしも、離れて暮らす娘に、手作りの野菜を食べさせてやりたい。たまにで、いい。美味しい美味しいと、目の前で食べているのを見ると、あったかい気持ちになる。それから、食べているところを、想像するだけでも、うれしくなるんだ。

 よし、母がやりたいというなら、手伝っていこう。そうして、母が辞めるとなったとき、わたしがやりたければ、やれる分だけ続ければいいんだ。やらされているから、やっていくへ。そう気持ちが変わったら、この野菜準備も、楽しくなってきた。やっていることは変わらないのに、不思議だ。野菜作り、規模を小さくしながら、続けていけたらいいな。

 それからは、話も弾み、父も手伝ってくれて、ワイワイと準備ができた。初めて両親に遠慮なく話せた気がする。柔らかい言葉でだけれど、言いたいことをふたりに言えた。

 母は、パッと切り返し、ポンポンと会話になる。なんてことはなかった。父はちょっと、しゅんとしていたから、「きつい言葉になったかも、ごめん」と一応、フォローした。そうしたら、父がやんわり笑った。

 笑い合いながら、手をひたすら動かす。最後、そうしてできた野菜たちと、先に収穫しておいた、白菜、ねぎ、人参も加えて、持っていく人ごとに分け、大きなビニール袋に入れる。この野菜たちは、前に母と父が収穫してくれたもの。

 それで、ようやく全てが終了。ここまでに、3日ほどがかかった。しんどくても、こうやって、笑い合えていたら、大丈夫かもしれない。

 3人そろって、痛む足腰を伸ばし伸ばし、言い合った。

 「はぁ、できたできた。今年もお疲れさん!」


畑 一番手前は大根



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