見出し画像

風に向かって


 風に向かって、必死に、自転車を漕いでいる。正直、歩いた方がはやそうだけれど、降りるもんか、と意固地にもなっている。

 日差しがあり、気温もさほど低くはないが、冷たい風が容赦なく、体温を奪っていく。鼻が冷たい。手先足先が、かじかんでくる。

 時刻は16時。日は傾き、真横から照らされているように、眩しい。風をさえぎるものはなく、田んぼと畑が広がっている。

 稲刈りの終わった田の刈り取った稲の根本から、薄緑の葉がまた伸びてきている。畑には、赤子の手のひらくらいの大きさのほうれん草が、一面に植わっている。すべてが、西日を浴びて、黄金色に輝いている。

 遠くの山々は雪雲で見えない。わたのような、それでいて、しっかりとした重さを感じる雲が、西から北の空を覆い尽くしている。風向きが少し違っていたら、こちらも雪だったかもしれない。

 自転車を思いっ切り、漕ぐ。強い風と戦っているようだ。負けるもんかと思う。ただ、もう余り体力は残っていない。

 帰り道は、残り半分で1キロほど。信号待ちで止まると、そのまま休憩したくなる。でも休んだら、もう漕げない気もする。

 はやく家に帰って、あったかいお茶を飲みたい。ちょっとだけ、甘いものも食べたい。その一心で、自転車を漕ぐ。

 息があがる。腿がぱんぱんに張っている。筋肉痛になるかもしれない。自転車なのに、とてもしんどい。お腹が減って、力も出ない。

 最後の交差点に差しかかる。もう家はすぐそこだ。顔が冷え切っている。寒風マッサージ。幾分、ほほが引き締まっていないだろうか。

 ふらふらになりながら、帰宅した。お湯を沸かす間に、洗濯物を取り入れる。

 あたたかなカフェオレを飲んだら、ようやくホッとした。ピーナッツクリームのパンは、あっという間になくなった。

 血が、ゆっくりと身体を巡っていくのを感じる。指先が、じんわりとあったまっていく。



この記事が参加している募集

#私のコーヒー時間

27,149件

#再現してみた

1,776件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?