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「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は少年ジャンプでも成功する?

「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」の公開から今月で1年、にわかMCUファンの自分でも流石に寂しくなってきました。11月公開予定の最新作「ブラックウィドウ」まで、歯を食いしばって生きていこうと思います。
そんな人気ユニバースの中でも異色を放つシリーズが、今回の記事で取り上げる「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」です。本作ではMCUで初めて本格的に銀河系の地球以外の惑星を舞台に物語が展開されており、世界観の拡張が感じられる作品となっています。

今回は、2014年に公開された「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の1作目について、MCUではアントマン派の自分が感想として色々まとめていきたいと思います。

有名じゃない「彼ら」と有名すぎる「あの男」

まず、本作のMCU上での立ち位置から解説させていただきます。
先述した通り、本格的に地球の外の銀河系が舞台となっている本作では、MCUの世界で非常に重要なアイテムである「インフィニティ・ストーン」の詳細が判明し、あらゆる世界や宇宙に散らばり一つ一つでも強大な力を持っている事が説明されています。本作自体も、インフィニティ・ストーンの一つである「パワー・ストーン」を巡る物語となっています。
また、2018年に公開され、今までに登場したMCUのヒーローのほとんどが共演した「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」まで、他のヒーローたちとは全くと言っていいほど関わりがなく、かなり独自路線の色が強いシリーズでもあります。

そして大事なのは、既に映画化されているアイアンマンやキャプテン・アメリカなどと比べて、原作ではかなりマイナーなチームだという事実です。
そのためファンからは当初、こんな知名度の低いヒーローをMCUの新作として打ち出して大丈夫なのか?という不安の声も多く上がったそうです。
例えば少年ジャンプの人気作品映画化プロジェクトで、ONE PIECEやNARUTOの次の作品として、SKET DANCEを発表するようなもんだと思います。不安で夜も眠れませんよね?
でもフタを開けたら大成功でしたので、やはりマーベルスタジオのスタッフには先見の明、いや、見聞色の覇気が備わっていると言っていいでしょう。

そんなマイナー作品の実写化となった本作ですが、今後のMCUの命運を握っていくキャラクターが本格的に初登場していることも重要です。
そう、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」と「アベンジャーズ/エンドゲーム」でメインヴィランを務める最強の悪役、サノスです。
彼はこの映画の時点で宇宙の秩序を自分なりに守るための行動を次々と起こしている最中であり、その行動が後々の作品でアベンジャーズと衝突する最大の原因となっていきます。しかし、本作のメインヴィランである彼の配下のロナンという男がパワー・ストーンを手に入れたことで裏切られ…という形でこの映画に彼は関わっています。また、彼の養女であるキャラクターが本シリーズのメインキャラとして登場するなど、間接的にもこのシリーズに深く関連しているキャラクターでもあるのです。

ストーリー上はMCUの本筋との関連が比較的薄いにもかかわらず、一番の宿敵となるキャラクターを本格的に関わらせるという、複雑な手法が使われている本作、ここからどうストーリーが展開していくかの想像がはかどるような、とても面白い試みだと個人的には思います。
ただ、本作でのサノスの扱いはけっこう酷く、先述したロナンや養女2人にあっさり裏切られた挙句、彼自身も特にその事に対して動いたりする描写がないという、通常よりかなり小物臭い演出が取られています。
満を持しての登場だったにもかかわらず、ちょっと残念ですよね。

サノス

世界観はシリアス、キャラは愉快

では、本作の内容について触れていきます。
まず本作の世界観ですが、決して明るいものではありません。略奪や拷問、違法な実験や残酷な大虐殺がいとも簡単に行われる、何もかもがまかり通ってしまうような世界、それが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の舞台です。そして、登場キャラクターの多くが、家族や故郷、自分の身体を失って、やさぐれた性格になっているのも特徴で、これは世界観自体をよりシリアスにするのと同時に、本作のテーマにも深く繋がっています。

しかし、そんな明るさの不足した世界観を補うかのように、キャラクターの性格や会話は非常にコメディチックで愉快なものになっています。
特に、常時軽口を叩いてミッションをこなすリーダーのピーター・クイル、小動物のような…というかまんま小動物の見た目でブラックなジョークを飛ばすロケット、どんな時も「I am Groot(私はグルート)」としか言わないグルート、彼らを筆頭に多彩なキャラがこの映画のムードを非常に明るく、そしてとても笑える出来にしています。まあ、自分は洋画吹き替え派なので、ピーターを担当した山寺宏一さんやロケットを担当した加藤浩次さんの声がツボだったというのも、本作でかなり笑えたポイントである気がしますが…
笑いのポイントは色々ありましたが、個人的には刑務所に入れられたガーディアンズたちがロケットの考えた脱獄プランを聞くシーンで、ピントがぼやけている背景の部分でグルートが躊躇なく脱獄に必要なスイッチを力づくで取り外している場面が一番笑えましたね。「ガーディアンズ2」のOPもそうですが、このシリーズはこういうメインの場面とその背景のギャップで笑わせるのが得意な気がします。
比喩表現の知識に乏しい大男・ドラックスがいちいち話の流れを止めてピーターに不毛な質問をする流れも結構好きですね。

声優

更に言えば、2014年時点でコメディパートが多いMCU作品って個人的には前例が無かったと思うんですよ。自分が好きなアントマンも、この映画でのコメディパートの成功があったからこそ、より人気を集めたんだと思いますし、既にシリーズ2作が発表されていた「マイティ・ソー」シリーズも、ガーディアンズのヒットがあったからこそ、3作目の「バトルロイヤル」で大胆な路線変更に踏み切ることができて、結果人気が上昇したんだと思われます。いわば「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は、MCUの世界の拡張だけでなく、MCUの表現の拡張も成し遂げた、革命的な作品だと言えるでしょう。

唐突な展開がどこか垣間見えるストーリー

次にストーリー全体についてですが、MCUらしく完成度はなかなかのものだと思います。
まずはオープニング。ピーターの母が亡くなり、更に追い打ちをかける形でピーター自身も宇宙盗賊「ラヴェジャーズ」のヨンドゥの宇宙船に攫われるという、この上なく悲惨な主人公の身の上を展開した後、月日が経ち大人になった彼が、トレジャーハンターとして愛用の音楽プレイヤーを相棒に軽快なステップで仕事に勤しむという対比が素晴らしいですね。
このオープニングでしっかりと世界観やキャラクターの人物像に関してSFチックなアクションを交えながら説明されており、更に先述したような「シリアスな世界観を補う愉快なファクター」という手法が、とても楽しめる形で取られているのも見事です。
このシーンだけでなく、ピーターの愛用している音楽は映画の随所で使用され、それに伴いアメリカの人気テレビドラマやカルチャー関連の小ネタも多く登場しているので、詳しい方はもっと楽しめると思います。自分はアメリカに足を踏み入れたことも無いJapanese Ninjaなのでこういうシーンは微妙な表情で見ていましたが(笑)

そしてガーディアンズたちの最悪な出会い、牢獄からの脱出を目指し打算的な関係とはいえ団結していく様子が、王道のバトルアクションと本作の持ち味であるSF要素の強いアクションを繰り広げながら、オープニングで登場しなかったキャラの人間関係、性格の説明も挟みつつ、淀みなく展開されていきます。
そして訪れる、ガーディアンズが打算的な関係から仲間意識を持つようになる瞬間。ただここでピーターがヒーロー的な使命に目覚めるきっかけがかなり弱く感じました。読解力不足かもしれませんが、唐突にアウトローだったピーターがヒーローっぽい行動を起こすので違和感を覚えました。ここはもう少し葛藤とか揺れ動きの描写が欲しかったところです。

ともかくヒーローとしての使命に目覚め始めた彼ら、そこからパワー・ストーンを守るためにヨンドゥと一応の協力関係を結ぶことになります。ここの流れはわりと上手かったですね。ピーターの命を張った行動は先ほど同様唐突でしたが、ここでヨンドゥの今までの行動が伏線として生かされ、更に「ピーターに甘いところのある」彼の内面を掘り下げる役目も地味にですが果たしています。

ヨンドゥ

しかしその後でまた「唐突な」展開があります。序盤でガーディアンズを逮捕した警察にピーターが「宇宙の崩壊を防ぐため」協力の要請をするのですが、なんかあっさり信用されたみたいで拍子抜けしました。一応、ピーターと要請相手の警官は顔なじみという描写がありましたが、脱獄犯の言っている事を簡単に信じているというのは警官としてどうかと思いますし、ご都合的で唐突な展開だと感じました。

そしていよいよヴィランであるロナンとの直接対決。肉弾戦あり戦闘機のビーム攻撃ありパワー・ストーンの圧倒的な能力ありとここでも多彩なアクションで楽しましてくれます。
ただ、正直ロナンにヴィランとしての魅力がイマイチ欠けているように思えますね。家族の仇として多くの人々を虐殺した強者というのは伝わりますが、その家族の説明がサラっとしているので感情移入もしずらいですし、そもそも先述した通りサノスを裏切って勝手にパワー・ストーンの力を手に入れている分、元の身勝手さがより強調されてサノス以上に小物に見えます。
同じ小物ヴィランでも、「アベンジャーズ(2012)」のロキみたいに笑えるというわけでもないですしね。この頃はまだ完全に敵だったネビュラも含めて、全体的に敵陣営の背景が薄っぺらく小物で魅力に欠けるというのは否めないです。

ロナン

そしてその後のグルートの自己犠牲、今まで見せてきた彼の優しさとその能力を最大限に活用した、彼にしかできない手段で仲間を守るという感動のシーンでした。グルートを通じてガーディアンズが「ひとつ」になった瞬間でもあり、ここで完全に彼らは打算的な関係無しの仲間になりましたね。
そしてクライマックス、パワー・ストーンの力を1人で受け止めようとするピーターを、手を繋ぐことで負担を少しでも軽くしようとするガーディアンズメンバーのシーンも、1人では心許ない力しか持たない彼らが、団結で強大な相手を打ち倒すという、まさに本作のテーマそのものとも言えるメッセージを体現しています。ピーターがガモーラの手を掴むシーンを冒頭の母が亡くなるシーンと重ね合わせるのも、ベタながらニクい演出ですね。この手を繋ぐシーン、繰り返し少年ジャンプの例えで申し訳ありませんが、「銀魂」の金魂編での万事屋とお妙さんを思い出しました。

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このように、色々と唐突な部分はありますが、それでも説明的になりすぎず、一辺倒なやり方に終始せず、キャラの設定をうまく生かしたストーリーはとても感動的で、面白いものになっています。
しかし、最後に判明するある事実がこの映画のテーマ性そのものと矛盾してしまっているという、大きな問題点を孕んでいます。

ピーター・クイルは少年ジャンプの主人公だった

ラストで明かされる秘密、それは「ピーターは純粋な地球人でなく、地球人の母親と古代の宇宙人のハーフであり、パワー・ストーンの力に長く耐えられたのもそれが大きく影響している」というものです。つまりピーターはある種のサラブレッド的な存在だったのです。

先述した通り、本作のテーマは「仲間との団結」だと考えられます。ガーディアンズのメンバーは最初、様々なものを無くし「持たざる者」となったアウトローでした。しかし、それでもヒーローとしての自覚に少しずつ目覚め、1人じゃ立ち向かえない場面も仲間と一緒なら乗り越えられる、そういったメッセージを伝えたかったからこそ、グルートは仲間たちを守りながら散っていき、4人でパワー・ストーンを受け止めようとしたのです。
しかし、ピーターが「特別な血」の持ち主だということが本当であれば、彼がそもそも「持たざる者」だったのかというのも疑わしくなり、グルートの自己犠牲も、パワー・ストーンの力に立ち向かったガモーラ、ドラックス、ロケットも、ひょっとしたら無駄なお節介だったんじゃないかという疑念を、個人的に感じざるを得ませんでした。

もちろん、次回作に繋げるための重要な設定だという事は分かりますが、それにしても今まで描いてきたテーマについて、最後でモヤモヤさせてしまうような方法をどうしてやってしまったんでしょうか。ソーのような神の力も、キャプテン・アメリカのような超人血清も持たない、ただ格闘の強い生き物の集まりだったからこそ良かったのに、どうして先人と並べてしまうような設定を…
ONE PIECE のルフィがガープやドラゴンの子孫だと判明した時や、NARUTOのうずまきナルトが四代目火影の子孫だと判明した時の、何とも言えない落胆を思い出すような展開でした。「友情・血統・勝利」が少年ジャンプの三大原則だと思い知ったあの日と同じ風が吹きましたよ。ピーターはどうか、スケット団のボッスンであってほしかったんですが…

この事に関して、申し訳程度でもフォローがあればまだマシになっていたんですが、それすら無かったみたいなので本当に残念です。
あとラスト関連で言うと、結構な人数のパイロットが空中戦で死んだはずなのに、「無事に我が星は救われた!」というムードをじんわり押し出しているのはどうなんだ?

人生が変わったのはガーディアンズだけじゃない

最後は不満タラタラになってしまいましたが、それでもアクションの多彩さ、個性豊かなキャラの面白さ、陽気な音楽など楽しめるところがかなり多い映画なのは変わりありません。
この映画をきっかけにピーター・クイルを演じたクリス・プラットはブレイクを果たし、後に「ジュラシック・ワールド」で主演を務めたことで人気を不動のものにしました。あの名優、アーノルド・シュワルツェネッガーの娘と結婚するなど、プライベートでも注目されています。

そして何より、この映画の監督を務めたジェームズ・ガンの知名度も急上昇しました。続編である「2」の監督は勿論、MCUの対抗馬として知られるDCエクステンド・ユニバースの人気作「スーサイド・スクワッド」の続編や、『スーパーヒーローの力を持つ者が悪の道を走ったら?』というコンセプトを持つホラー映画「ブライトバーン/恐怖の拡散者」など、様々なヒーローたちの物語を製作する敏腕クリエイターとして、現在も活動されています。
ガーディアンズの3作目も現在少しずつ製作が進んでいます。一時は彼の過去のツイートが色々と不謹慎だったため監督を解雇されるものの、奇跡の復帰を遂げて話題になりました。
10年前のツイートも見逃さないとは、さすが悪を許さないディズニー。

いずれにしろ、今後もヒーロー映画界で活躍が期待されるジェームズ・ガン監督。「ブライトバーン」はあくまで製作としての関わりですが、かなり斬新なコンセプトに挑戦した意欲作でもあり、かなりグロテスクな表現にもしっかりと取り組んでいる手の抜いていない出来となっているので、興味がある方は是非見て頂ければと思います。ちなみに自分はその日の夕飯のステーキを半分残して結局夜に吐きました。

長文となってしまいましたが、最後まで見て頂きありがとうございます。

トモロー

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