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「オズランド 笑顔の魔法おしえます」で遊園地の魅力を再発見できるか

今月末、東京都民だけでなく多くの人々にこれまで愛されてきた人気遊園地「としまえん」が惜しまれつつもその歴史に幕を閉じます。
近年の日本では、東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオジャパン、サンリオピューロランドなどの所謂「テーマパーク」に人気が集まり、昔からの流れで存在する王道の「遊園地」には少し厳しい時代が続いていると感じます。としまえんが閉園した後、同じ敷地に「ハリー・ポッター」のテーマパークが作られるというのも、この説をより補強している気がしてなりません。

しかも今回閉園するのは東京でもかなり有名な部類の施設であり、この報道に戦々恐々しているのは、日本に100前後存在しているとされる地方遊園地の皆さんでしょう。明日は我が身、人の振り見て我が振り直せ、日進月歩のアミューズメント市場で奮闘しているスタッフや企画担当の方々には本当に頭が下がります。
自分はあまり首都圏以外の地域に旅行に行く方ではありませんが、それでも旅行の際には毎回気乗りしない人がいる時もその地域の有名な遊園地に行っています。気乗りしない人も最後には楽しんでいるので結果オーライです。最近は一人旅のパターンが増えていますが、これからも普通の遊園地の応援をできる範囲で続けていきたいです。

そんな地方の遊園地を舞台とした映画が、今回紹介する「オズランド 笑顔の魔法おしえます」です。2018年に公開された本作は、マンガ「海猿」の原案などで知られる小森陽一さんの小説を元に、原作に登場する遊園地のモデルとなった熊本県の「グリーンランド」で撮影が行われたことでも知られています。
今回は、そんな遊園地のリアルな臨場感も楽しめそうな「オズランド 笑顔の魔法おしえます」について、遊園地には積極的に行くけどお化け屋敷系には急に消極的になってしまう自分が、鑑賞して思ったことを色々と感想としてまとめていきます。

オズランド2

超一流ホテルチェーンに就職しながら系列の地方遊園地への配属という不本意な辞令を受けてしまった波平久瑠美。落胆する彼女を迎える広大な田園風景とそこに突如出現する遊園地。そして遊園地で彼女を待っていたのは、これまでに数々の企画を成功させ、「魔法使い」の異名をとる天才社員・小塚慶彦と個性的過ぎる従業員たちだった。憂鬱な気持ちで遊園地での業務にあたる久瑠美だったが、各支社で目覚しい成果を上げたMVP社員は、好きな部署への異動希望を出せることを知り、MVP社員を目指して仕事に邁進するが……。(映画紹介サイトより引用)

あの俳優さんにカラフルは似合わない気がする

例によって、まずは製作陣とメインキャストの方々について紹介したいと思います。

本作でメガホンを執ったのは、波多野貴文監督
どちらかというとテレビドラマで監督を務める場合が多い方で、代表作には「SP 警視庁警備部警護課第四係」「BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係」などのドラマがあります。多分サブタイトルが長い作品が好きなんでしょうね。映画デビュー作も「SP」の劇場版でした。
経歴から見ると、シリアスな雰囲気がメインの作品の経験が豊富な監督さんという印象ですが、それとは対照的な遊園地という舞台をどう料理していくかが気になるところです。

その監督を補完する役割としても存在しているのが、本作の脚本を担当した吉田恵里香さんです。
ドラマだと「花のち晴れ~花男 Next Season~」、映画では「ヒロイン失格」「センセイ君主」などを手掛けた経験がある方です。ちなみに自分は当然全部見た事ありません。「映画ファン失格」です。
何はともあれ、このような分かりやすく若者向けでポップな作品のあらすじを製作した彼女が、波多野監督との出会いで「オズランド」に遊園地らしい楽しいムードを付け加えているような気がしますね。

続いてキャスト陣です。
主人公の波平久瑠美を演じたのは波瑠さん
NHK朝ドラ「あさが来た」で主人公を演じたことで本格的にブレイク、その後も「あなたのことはそれほど」「G線上のあなたと私」等の人気ドラマや、「流れ星が消えないうちに」などの映画で主演を務め、人気女優として現在まで活躍されています。
平凡な女性の役やサディスティックな面を持つ役、コメディからドロドロの愛憎劇まで広く堅実にお芝居ができる実力をもつ役者さんであり、本作でもその力を遺憾なく発揮されていますね。主人公の役名からも分かることですが、原作者の小森さんが波瑠さん自身をモデルとしてこのキャラを造形していったこともあり、ハマり具合も文句なしです。

「魔法使い」と呼ばれる天才社員・小塚慶彦役にキャスティングされたのは西島秀俊さんです。
ドラマ「あすなろ白書」のメインキャストの1人に選ばれた事でブレイク、近年では「ストロベリーナイト」シリーズや「MOZU」シリーズ、「ダブルフェイス」「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」などのドラマ作品の影響で、黒いスーツを着て戦う警察の人というイメージがかなり強くなっている俳優さんでもあります。
もちろん、日常の中でのんびり過ごすようなキャラも彼は多く演じているのですが、どうしても素性や本当の感情が透けて見えないような、底の知れぬ人物になり切る方が彼にとっては得意分野なのかな、と思います。最近だと「空母いぶき」の秋津艦長なんかまさにそれでしたね。だから今回の気軽に冗談を飛ばす人情系のキャラは正直どうかな…?と感じてしまうところもありました。いや決して下手という訳ではないんですけどね。
まあ今後もどんどん黒いスーツを鬼畜どもの血で汚していってほしいと切に願っています。(笑)

その他、主人公と同期入社のスタッフ・吉村役には岡山天音さん、主人公の恋人・小西役に中村倫也さん、年下でありながらもスタッフ歴は先輩である玉地役には橋本愛さん、グリーンランド園長の役には柄本明さんがそれぞれキャスティングされています。
この中だと特に橋本愛さんの演技が印象的でした。「告白」の時のような、ミステリアスでクールな印象を彼女には抱いていたんですが、本作ではそれと正反対と言える陽気な先輩スタッフを見事に演じ切っており、彼女の演技スキルの高さが窺えました。本作の舞台が橋本さんの地元・熊本県という事もあり、ナチュラルにテンションが上がってたんですかね。

橋本

行ってみたいな、グリーンランド

まず、この映画を鑑賞し終わって最初に浮かんだのは、「こんな楽しそうな場所が近くにある地元の人が凄まじく羨ましい」という感情でした。

メリーゴーランドやジェットコースターなどの定番のアトラクションから、いろんな動物と出会えるふれあいコーナー、ヒーローショーやアーティストライブが楽しめる屋外ステージなど、お客さんが楽しめるように様々な角度からエンターテイメントを仕掛けているグリーンランドの魅力は十分に伝わってきましたし、主人公である久瑠美のお仕事シーンを通じてそれを描いているので不自然さもあまり感じませんでした。
特に、コンサートをやってくれるアイドルグループのために閉園後の遊園地を特別に開放するシーンとか本当に楽しそうでした。夜用の照明が光る中で自分たちのためだけのアミューズメントがそこにあるっていうだけでワクワクしますもん。魅力的なアトラクションが一層、その力を増したかのように見せる演出は見事だと思います。

そして、そこで働く人々の姿を描いた本作のメインストーリーも、派手さはありませんが王道のお仕事ムービーの筋書きが展開され、それぞれのキャラを魅力的に描写しています。こんな人が働いていたらもっとグリーンランドが楽しそうだなぁと観客に思わせるのが上手ですね。
例えば、序盤のニセ爆弾騒ぎから新人歓迎会のシーンではふざけているようにしか見えなかったスタッフ一同を、その後の迷子を捜すシーンでは緻密な連携の下にそれぞれの役割をこなして動く、プロフェッショナル集団として捉えています。このギャップがベタだけど良い。少女漫画以外でもギャップ萌えは存在するんだと思いました。まあ、これは「青夏 きみに恋した30日」でも感じた、「地方の人=温かくて人情に溢れた人」というステレオタイプ的な思考を少なからず感じる表現ではありますが…

このギャップ萌え展開と同時に久瑠美サイドのストーリーも進んでいきます。自分の思いとは異なる勤務地で仕事をしなければならず、不本意ながら少しずつその仕事に情熱を見出していく様子は「南極料理人」を思い出しました。序盤にやたらと小塚からゴミ拾いを頼まれて辟易していた久瑠美が、お客さんをメインアトラクションにも案内できない自分に気付き、園内を巡るゴミ拾いがいかに大事で、それをおざなりにしていた自分がいかに仕事と向き合っていなかったかを思い知るのもシンプルですが結構いい流れだと思いました。上司に特別厳しい人がおらず、これらの気づきに関して最終的に久瑠美自らが考えて自分の態度を改善していくという、全く説教臭さを感じさせない姿勢が素晴らしいですね。こういう要素のおかげでグリーンランドという場所が一層魅力的に見えたんだと思います。

ちょっと難点だと感じたのは、このお仕事ムービー的な面白さがある「久瑠美の成長パート」が中盤の小西との対峙のシーンで9割方終わってしまっている点です。小西はグリーンランドのことを半ば見下し、自分がいる東京へ久瑠美を連れ戻そうとするキャラなのですが、そこで久瑠美が彼に主張した意見自体が本作の結論そのものと言っていい内容であり、そこでほぼ久瑠美メインの物語は完結しているのです。なのでそこからは小塚の退職と、開園50周年アニバーサリーのエピソードがメインとなってそれなりに盛り上がりはあるんですが、本筋とうまく関連できていない感がどうしても残っているんですよね。この二部構造がもう少し噛み合っていれば一層良い映画になっていたと思います。

考えられ得る「ドロシー」のもう一つの結末

この映画のタイトル「オズランド」は、世界レベルで有名な児童文学作品「オズの魔法使い」から取られています。一番分かりやすい意味で言うと、小塚がグリーンランドの運営会社内で「魔法使い」と呼ばれている点、グリーンランドが日常の中の非日常という魔法でお客さんを魅了する場所であるという点からこのタイトルが付けられていると考えられます。

その上、本作は細かい点でも「オズの魔法使い」を踏襲した構成で作られています。
久瑠美が最初にグリーンランドに出勤するシーン、そこで彼女と吉村を出迎えたのは玉地を初めとする3人のスタッフでした。そう、ドロシーの仲間となるカカシ、ライオン、ブリキとシンクロしているんです。3人のキャラや性格も含めて原典を意識しているのがよく分かります。惜しいことに、作中ではブリキの役割を持つあのメガネおじさんよりも、濱田マリさんが演じるおせっかい婚活おばさんの方が目立っちゃってましたが…(笑)

魔法使い

また、終盤の2度目のニセ爆弾騒ぎのシーンでも「オズの魔法使い」で登場する「気球」がキーアイテムとして働いています。爆弾を遊園地から遠ざけるために車ではなく気球を使うというのは、普通に考えるとなかなかの愚策な気もしますが、先述してきた要素を踏まえれば納得できるところではあります。まあどう考えても車の方が速そうですが。
そしてそこに、サプライズのターゲットである小塚(=「魔法使い」)が1人で乗り込んで飛び立つという展開も、細部に違いはあれどほぼほぼ原典を踏襲しています。ドロシーが1人取り残される場面ですね。

そしてこの映画は「オズの魔法使い」の、考えられ得るもう一つのルートを描いた物語という風に読み取ることもできます。
原典の方では主人公のドロシーは、自分の世界の家に帰ってめでたしめでたしドロシーのハッピーエンドを迎えますが、「オズランド」が表現したのはドロシーが竜巻に巻き込まれた末に辿り着いた世界(=「グリーンランド」)へ価値を見出し、そこに残る決断をするというストーリーなのです。
どちらの選択が名作に相応しくて、そうでないルートがダメだという事では断じてありません。あくまでそれは観た人それぞれの感想だと思いますし、原典のストーリーをお仕事ムービーに落とし込む以上は「ドロシーがオズの世界の方に残る」という選択が相応しいのは明白でしょう。
自分はルートの良し悪し以前に、既に世界中から認知され評価されている傑作文学の、別の可能性を探って現代的な映画に取り入れた製作陣の志を特に評価したいです。是非とも「オズの魔法使い」の熱狂的ファンの方が本作を鑑賞した感想を是非聞いてみたいですね。

魔法が解けるとツッコミどころに気付く愚かな男

このように、堅実なストーリーの裏に挑戦的な姿勢も見られる本作ですが、一方で「楽しい魔法の世界」とはかけ離れた、お仕事ムービーには付き物の現実的な指摘点も多々見られます。

まずは先述した序盤のニセ爆弾騒動、このシーン自体は、グリーンランドに関する様々な設定や情報を「新人への説明」という形でスムーズに行っており決して悪い出来ではないのですが、最終的に何も知らない新人をヒーローショーに強制的に出演させるというのはちょっと共感性羞恥を覚えてしまいました。先輩側の気持ちがどうであれ、見世物にされた新人側は当然いい気持ちはしないでしょうし、「温かい職場」として描かれているグリーンランドの設定がブレてしまっているように感じました。

「温かい職場」らしからぬ点としてもう一つ、スタッフがやたらと緊急車両を呼びたがらない点も気になりました。
確かに、楽しい遊園地に突然のAmbulanceは多少混乱を起こしてしまいそうですが、本作ではスタッフがアトラクションの整備中に落下して負傷した時も、Ambulanceは園外で待機させてそこまでスタッフが負傷者を運んでいます。なんか、そことなくブラックな匂いがするといいますか、労働災害防止協会からマークされる事案っぽいといいますか、とにかくここの対応が少し杜撰すぎやしないかと考えてしまいます。

そして、中盤のイルミネーションの故障のエピソードに関しても、久瑠美のとっさの機転(花火ショーの美しさを際立たたせるという名目で照明をすべて落とし、その間に電気系統の異常を見つけ出す)がピンチを救うという意味で物語上重要ではあるのですが、いくらなんでも全部の照明を落としてしまうのはやりすぎですし、トイレに行ったり別の施設を楽しんでいるお客さんにとっては迷惑な暗闇になるんじゃないかと思ってしまいました。
「逃走中」で停電状態になってパニックに陥る富士急ハイランドを見慣れ過ぎた自分の問題ですかね?(笑)

もちろん、全てがリアリティのある展開で構成されているお仕事系の作品は実現がとにかく難しいでしょう。よくありがちな「この職業そんな仕事までやらねぇよ」問題がほとんど無いだけ本作は優秀だと思いますが、アミューズメント施設のスタッフという題材を扱うのであれば、少なくとも3つ目の「安全確保」という面についてはもう少し考慮すべきだったんじゃないかと感じました。

裏側を見せられる遊園地だからこそ可能だった映画

映画紹介に入る前の序文で自分は「遊園地を応援していきたい」という風に書きましたが、この映画はディズニーリゾートにはできない「職場としてのアミューズメント施設」を描くことで、遊園地を応援している作品だと思います。

ディズニーリゾートは良くも悪くも、そこで働いているキャストさんの裏側を見せない事を大事にしています。それはもちろん、テーマパークである故にその世界観を崩さないためであり、そこに泥臭い人間の努力の物語などは存在しないかのようにお客さんを誘導すること、その点を重視している傾向が見られます。別に悪口ではないので見逃してくれミッキー。
そして本作は、そのカウンターとして遊園地の裏側に焦点を当て、その人々の情熱により多くの人の笑顔や思い出が作られていく様子を捉えています。
それはまさに「普通の遊園地」だからこそできた手法であり、本作はそんな遊園地をある種讃えている映画でもあります。
この作品を観る前と後とで、スタッフさんを見かけたときの感情にもだいぶ変化が出るでしょうし、早く自分もその変化を体験したいです。だいぶ前の方で述べた「グリーンランドに行ってみたい」という自分の感想、いつかは実現させたいものです。ちなみにカナダの近くにある方のグリーンランドには今のところ1ミクロンも興味ありません。誰か興味持たせるような映画を作ってくれねぇかな~(飯尾さん風)

グリーンランド

今回も長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。また次の記事でお会いしましょう。

トモロー

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まだまだ修行中の映画ファン
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