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「雪の華」を見たらフィンランドを身近に感じる?

<本題に入る前に皆さまへの御礼>
先日投稿した「ジュマンジ」の感想記事への多くのスキ、そして多くのフォローを頂き本当にありがとうございます!今後も記事を投稿していく士気の源となっておりますので、どうか今後ともよろしくお願い致します。

<ここから本題です>

のっけから自分語りになってしまって申し訳ありませんが、現在自分は某都の某区にある商業施設内の某書店で働いており、その仕事柄「映画公開記念の限定カバーが付いた小説本」をよく見かけます。
そして特に最近多く入荷されているのが、8月に公開される予定の「糸」の原作本です。菅田将暉さんと小松菜奈さんというリアルカップルの噂もあるコンビが繰り広げるラブストーリー、話題になりそうですね。

そしてこの映画は、以前から自分が勝手に主張している「新しい実写化作品」の一種である「楽曲の実写化」を行っていることでも知られています。しかも今回は、以前レビューした「小さな恋のうた」のように劇中でその曲自体がキーアイテムとして出てくるわけではなさそうで、予告を見るかぎり曲からインスパイアを受けて製作された「楽曲と共通項のある」物語っぽいです。

正直なところ、「小さな恋のうた」は楽曲の実写化作品としては例外的な、佳作・傑作の部類に入る映画だと思っています。あくまでも自分の基本的なスタンスとしては「楽曲の実写化=そんなに出来は良くない」といった感じです。中島みゆきさんの「糸」は個人的に好きな曲なのでちょっと興味はそそられていますが、今までの自分の経験則からハードルはかなり低めに設定しています。
そこで今回は、「楽曲の実写化での成功は総じて難しい」と自分が本格的に思うようになったきっかけの映画である、2019年に公開された「雪の華」という映画について、こんな蒸し暑い時期に冬の映画を取り扱うとは正気か?と思われていそうな自分が鑑賞して思ったことを、色々と感想としてまとめていきます。先に言っておきますが今回は「ジュマンジ」と違って酷評成分多めになっていますので、そういうのが苦手な方は注意してください。

↓映画の概要については下のWiki項目から↓

雪の華2

余命1年を宣告されてしまった平井美雪には、両親が出会ったフィンランドの地でオーロラを見ることと、人生で初めての恋をすることという2つの夢があった。ある日、ひったくりに遭った美雪は、ガラス工芸家を目指す綿引悠輔に助けられる。両親を亡くし、兄弟を1人で養っていた悠輔は、働いている店が危機に陥っていた。そのことを知った美雪は店を助けるために、100万円を支払うことと引き換えに、1カ月限定の恋人になってほしいと悠輔に持ちかける…。(映画情報サイトより引用)

役柄によってはハマる可能性もあった2人

まずは例によって、製作陣とメインキャストについて紹介させて頂きます。

本作でメガホンを取ったのは、先述した「小さな恋のうた」でも監督を務めた橋本光二郎監督です。やたら音楽と縁がある監督というイメージが強いですが、詳しくは「小さな恋のうた」の記事をご覧下さい。

脚本は「ビーチボーイズ」「最後から二番目の恋」「ひよっこ」などの有名ドラマを担当してきた岡田惠和さんが担当。映画でも、「いま、会いにいきます」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」など、大恋愛系の作品を数多く手がけている方です。個人的には自分とはあまり相性が良くない脚本家さんだと思っていますが、「泣くな、はらちゃん」とかはとても好きです。

本作の主演男優、カフェ勤務でガラス工芸家志望の青年・綿引悠輔を演じたのは、ダンスボーカルグループ・三代目J Soul Brothersのボーカリストでもある登坂広臣さんです。俳優としても活動しており、映画「ホットロード」の春山役はなかなかハマっていたと思います。飛び抜けた演技力があるわけではないのですが、キャラクターとの相性が素晴らしく良かった印象です。逆に言えば、役柄が彼本来の人物像と離れていればあまり良い結果を生まないという事でもあるんですが…

ヒロインである、余命1年を宣告された女性・平井美雪役を担当したのは、モデルとしても活動する女優・中条あやみさん。
「チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜」「覆面系ノイズ」「ニセコイ」などの映画で主要キャストを演じ、今年も映画「水上のフライト」の主演が決まっています。
しかし、正直なところ彼女に関しては登坂さんと同じく、演技スキルが特別高いわけではなく、まだまだ発展途上の女優さんだというイメージがあります。まだ象徴的なはまり役はありませんが、その長身と圧倒的美貌が活きる役柄を是非見つけてもらいたいものですね。

その他、美雪の母親役には、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」の熱演で演技派女優として知られるようになった高岡早紀さん、悠輔の働くカフェの店主役には、「婚前特急」で俳優としてブレイクする傍らで、ミュージシャンとしても活動する個性派・浜野謙太さん、美雪の主治医役には最近よくテレビ放送されがちな「ハッピーフライト」で主演を務めた事でも知られる田辺誠一さんがキャスティングされています。
ただこれらのキャラクターに関しては、そんなに本作のストーリーに積極的に絡んでくる感じではありません。サブキャラと言えばサブキャラです。

コロナ禍の今、フィンランドの美しさを楽しもう

本作の最大の魅力としては、悠輔と美雪の2人が劇中で訪れるフィンランドの街並み、そして雪景色の美しさを存分に堪能できる点が挙げられます。

フィンランドといえば、「寒そう」「サンタさんがいる」「ムーミンの作者の地元」「サウナが盛ん」などのイメージが強い北欧の国です。映画だと、「かもめ食堂」の舞台となったことでも有名ですね。つまりフィンランドは、サンタクロースとトーベヤンソンともたいまさこさんが寒さを凌ぐためにサウナに籠っている、そんな情景が思い浮かぶ国という事です。
「かもめ食堂」がヘルシンキの街を中心に展開していたのに対し、本作ではそんな街並みに加えて「雪の華」というタイトルに相応しい、幻想的で美しい銀世界が広がる郊外のスポットでも物語は繰り広げられます。この記事のトップ画はまさにそこでのシーンを切り取ったものです。めちゃくちゃ寒いだろうけどロマンに溢れたスクリーン映えする景色、こんな場所に行ったらカップルは自ずと身体を温めるしかなくなるでしょうね(ゲス顔)

雪景色

知っている方も多いと思いますが、本作の原案となった「雪の華」という曲は、非常に儚げな中島美嘉さんの歌声とメロディ、一歩間違えればただただ寂しいだけの世界観になりそうなところを、絶妙な平衡感覚で恋人達の現在と未来に希望を灯すようなリリックなどの要素により、彼女の代表曲として広く存在が知られています。
そして、そんな完成度の高い楽曲の世界観と、本作の終盤の銀世界はとてもよくフィットしており、「創作物の世界観を、実写世界で再現する」という実写化作品にとって最も重要とされる項目はこのフィンランドロケによって及第点にまで達していると感じました。演出としては中々に素晴らしいものだと思います。

そして現在、新型コロナウイルスの影響で海外旅行へ行く事が御法度扱いとなっており、旅への渇望が抑えきれない人たちがGoogleストリートビューを使ってトラベラー気分に浸るちょっと悲しい事態が発生しているとよく聞きます。でもそんな今だからこそ、家にいながら活気や煌めきに満ちたフィンランドの風景を「動画」として楽しめる本作には、大いに存在意義があると思います。あの本格的な雪景色を直接味わえるようになる季節までに、このパンデミックが果たして治まっているかが何とも言えないからこそ、ステイホームで楽しむべきだと思いますし、もし運良く海外渡航が解禁されていれば、本作で登場した風景を実際に現地で楽しみ、自分たちの心のフィルムに焼き付ける――なんてのもオツではないでしょうか。

フィンランド国民のあずかり知らぬところで地元のPRが見事にされている、そんなサプライズな状況を作り上げた本作ですが、一方でこのフィンランドロケ自体が映画としての完成度を大きく損ねているという、負の側面も併せ持っているように思えました。「雪の華」の楽曲の世界観にうまくフィットできているのに完成度を落としているとはどういうことか、これに関しては次の章で触れていければと思います。

若人よ、旅費と余命1年を舐めるでない

まず、この記事をご覧になって下さっている皆さんに訴えたいのは、フィンランドという国が、往復の飛行機代だけでも安くてせいぜい15万~20万ほどかかってしまうくらい、日本から離れている場所にあるという事です。滞在中の費用も含めば恐らくもっとかさむでしょうし、実際悠輔と美雪も劇中で雰囲気の良さげなおしゃれレストランに行ったりしているので、それなりにお金はかけていそうです。

しかし、忘れちゃいけないのはこの2人、美雪は余命1年と申告されるほどの病弱な女の子であり、悠輔は両親を既に失くしてきょうだい3人で助け合いながら暮らす、ガラスの家計と戦うガラス職人なのです。
そんな2人が果たして、1年に複数回(悠輔は2回、美雪は3回)もフィンランドに行けるほどのマネーをそう簡単に捻出できるものなのでしょうか?

劇中で確認できる限り、美雪は図書館での仕事を辞めてからは貯金を崩して生活をしており、悠輔は路地裏にあるカフェで働いているもののその店舗も100万円のキャッシュが即時必要になる程度には財政難であり、二人揃って収入という面では期待できそうもありません。百歩譲って美雪がそれまでは倹約家で有り余る富を所有していたというなら分かりますが、悠輔に関してはレイクALSA辺りに頼ったようにしか思えません。心配です。

お金に関してはギリギリ説明がつきそうな美雪に関しても、「余命1年だと診断されている」という大きな壁が残っています。もちろん、彼女の母親や主治医の先生が心配してフィンランド行きに反対している描写はあるんですが、それも三度目のフィンランド滞在の時にしか出てきません。普通なら、余命1年と診断される前の体調がすぐれない時から旅行に関しては懸念すべきだと思うんですが、彼女は本作の最初のシーンから既にフィンランド入りしちゃってますからね…。彼女の周囲の放任主義が過ぎるのか、もしくは彼女自身の秘密主義が過ぎるのか、謎は深まるばかりです。

フィンランド

そんな大層な事情を抱えた2人が、東京からフィンランドへの旅路をまるで名古屋辺りに旅立つかのように複数回も繰り返している本作のストーリーには、どう贔屓目に観ても違和感を感じざるを得ません。近年だとこの感覚に似たものを覚えた作品に「エヴェレスト 神々の山領」がありましたが、距離的にはそれよりも遠いですからね。

ガバガバな医療システムと人気のないオーロラの赤

この他にも、本作の雰囲気の素晴らしさを打ち消してしまうようなツッコミどころは数多くあります。ラブストーリーって他のジャンルよりも本筋の完成度が重要になってくるイメージが強いんですが、この作品はそこがかなり軽視されている気がします。

まず、美雪に関する最重要設定でもある「余命1年」ですが、先述したように複数回のフィンランド滞在によるリアリティの薄さに加えて、それ以外のシーンでも本当に余命1年なのか疑わしい場面が多々見られます。
確かに薬を服用したり、体調が悪そうな場面はところどころで見られるんですが、本当にそれだけって感じなんですよね。どこがどう悪いのかについて明確に説明されるシーンが全く無いんですよ。美雪のモノローグでも「私の身体はとにかく弱かった」としか語られず、主治医の先生も結局僕たちには病名を明かすことはありませんでした。
だいたい、呼吸器を付けているシーンだったり頭部のCTを取るシーンだったり車椅子に乗っているシーンだったり、いくら何でも治療が適当すぎやしないか?

この主治医の先生の描き方もあまり丁寧じゃなくて、最終的には悠輔に彼女の病状を知らせるのはこの先生なんですが、いくら懇願されたからと言って患者の情報を他人にペラペラと喋るのはいただけません。患者の事を本当に考えての行動なら良いんですが、今回の流れだとただ頼まれたから本当の事を話した、という医者としてどうかと思う行動をとったようにしか見えなかったのがとても残念です。まあ、勤務中に美雪とのんびりランチをしているシーンらへんからこの主治医には期待していませんでしたが。(笑)

その他にも、美雪がデートの時に悠輔に色々と要求するのが観ていて恥ずかしいしキツイものがある点、美雪が払った100万円が結局払いっぱなしで終わっちゃってる問題、悠輔の妹が美雪に嫉妬するというサイドストーリーのあっけなさが酷い点など、色々と言いたいことは沢山ありますが、すべてに言及するのも疲れるので、終盤のフィンランドで2人が再会するまでの展開についてのみ最後に触れたいと思います。

ダッシュ

先程の主治医からの説明を受けた悠輔は、やはり名古屋に向かおうくらいの感覚で2度目のフィンランドへ旅立ちます。しかしろくにフィンランドのオーロラスポットについて調べていなかったのか、最寄駅からタクシーが無いことに気付いてヒッチハイク作戦を開始するのです。
いや悠輔くん、あんたそんなに無鉄砲の出たとこ勝負人間じゃなかったじゃん、と。ガラス細工みたいな繊細な工芸品を作る人が目的地までの交通手段すら調べないようなクレイジージャーニーに手出しするわけないじゃん、と言いたいですよ。しかもその行く先々で彼は「ソーリー」とか「サンキュー」とか言ってるんですが、フィンランドの公用語はフィンランド語なので「アンテークシ」と「キートス」が正解ですね。(ドヤ顔)

その悠輔が軽装のまま、雪の積もりすぎた獣道を進む一方で美雪はひとり、冒頭にも登場するオーロラスポットで赤いオーロラを願って待ちます。
しかし、不自然な事に彼女は文字通り「ひとり」なのです。周りに誰もいない中でオーロラを待っているんです。最初のフィンランドのシーンではこのスポットには大勢の観光客が訪れていて、オーロラを楽しみに待っていましたんですが、今回は観光客は影も形も無く、オーロラを待つオーディエンスは彼女ひとりなのです。
もしかして「今日は赤いオーロラが出そうだけど、あれはハズレのやつだから見なくていいや」的な風潮が現地にはあるんでしょうか?もしそうなら、美雪に「赤いオーロラはいいぞ」と教えるためだけに出てくる彼女の父親、もとい赤オーおじさんが不憫でなりません。

そんな不自然さの残るひとりの美雪の元に悠輔がなんとか到着し、ようやく2人が本当の意味での恋人同士になって一応はハッピーエンド…という展開でこの映画は幕を下ろすのですが、やはりこの「観客ひとりのオーロラスポット」は悪手だった気がします。
最初からこの場所を、観光客がなかなか突き止められない穴場スポットという事にしておいて、フィンランド事情に詳しい美雪の親が彼女にこの事を教えた、みたいな設定があればまだ納得はできたと思うんですが…

少女マンガ好きな人にはオススメできる

このように、根本的な設定だったり細かい描写に至るまで、色々とツッコミながら観ること必至な「雪の華」ですが、雰囲気やシチュエーションは割と良いだけに全体的にはかなり勿体ない作品という印象です。中島美嘉さんの原曲の少し寂しげなトーンに寄せるための色々な設定がことごとく失敗してしまっている面も強く出ているため、「楽曲の実写化は難しい」という印象を自分はこの作品以降抱くようになりました。

とはいえ、こういう現実味の無い設定の方がツボにはまるという人も結構な数いると思うんですよね。主人公の美雪も「少女マンガが好き」という設定でしたが、だからこそのリアリティ無視のラブロマンスだったのかもしれません。「ママレード・ボーイ」「花より男子」など、少女マンガって結構な人気作でもぶっ飛んだストーリーで勝負してますからね。そういうのが好きな方にはオススメできます。是非鑑賞して、登坂くんの全力疾走を楽しんでみてはいかがでしょうか。

今回も長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。また次の記事でお会いしましょう。

トモロー

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