ヒップホップについて(一年前ぐらいに書いたやつ)

J-HipHop

音楽もジャンルを問わず手広く好きなのだが、特によく聴くhiphopについて書こうと思う。取り敢えず、the first takeにも出演していたということで一般にもよく知られているであろう梅田サイファーの梅田ナイトフィーバー、トラボルタカスタムの二曲を例に挙げて話していきたいと思う。まずはじめに、梅田サイファーというグループ自体の特徴としてスキルの高さが挙げられる。他には無い独特なフロウやバイブスを持っているというよりは、比較的オーソドックスというか基本的な技術を磨き上げている。そういう点でhiphopの魅力を語るのに最適な例であると言える。

l 梅田ナイトフィーバー
テークエム
「それは目覚めりゃ 消える夢かももしくはとんでもないトコ たどり着けるかもそれは天国かも もしくは地獄かもでもきっと大丈夫ほら Let’s go, come on NewWorld、、、」
というリスナーごと楽曲に引き込む導入から始まる。曲調をなんとなく印象付けるイントロの役割を果たすパートでありつつ、実はこの初っ端の初っ端、1バース目からとんでもないスキルを見せつけてくる部分がある。
「針を落として始まりを告げる針を上げて 終わりを告げる(yeah yeah)」
この部分なのだが、何も意識せずに聴いていたとしても変な感覚を覚えるような、非常に印象深いパートである。実はこの部分、恐ろしいことに三拍子で歌詞を振っているのだ。物凄いことなのだこれは。そもそも四拍子のビートに三拍子の歌を乗せることが難しいし、なによりこのテークエムのセンスが光るところは三拍子のバースを4小節歌って(3×4で)ビートと合流しようとするのではなく、敢えて2小節で切り上げて残り二泊をyeah yeahと合いの手でビートに揃えた点である。
これによって変に三拍子のパートが間伸びせず、ごくごく自然な流れを保ったまままさにドラムで三連符を差し込むのと同じようにリズム変化の面白さを演出しているのだ。
テークエムはリズム感覚が抜群に優れており、彼単体の曲には三拍子のビートに乗っているものもある。
KZ
「6本の弦 鳴らせ5本の指4つ打ち 3連 グルービーダブルミーニング 1本のペンシル」
これはラップではよくあるテクニック。リリックにさりげなく数字を盛り込むことで言葉遊び的な面白さを演出している。

ふぁんく
「卑屈や退屈 韻で踏んじまうぜクソな現実よ音にひれ伏しな」
これは細かいところだが、韻を踏むと「卑屈や退屈」を(物理的に)踏むで掛けている。

l トラボルタカスタム

KZ
「ダーウィンもファーブルも 見落とすバグ 進化のファンブル ひよこクラブふにゃい韻 マンブル モノマネざる パンチライン リリシス俺らはやる 真似するお前は客だろ 叫ぶだけならギャグだろコアのふりした マスだろ ラグナロク 届かない 俺らガラパゴス」
ここでは故障のバグと虫のバグで(元々bugという単語が機械に虫が入ったことで不具合が生じるという意味から故障という意味が派生したので無茶苦茶上手いダブルミーニングという訳でも無いが)掛けた言葉遊び。その後に続くリリックにもひよこ、さる、ガラパゴス等ダーウィン、ファーブル、バグを受けて生き物が多く登場しており、リリックの背景に統一感を持たせている。
peko
「次元越えお待たせこいつは空中戦 深海のシーン変えるため進化する人材」
空中と深海で対比構造を作り出してリリックの奥行きを演出しつつ、空間の膨らみを作り出している。
R指定
「あぐらかいてる間に 寝首をかかれんようにget busyこびりついてる耳 頭をよぎるは仲間の歌詞揺るぎないこだわり こちとらハナから百万馬力」
あぐらをかくと寝首をかくを掛けているだけでなく、首、耳、頭、ハナと人体に関連するワードで詩を作り上げている。一石二鳥というか超テクニカル

「流行の波 竜頭蛇尾 招かれざるUC’s coming 」

流行の波と竜頭蛇尾で非常に綺麗な押韻を披露しつつ、詩の内容も短くズバッと伝えている。

取り敢えずラップの基礎技能がよく表れている箇所を取り上げてみた。

ラップの定義は「喋る様に歌う音楽」である。私がラップを聴き始めて間もない頃、ラップとはそもそもなんぞやと調べていた時に出てきた言葉だ。初めてこの文を読んだ時、正直意味がわからなかった。「歌う」ことと「喋る」ことは当時の自分の中では完全に別物だったからだ。しかし、ある程度ラップを聴き込んだ今ではなるほどと思える説明だ。ラップの根幹は音ではなくリズムなのだから。


次に、ラップの難しさがよくわかる音源を見つけたので、ラップの難しさについて喋ろうと思う。

l Battleful days
「東京生まれhiphop育ち」のフレーズで有名なDragon Ashのgrateful daysの替え歌。
ドラゴンボールのモノマネをしているおっさんたちが歌う様はシューレアリスムを感じさせ、ドラゴンボールを一ミリも知らない私でも楽しめた。

ただこの音源、そのふざけた見た目とは裏腹になかなかクオリティが高い。動画がアップロードされているチャンネルの主であるR藤本の作詞センスがなかなか高いのである。韻もきちんと踏んでいるし歌詞振りもリズムを外しておらず聴いていて完成度の高さを感じた。

本題に入ろうと思う。この音源はラップの難しさがよく表れている。先述の通り、リリックはかなりいいし、ベジータ、ピッコロ、フリーザの歌い方も悪くない。ただ、問題は最後のバース、ヤムチャのパートである。聴けばわかる通り、普段ラップを聴かない人でも前の三人のパートと比較して聞きづらいのがわかると思う。気持ちよく首を振れないというか、なんかむずむずする感じがすると思う。なぜなのか。理由は単純で、リズムがうまく取れておらず、歌とトラックがズレているのだ。微妙に歌が早歩きになっている。あと滑舌もあまり良くないっぽいし発音とアクセントと音程ももう少し変えれば韻が強調される筈だ。理論に当てはめにくい小さなズレが積もっている感じがする。ラップは至ってシンプルな音楽だ。ビートの構造も単純なものが多いし、歌唱もやはり「喋るように歌う」ので音取りが難しすぎることはない。だがそれ故に奥が深いし、小さなミスも目立ってしまう。それがラップの難しさなのかなと思う。


追記

8年の時を経てヤムチャが無茶苦茶上手くなっていた。

l DBSTAR VISION

元ネタは「MONSTER VISION」。Battleful daysの時点で十分ハイクオリティだったが、新メンバー魔人ブウ、人造人間17号、野沢雅子を迎えさらにクオリティが上がっていた。フロウを本家に寄せていたり歌詞をうまくサンプリングしてドラゴンボールという設定の中で上手く使用したりしていて本家へのただならぬリスペクトを感じた。歌詞のレベルも上がっていたし、一人一人のスキルも上がっていて感動した。特にヤムチャがすごい上手くなっていて驚いた。歌単体だけみても結構カッコいい。最後のバースでベジータと野沢雅子がフュージョンした時はちょっと鳥肌立った。


l ラップバトル

ラップという音楽ジャンルの大きな特色の一つとしてバトルは外せないだろう。

ラップには即興で作り上げた曲の完成度を競うラップバトルというものがある。これは先にも述べたラップのシンプルさ故に生まれたものだろう。判定は客に委ねられる場合が多く、フロウの巧さや内容の如何が問われる。トップレベルの戦いになるとmcの個性も豊かかつかなりスキルも磨き上げられており、たまに即興とは思えないほどハイクオリティなバースが生まれたりする。芸術を競技に変化した時の最適解というか、音楽ジャンルの中に内包されている要素として他とは比べ物にならない最高のパフォーマンスだと思う。また、既存の音源のビートをバトルビートとして使用する場合も多く、好きな曲のビートが流れてきた瞬間ビートチェックのからアガる。(ビートが選択性の場合そのビートが選ばれなかったりするとちょっと悲しくなるのだが)かつ、好きなラッパーが好きなビートに乗っているのを聴けるのが嬉しいところだ。

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