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クリエイティブディレクターの「クリエイティブ」ってなんだろうか

ロフトワークの名刺の肩書きには、ディレクターの前に「クリエイティブ」という言葉が添えてある。クリエイティブディレクターの「クリエイティブ」とは何だろうかとしばしば考える。

最近、企画した1つのイベントを通じて会社の仲間から感じたことがあった。

[ PEACH SHAKE vol.02 ]
森×チンダミ×奄美 -家で旅するシンクロツーリズム-


昨年末、航空会社のPeachさんが、奄美線の就航に合わせて奄美の魅力を発信しつつ、様々な土地の皆さんと新しいアクションを考えていきましょうと始めたイベント。(ロフトワークはこのイベントの企画運営を担当し、僕はPMをさせて頂いた。)

2回目となるこの回は、奄美の森(山林)とチンダミ(現地の言葉で調弦の意味)をテーマに、五感で奄美の自然を感じつつ、体を整える癒しの時間を目指した。

イベントのメインであり挑戦となったパートは、前半だった。奄美でサンプリングした自然音、人の声、三味線の3つの音を別々の場所から重ね、身体感覚と音に感覚を研ぎ澄ませることで奄美の世界へ連れていくような舞台的な演出に力を入れた。

ここの演出は、イベントのプロデューサーを担当してくれたハモさんによるディレクションがあってこそだった。

彼は、ロフトワークに来るまでにデザイナー、ディレクター、プランナーなど、様々な仕事を経験し、その傍、美術作家としての顔を持ってパフォーマンスなども続ける多彩な人だ。

    

今回のイベントでは、ヨガインストラクターの方に声で身体の動きを誘導するようお願いし、唄者(島唄のプロ)の方には三味線の音を自然音に合わせて演奏頂くようお願いした。ヨガインストラクターが声のみで指導することや、唄者が唄うことなく、且つアドリブで三味線を奏でることは通常あり得ない。

依頼したお2人は、半ば戸惑いながらも、普段とは違う初めての表現をすること、そしてそれらを重ねることに挑戦してくれた。

世の中にないことをやってみる、世の中にないものを作ってみるという姿勢は、クリエイティブといえる状態の1つだと思う。そして、そんなとき、それらを構成する表現者は、様々な不安を抱えている。

個人としても集団としても誰もやったことのないことをやるのだから、決まった答えのようなものはない。それでも、クリエイティブディレクターというのは、何らかの理想を持って語り、周りの表現者を導いていく必要があると思った。表現者が安心して自分らしい表現ができるように。

    

僕には、今回それができないシーンが多くて、ハモさんから学ばせてもらうことがたくさんあった。彼は、リハのときから、それぞれの表現者、あるいは裏方の機材を担当してくれた会社の仲間に対して、音を重ねるたびに「ここはもう少しこれくらい音を小さく」、「ここはあとこのくらい楽器をマイクから離して」、「ペースはこれくらいで」と、とても具体的な指示を鋭くとばしていた。また、指示をとばす前には、それぞれの表現に対して「素敵ですね」とまず褒めることを欠かさなかった。

重ねた3つの音に対して、自分がどう感じたのかをその場で伝えた上で「こうしたらもっとよくなる」という指示を1人1人へ瞬時にとばすことは、見ているだけだといとも簡単そうに映る。けれど、いざ実際に自分がやろうとすると並大抵のことではない。一緒にプロジェクトをやっていて最も経験値の差を感じる瞬間であったし、彼がこれまでに積み上げてきた技の賜物だと感じた。

その他にも、タイトルの言葉選びや、イントロ部分のストーリーテリングなど、答えのない繊細な表現に対して「これがいい」「これはおもしろい」と言い切る彼の姿は、1人の演出家のようであった。

 

大切なのは、自分の感性や直感のようなものに自信を持ってYESと言い切る力であって、それが周囲の表現者に対しても自信を与えることになる。

見方によっては極めて主観的ともとれる世界ではあるけれど、そのような力は、日々自分が何を感じているのか、五感を研ぎ澄まし、美意識を磨き続けるからこそ備わるのではないか。そして、クリエイティブディレクターの責務は、論理を超えて磨かれる自身の感性と直感によって、既知の世界から一歩外側にある未知の世界へと仲間を連れ出してみる、そんな冒険の先頭に立って導くことではないか。

彼と一緒に仕事をして、そんなふうに僕は感じた。

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