五輪という「壁」
マルクス思想学者で東京大学准教授の斎藤幸平氏が、先日(7月29日)のTBS系テレビ『news23』にコメンテーターとして出演し、「反五輪」であることを明言したことが話題になっている。
番組内ではパリ五輪での日本人選手の活躍などが大々的に報じられていたが、メインキャスターから五輪について訊かれた斎藤氏は、
「いやあ、全然見てないですね。私、反五輪で、(見るのを)ボイコットしてるんですけど」
と答えたのだ。
キャスターから、
「ボイコットなんですね?」
と、念押しされた斎藤氏は、
「はい。理由はいろいろあるんですけど、いきすぎた商業主義が好きじゃないとかもあるんですけど、やっぱり今回一番私が理由にしてるのは、スポーツウォッシュに加担したくないということで」
と説明している。
スポーツウォッシュとは、為政者にとって都合が悪い政治や社会の歪みを覆い隠すためにスポーツを利用しようとする行為である。
斎藤氏は番組内で、今回の五輪におけるスポーツウォッシュについて次のように指摘し、自身のスタンスを明らかにしている。
・・・今年の春、『関心領域』(THE ZONE OF INTEREST)という米・英・ポーランドの合作映画が日本でも公開された。
映画の舞台は1945年のドイツ。スクリーンには、幸せに暮らすドイツ人家族の穏やかな日常が描き出されている。
だが、家の窓から見える壁の向こうには大きな建物がある。その建物からは時おり黒い煙が上がり、罵声、銃声、うめき声などが聞こえてくる。
なぜなら、その建物はアウシュビッツ強制収容所であり、幸せに暮らす家族の父であり夫である人物こそ、強制収容所の所長ルドルフ・ヘスなのだ。
・・・以前、私は斎藤氏の著書『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』について感想を書いたことがある。
この記事の中でも述べたように、マルクス思想学者である斎藤氏の言動に対して、私はかならずしも賛同をしているわけではない。
けれども、2024年における五輪が、映画『関心領域』で描かれた壁と同じ役割を果たしているのだと考えれば、今回の斎藤氏の主張には納得をすることができる。
いや、五輪だけにかぎらない。連日、大谷翔平選手の活躍を(活躍していないときも含めて)過剰に報道するテレビ局の姿勢からは、大谷選手のことを伝える代わりに他の何かを伝えないようにしているのではないか、という意図さえ感じる。
・・・しばらくの間はテレビをつけずに、五輪という壁の向こう側に何があるのかを見たり考えたりしていきたいと思う。
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