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体育科におけるICTの活用

「GIGAスクール構想」によって全国の小中学生に「1人1台」の端末が配当され、授業などでの活用が進んでいます。
 体育科の授業でも、「各自の端末で示範の動画を視聴し、よい動きのイメージをもつ」「自分たちの動きを撮影して、めあての達成状況を確認する」など、ICTを活用することが一般的になってきました。
 しかし、その一方で「ICTを使うと子どもの運動量が減ってしまう」「動画を撮影すること自体が目的化してしまう」といった声を耳にするなど、その活用法については課題があることも事実です。
 
 ところで、2008年の北京オリンピックで金メダルを獲得した日本・女子ソフトボールチームの活躍を記憶している方は多いと思いますが、その米国との決勝戦にこんなエピソードがありました。
 金メダルを懸けた大一番。相手のオスターマン投手は、過去の対戦で日本チームに1点も与えたことがないという絶対的なエースでした。ライズボール(浮き上がるボール)やドロップ(落ちるボール)などの変化球を巧みに使い分ける彼女の投球の前に、日本の打者たちは三振の山を築くのが常だったのです。
「オスターマンを打ち崩さないかぎり、金メダルを手にすることはできない」
 そう考えた日本チームの斉藤監督は、彼女の投球フォームを撮影したビデオを入手し、大会前に何百回も繰り返して見ました。
 その結果、「オスターマンがライズボールを投げる際には、他の球種のときとは違って、後ろに振り上げた腕が肩の位置よりも上にくる」という小さな癖を発見します。
 フォームによって事前に球種が分かれば、打つことは格段に楽になります。しかし、そうは言っても僅かな腕の高さの違いをバッターボックスから瞬時に見極めることは困難です。
 けれども、4回表、4番バッターの山田選手がオスターマンの投じたライズボールを強振すると、打球はセンターのフェンスを越え、日本チームに貴重な先制点が入ったのです。
 実は、山田選手が放ったこの先制ホームランには秘密がありました。バッター・ボックスから腕の高さの違いを判断するのは極めて難しいことですが、ベンチで横から見ている者には高低の違いがよく分かります。
 日本の攻撃中、オスターマンが1球投げるごとに、ベンチからは「上!」「下!」という大合唱が起きていたのでした。チームメイトたちの声を信じた山田選手は、迷わずにフルスイングをすることができたのです。
 絶対的なエースのまさかの被弾によって米国は攻守のリズムを崩し、日本チームは悲願だった金メダルを手にします。
 
 単にタブレット端末などの機器を利用するのではなく、そこに人間同士のコミュニケーションが加わることにより、その効果は何倍にもなります。
 体育科のみならず、教育活動におけるICT活用の理想的なかたちが、この日本・女子ソフトボールチームの姿の中にあるといえるのではないでしょうか。

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