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商才

 日曜日の朝7時30分からTBS系テレビで放送されている『がっちりマンデー!!』は、私が好きな番組の一つである。特に、時代の流れや消費者のニーズを巧みにつかんだ事業や、これまで誰も目をつけなかった隙間を狙った商売が特集された回を見ると、「なるほど」と感心させられることが多い。
 こうした新規事業を思いつき、それを実行に移していく「商才」というのは、学生時代の成績とはあまり大きな関係がないものなのだろう。私はこれまでに、小学校の教員として数多くの子どもたちと接してきたが、今から20年以上前、隣のクラスにいたAという少年には、間違いなくそういう才能があったと思う。

 当時、小学校6年生だったAは、学業成績は中の下だったが、よく言えば発想が豊か、悪く言えば少々ズル賢い少年だった。そのため、Aの評判は担任を通じて隣のクラスの私の耳にも届いていた。
 たとえば、ある時期のAは、高校生の兄が読み終わった漫画の単行本をこっそりと本棚から持ち出し、友人に1冊20円で貸しておやつ代を稼いでいた。ただし数週間後には、単行本の傷み具合が激しいことを不審に思った兄に問い詰められて、「犯行」を自白することになるのだが・・・。

 そんなAが新たに思いついたのが、「ファミコンソフト購入代行業」だった。当時はファミコンの全盛期で、子どもに人気がある新作のソフトが発売されると、小学校高学年の男子は競ってそれを買い求めていた。
 私が勤めていた学校は郊外にあったので、ソフトを購入するためには、バスで繁華街にある家電量販店まで出かける必要があった。しかし、放課後に塾や習い事がある子どもの場合、平日に買い物に出ることは難しい。
 Aはそこに目をつけた。
 塾通いで忙しそうな友人に、
「ソフトの代金に、往復のバス代を上乗せしてくれたら、代わりに買ってきてあげる」
 という提案をしたのである。
 友人にとってもありがたい話である。すぐに「契約」は成立し、Aは代金とバス代を受け取った。

 だが、Aが賢いのはここからだった。彼は同じ話を複数のクラスメイトに持ちかけたのである。
 そうなると、まとめて一度に買いに行けば、2人目以降のバス代はAの懐に入るという寸法だった。当時、子どものバス料金は往復200円ほどだったが、数人分をまとめて買えば、1回につき約1,000円の儲けになった。小学生にとって、けっして小さな額ではない。

 その後、Aは商売を拡大しようと考え、私が担任をするクラスをはじめ、他の学級の子どもたちにも営業活動を開始したのが仇となり、大人たちの知るところとなる。
 発覚した日の放課後、Aは担任や児童指導担当の教員からきつく指導をされることになったのだが、担任たちも内心ではAの商才に舌を巻いていた。

 小学校を卒業後、中学2年のときにAは遠方に引っ越してしまい、その後の消息は不明である。だが、きっとどこかであの才能を発揮しているに違いない。
 今後の『がっちりマンデー!!』に「期待の若手経営者」として大人になったAが登場したとしても、「ああ、やっぱりね」
 と思うことだろう。

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