推しに早く結婚して欲しい人の正体
一昔前は、推しが結婚するとファンは荒れて、殺害予告を送る人なんかも現れて大騒ぎになるのが当たり前でした
それ故に、アイドル達は恋愛を隠さなければいけないとされていました。
でも最近は、結婚や恋愛を容認する傾向が強くなって来ました。
それどころか若年層のアイドルに対して「全然気にしないから早く結婚しなよ」と勧める人まで現れ始めました。
一見アイドルという仕事がしやすくなった様に感じますが、私はこれは別に理解度が増した訳でも、令和的価値観になって来た訳ではなく、本質は何も変わっていないのではないかと思っています。
■推しとの距離感の変化
まず、推しに早く結婚して欲しいと言い出す人達が現れた背景には、推しとの距離感の変化が関係していると思います。
昭和の時代は推しの内面を知れるのは、雑誌のインタビューなどだけで、本心を聞く機会すらありませんでした。
この遠すぎる関係の中で、推しにとって特別な存在というと「恋人」がスタンダードで、推しの結婚によってそのポジションに絶対なれないと宣告されれば荒れるのは仕方がありません。
そして自分以外の他のファンと交友する機会も少ないので、自分が最も推しを愛していると思い込みやすい。
その結果が結婚を受け入れられないファンになるのです。
そして平成は今との中間、推しとの距離は少し縮まりました。
雑誌は精々月一でしたが、スマホの普及、SNSの台頭でほぼ毎日推しの考えてること、好きなものが知れる。
手紙などの手間をかけなくても手軽にコメントを送れるし、運が良ければ返信も貰える。
毎日毎日好きを伝えられる。
一方的に知り、一方的に伝える関係だけれど、より密な関係になれたように錯覚します。
でも他のファンの存在も可視化され始めます。そうなると「他のファンとは違う」所を見せたくなり
架空の匂わせ投稿をしたり、繋がりがある事を匂わせたり、他のファンより近い存在であるとアピールするのが平成の拗らせたファンの在り方でした。
それから令和になり、推しとの距離は劇的に縮まりました。
ライブ配信などをやるジャンルのアイドルだと、家に居ても自分の呼びかけに直接答えてくれる。
頻繁にリアルタイムで同じ時間を過ごせるのは、推しを近く感じてしまっても無理はありません。
でもそれと同時に、自分以外のファンの存在がハッキリと可視化され、身の程を知る事にもなります。
その結果自分如きが推しと結婚出来る訳ない…と気付く事が出来ます。
それでも何か推しの特別な存在になりたい!と思った結果生まれたのが
「推しに結婚を勧めるポジション」=「友達面」なのです。
■ 結局は推しの特別になりたいだけ
推しの特別な存在になりたいという根底の心は変化していないのに、何故、恋人面から友達面がファンのスタンダードに変容したかと言うと、恋人面するのが格好悪いという共通認識が、ファンの中で広まり定着したからです。
実は「結婚しないでくれ!」も「早く結婚しろ!」もプレイベートに口出ししている事には変わり無いのに、何故か早く結婚しろの方が、現実が見れていて余裕があってかっこ良く見えるという思い込みから、スタンダードになり始めたのです。
そして多分これが一番の目的でしょうが「無害アピール」なのです。
推しとの距離が縮まった昨今、ファンの最低条件は無害である事なのです。
昔はライブなどのセキュリティがしっかりした場でしか交流する機会がありませんでしたが、今はそうではありません。
わざわざ出向かず家で寝転がって居ても悪質なコメントなどアイドルに迷惑がかかる行為を無料で簡単に行えるようになったので、その分アイドル側も警戒も強くなっています。
距離が近くなった分、推しに嫌われる事が簡単になったという事です。
そうなると、害のある人物と見なされればすぐ排除される。
そこで編み出したのが「むしろ結婚を勧めるなんて、これはもう完全に無害でしょ?」というアピールなのです。
■結婚を勧めるファンは本当に無害か?
しかし私が最も疑問なのは、この「結婚を勧めて来るファン」は本当に無害なのでしょうか?
アイドルに限らず仕事というのは、人生の時間と引き換えに金銭を得る行為です。
特にアイドルは本来働かなくてもいいような若い時から、人生を消費しています。
なのにアイドルを一生懸命やってる中「いい歳なんだから早く結婚しろよ」と言われたら私なら傷付くと思います。
無駄使いみたいに言われたら自分の存在意義すら見失うと思う。
それは本当に「無害」なのでしょうか?
■推し過ぎてアンチになる
実はこの「推しの特別になりたがる」のは風潮自体は最近のものではありません。
1番多かったのは、「推しのアンチになる」というファンです。
「推し最近手抜いてるから私くらいは厳しくしないと」「俺は推しの事1番知ってるから、俺だけは厳しい目で見てるんだ」という心理になり「アンチ期」などと呼んで、ファンサイトなどで推しを批判する行為がありました。
もうそれはファンでは無いだろうと思ってしまいますが、結局は「推しの特別な存在になりたい」のだと思います。
特に褒めるのではなくダメ出しをするのは、推しに影響を与える存在になりたいという心理でしょう。
それに、他のファンが褒める時に貶す事で「他のファンとは違う」アピールの意味合いもあるのでしょう。
結局皆「ファンを超えた何か」になりたがっているだけなのです。
■ダメ出しおじさん
より具体的に「推しの特別になりたがる」行為として思い当たったのが、地下アイドルの子の話です。
握手会の時にいつも「今日ダンス間違えたよね?」などとダメ出しをするおじさんのファンが居たそうです。
そのアイドルは、そのファンの事が嫌いだったし、その人が来るたび不快になっていたそうです。
一応ファンを自称しているけれど、好かれているのか、嫌われているのか分からない状態だったのでしょう。
ですが、その子がアイドルを引退する日、そのおじさんは「ずっと君を応援していた!応援していて良かった!」と誰よりも大号泣したそうです。
このエピソードだけを聞くとおじさんの行動は支離滅裂に思えるし、実際そのアイドルの子は「は?応援されたお覚え無いし。意味分からんわー」くらいのエピソードとして語って居ました。
私も最初この話を聞いた時には変な人だなとしか思いませんでしたが、これを「推しの特別になりたい行動」の一環として考えると、おじさんの空回りっぷりが理解出来ました。
確かに、おじさんの思惑通り、特別嫌われるという事で、彼女にとっては「特別なファン」にはなれたのでしょう。
■唯一神ではなくなる偶像
昔は、テレビに出られるトップ中のトップのアイドルしか、世間に認知されない時代でした。
でも今は、ほぼ一般人の配信者などの事も「推し」に出来てしまう世の中で
嫌な言い方をすれば代わりはいくらでも居るのです。
「好き」な相手への執着というのは「こんなに好きになれる人、次いつ現れるか分からない」という
不安な気持ちも含まれていると思います。
次が無限に現れるのであれば、一人一人への思い入れの深さの違いは絶対にあります。
■結婚を受け入れられないファンの方が正常
結婚を悲しむ気持ちを持っているファンの方が正常だとすら思えます。
特に推しが女性の場合は今と同じ活動が出来なくなるリスクが高いからです。
単純に生活環境が大きく変わる訳で、今の日本ではその変化は女性の方が大きいです。
そして結婚に付随して妊娠出産となると年単位で仕事を休まなければいけない。
芸能の仕事だと、休んだ後仕事復帰出来る保証もない。
たった1人のファンが結婚を認めたからって解決する問題は何一つありません。
何の保証も出来る訳じゃないのに、「早く結婚しろ」は、無責任極まりないのです。
それを全て踏まえると私には「早く結婚しろ」は「お前なんか要らない」と聞こえるのです。
たった1人の推しが、生活環境が変わり、今までと全く同じ活動が出来なくなる。
それは悲しくて当たり前なのでは無いでしょうか?
■ただの正常性バイアス
私がこの「推しの特別になりたいだけの人」と混同しないように気を付けようと思っているのは
本当はショックだけど、正常性バイアスで「全然平気!むしろ望んでたし!」と言ってる人です。
最大の違いは、このパターンの人は結婚後に現れること。
結婚前の推しに結婚を勧める行為とは根本が違います。
この人達に「いやそんな事言って推しが引退しちゃうかもしれない可能性考えてる?」などと詰め寄ると
余計に追い詰める事になるので、止めましょう。
■ファンを超えた先にあるもの
他のファンよりも一歩先へ行こうと押し退けて必死になってるだけで、本質は何も変わらない。
ファンを超えて恋人
ファンを超えて指導者
ファンを超えて理解者
ファンを超えて友達
彼らは、次は何になりたがるのでしょう?
でもきっと、何になってもファンと推しの関係性は永遠に変わらないものなのでしょう。
何にもなれない自分を諦めて、推しを推せるのが1番幸せなのだろうと思います。