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編集葬

入院中の父親に「お迎え」が来るという虫の知らせがあったものの、病院の面会予定はまだ4日ほど先のこと。泣いても騒いでも、その日にはもう会えないという確信がありました。


できることをやるしかない

面会日を繰り上げることもできませんし、泣いてわめいても、父親にお迎えが来ていることに変わりはありません。心不全で3回も入退院を繰り返し、この10年は病院と家を往復していた父も、さすがに4度目の「奇跡の復活」は期待できそうにありません。

そこで、考えを切り替えて「葬儀に来てくれる親族や知り合いに、父の一生を感じてもらおう」と、その一生をわかりやすくまとめた冊子「父ぺディア」(Chichipedia)の作成に全力でとりかかったのです。

これは、自分にできることで父親を送り出そうという、「編集葬」とも呼べるものでした。

調べると知らない事実が山積

父については、家族の中で2番目に知っているつもりでした(1番は母)。それでも、あらためて事実関係を確認したり、さまざまな情報を確認すると、予想だにしなかった出来事に遭遇します。

知らなかった事実のオンパレードです。

さらに、出来事について時系列でまとめるだけでも、いろいろ発見がありました。

見本を作成して葬儀で回覧

途中で弟に見せたところ、何も返答がなくドン引きしている(このとき、父親はまだ生存中)様子でしたが、亡くなった日にすべて印刷して実家に持参したところ、母親や兄弟からも肯定的な反応が返ってきました。

とくに、生前に父親が愛用していたメカ類や、好きだった食べ物の写真を並べたページには、「なつかしい」と、前向きな反応。

家系図なども事前にいろいろ確認をとっていたので(この時、まだ生存中)抜かりはありませんでした(名前の間違いは指摘されたけど)。

事実関係でおかしなところや、「事実ではあるものの角が立つ内容」については修正し、2日後の葬儀に「見本版」(20ページ)を複数用意。休憩所に用意して回覧していただきました。

この父ぺディアは、もちろんPages v14で作成しています。Pages+AppleScript本の内容はすべて完成していないので、PDFをレーザープリンターの両面面付け加工するAppleScriptが未完成であったため、同じ工程を手作業をまじえて実施。

Keynote書類上にPagesから出力したPDFをページごとにバラバラにして配置。プリンタで両面印刷したものを半分に折って重ね、ホチキスで止めれば小冊子の出来上がりです。

やはり、冊子として情報がまとまっていると読みやすいようで、親族を中心に「もっとじっくり読みたかった」といった声が(大丈夫、送りますよ!)。

当日、葬儀で「配布」を考えていたものの、母親との協議の結果「個人情報の塊だし、見てもらうぐらいはOKだが、持ち帰るのはNG。後日の配布も親族のみ」という結論になり、それに従いました。

「遺族」の挨拶文なども気持ちの整理ができていないため、とても書けない状態(その部分だけ未完成)でした。それは仕方のないことです。

予想外の効果は、孫世代の反応です。それまで、おじいちゃんとして接してきた父の人生の出来事に初めて触れて、「ここはどうしてこうなったの?」といろいろ興味が湧いてきたようです。

残念ながら、この父ぺディアは「おおまかな流れ」を把握するための小冊子であり(それだけでもすごいのですが)、詳細なテーマにスポットを当てた本ではありません。それは別途調べるしかないよね、という返事にはなりましたが、そうして次の世代に興味を持ってもらえたことはよいことだったと思います。

また、葬儀社の担当の方に父ぺディアの途上版を見せていたことで、葬儀当日の棺には、「焼きそば」「りんご」「カステラ」といった、生前に父が好んでいた食べ物を入れていただけました。

そして、父ぺディアは「非売品」です。実家に線香を上げに来てくださる間柄の方には差し上げるかもしれませんが……。

父ぺディアの内容

葬儀後の残務が山積していますが、編集葬はひとまず

  • 略歴

  • ゆかりの地

  • 闘病史

  • 愛車遍歴

  • 愛用品

  • 趣味

  • 仕事

  • 家族

  • 写真集

  • コラム(父親の文章)

  • コラム(義兄弟、孫からのコメント)

  • 遺族ごあいさつ

といった内容で終了しました。

父親が亡くなったら「悲しい」ぐらいで済みますが、これが母親が亡くなったら「やること」が多すぎて、本を作るどころではないことでしょう。先に何か作っておかないと……

葬儀が終わって

葬儀火葬とめまぐるしく過ぎていきましたが、事務処理の山をじょじょに片付けている段階です。ここは、事務処理が得意な兄弟姉妹の力でなんとか片付けている最中です。

まずは、当日参列していただいた皆様に感謝を。

葬儀社の方には、たまたまそこの葬儀場での葬式の初回にあたったことも手伝って、いろいろよくしていただきました。

菩提寺である青梅 天寧寺の住職様にも、すばらしい葬儀・読経を行なっていただき、またもったいない戒名をいただき感謝申し上げます。49日法要のときには、またお願いをしています。

納棺師の方にも、まるで生きているかのような死に化粧を施していただき、感謝に堪えません。

火葬場にも驚かされました。子供の頃に出席した火葬では、当時は焼却温度が低かったためか、煙と匂いがかなりきつく、しばらくトラウマになったものですが……現代の火葬場では高温で火葬するため、匂いもほとんどありません。火葬直後からまとめた状態で骨を並べていただき、その心配りには頭が下がりました。

1人ではとてもすべての処理はできなかったところですが、兄弟姉妹が手分けをして当たってくれて、頭が下がります。もう、葬式から頭を下げてばかりです。


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