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『何者でもない』アイドリッシュセブン ~二次元アイドルのこれからを考える


2021年8月20日。未曽有の感染症拡大の中、五輪も終了し、後に残るのは謎の空虚感と先の見えない未来だ。昨年は「さすがに来年になれば」と軽い気持ちで考えていたことが、何一つ変わっていない。会いたい人に会えず、行きたい場所に行けないストレスは、この時代、多かれ少なかれ誰もが抱えているものだ。
そんな中でも、月日は確実に流れていくし、アイドリッシュセブンは6周年を迎えた。5周年で書きそびれてしまったnote。ソシャゲアプリで5周年という節目を迎えた日から一年が経って、こうした久々に(マジで1年以上アイナナの記事を書いていなかった)noteを書いている。

本題に入ろう。
ここ2年の間でアイドリッシュセブンというコンテンツはたくさんの場へ、私たちを連れて行ってくれた。メインストーリーの更新があったわけではなく、キャラクターの核心的な話に触れたわけでもない。
ただ、アイドルがアイドルとして在ったこと、作品をとんでもなく愛する人たちがたくさんいたこと。それが、アイドリッシュセブンがアイドリッシュセブンたる所以で、原動力であった。

現在は第三期となるアニメ放送中のアイドリッシュセブン。様々な界隈から「アイドルアニメなのにアイドルが土下座してる」だの「推しが首を絞められた」だの「アイドルより悪役の方がダミヘ使用率が高い」だのどんなアニメだよコレと言う評価をいただいているのを目にした。

それほどまでに丁寧に描かれた描写、原作に忠実ながらも世界観にグッと深みが出るアニメの作り。アニメスタッフの皆様の熱意と情熱の賜物と言っても過言ではないだろう。twitterなどで放送後にちょっとした裏話があるのもおもしろい。アニメスタッフだけではなく、声優さんたちもこの作品に対してたくさん思い入れを持ってくれている。
「キミと振りかえらないと!」では、OP映像を止めながら声優の皆様が好きに感想を述べるコーナーもあった。めちゃくちゃ楽しそうじゃん!!オタクこういうの好きだよね!!!とおもうし、着眼点がものすごく「アイドリッシュセブンを愛している人たち」だなあと思って私も嬉しくなった。

また、様々な企業とのコラボでは、あの日経ビジネスさんが記事を書いてくれた。「推しマーケティング」と銘打たれた記事では、アイドリッシュセブンのファンをいかに大切にするか(要約)ということがつづられていた。(日経さんの記事はぜひ会員登録して全文読んでほしい)

それらを踏まえて、今漠然と考えていること。それは「二次元アイドルは一体何者であるのか」という命題だ。

『アイドリッシュセブン、実在した』は今や大前提の話

このnoteではさんざんアイドリッシュセブンの実在性や、現実に寄せてきているその手法などを説いてきた。
今更この話をするものではないが、再度言わせていただくと、「アイドリッシュセブンは現実」なのだ。「アイドルの創出」を掲げて始まったプロジェクトは6年という歳月を経て、想像以上の広がりを見せている。今年に入ってからすごいスピードでアンバサダーだとか企業コラボだとかをしているのは、もう企業側が「アイドリッシュセブンを広告塔にしたら売れる」ということを周知してきたからに他ならない。
これはアイドルをはじめとした、芸能人のCM起用の発想とそう変わらない。
そうして、SNSでの拡散力もアプリゲームの中ではユーザーはマネージャーという立場。「アイドル達を売り込む」というその想いを、彼女・彼らは遺憾なく発揮してくれている。

アイドリッシュセブンがここまで熱量の高いコンテンツであることは、以下のような理由だと考える。

①コンテンツ制作側の熱量がめちゃくちゃ高いコンテンツであること

②ユーザーが制作側の熱意を汲み取って心を動かされること

③①②が合わさった時に、爆発的にコンテンツ周りの熱量が高まること

概論的な話で大変申し訳ないが、オタクという人種は感情の生き物である。自分の萌えに忠実に生きているので、その萌えにそぐわなければどれだけクオリティが高いものであっても財布のひもは固い。逆を言えば、丁寧に作られているもの・心が動いた時には財布の紐がユルガバになってしまうということでもある。(自戒含め)
『どれだけコスパ良く金を回収するか』ということとは対比的な、『金にならない感情へのアプローチ』が必要になる。推しマーケティングの肝はここにあるし、これをおろそかにしては、(特に女性向けでは)どれだけクオリティが高かろうがレアリティが高かろうが金は落ちない。

別にここで、素人の私がマーケティング云々を説くつもりはない。
私が言いたいのは、これから先の二次元アイドルコンテンツでは「実在感」を出すのはもう当たり前になっているんじゃないか、それだけでは弱いんじゃないか、ということである。

「二次元アイドル」というのは、今や一大ジャンルとなりつつある。CGライブも行われており、先月はTRIGGERの単独公演が行われた。声優さんに求められるスキルも、演技だけではなくライブパフォーマンス、アーティストとしてのクオリティが、当たり前のように求められる。
二次元として画面の向こうにいた存在を「実在させる取り組み」というものが今までは事細かに行われてきた。どんなコンテンツでも現実とリンクさせることで、ユーザーの「感情」へと働きかけてきた。それ自体、二次元アイドルコンテンツではデフォルトになってしまったのだ。
アイドリッシュセブンも例に漏れない。実在感で感情を動かす取り組みはリリース当初から行われていた。細かな日付合わせをすることにより、彼らがリアルタイムを生きている感覚を持たせる、ライブでの本編を想起させそれを越えてくるパフォーマンス、現実の出来事と二次元をリンクさせるための細かい小ネタ仕込み、共感できるモブファンたち…などなど枚挙にいとまがない。これらすべてを総括してユーザーは「アイドリッシュセブン、実在した」と口にする。

そう、これはもう周知の事実なのだ。アイドリッシュセブン作中のアイドルは実在するし、彼らは生活の中でそっと私たちに寄り添っている。
この地続きの世界で、彼らがどこかで生きているような気がしてならない。
じゃあ、その次は?
二次を越えた先にみるものって、いったい何なんだろう??

実在している以上のことを、私自身は求めている。それはつまり、もっと露出が観たいとか、何か新しい彼らの姿が見たいだとか、そういう欲求のことだ。
例えば、俳優として活躍している姿や、バラエティ番組で笑っている姿。アーティストとしてのクオリティを極限まで高めている姿。YouTubeなどで巣の姿を曝け出している姿… などなど、みたいアイドルの活躍の場、というのはたくさんある。そうして、何らかの形でそれが実現するんじゃないのか、という淡い期待がどこかにある。
アイドリッシュセブンは、6年という歳月をかけて彼らが二次元という枠を超えて私たちに寄り添うアイドルであることを示してくれた。何でもない日も自然とそばにいることをもうアイドリッシュセブンは成し遂げてくれている。ここから目指すのは、もっと先の見えない未来への航海だ。

もちろん彼らは実在しているとはいえ、人々に作り出された存在だ。二次元コンテンツとしての側面――ドラマチックなストーリー展開――ももちろん持ち合わせているけれど、それは彼らの人生を彩るエピソードにすぎない。あくまで二次元コンテンツとしてそういったエピソードをフィクションとして楽しむこともできる。アイドルとしての彼らだけを見続けることもできる。グラデーションを携えて、その人の数だけアイドリッシュセブンの楽しみ方があるのだろう。アイドルが好きだとか、曲が好きだとか、ストーリーが好きだとか、ジャンルの賑わいが好きだとか、どんな好きでも、アイドリッシュセブンは楽しめるコンテンツだ。

アイドリッシュセブンは技術として現実感を出すコンテンツではなく、感情と熱意から現実感を想起させるコンテンツである。昨今、クオリティの高いCGだとかそういうものはたくさん出ている。けれど、アイドリッシュセブンが与えてくれる現実感というのはその方向とはやや違う。
アイドリッシュセブンの現実感というのは、存在や概念の提供だろう。宗教染みた話だなあと自分でも思うけれど、心のよりどころになるものに実像は必要なんだろうか。救われたと思う心に必要なのは、果たして動きのスムーズなCGなんだろうか。誰しもがままならない、このご時世だからこそ、感情に働きかけるコンテンツ、というものの真価が問われる気がしている。



「何者にだってなれた」アイドリッシュセブンというコンテンツは「アイドル」「アーティスト」となった

アイドリッシュセブンというコンテンツは、6周年を経て実在性を手に入れた。

CROSSING×USで彼らは現実と交わり、BEGINIG NEXTで次のステージをふみだした。そうして、今年の「何者にだってなれる」「We’re  IDOL、We're ARTIST」は、彼らの決意表明だ。これまで「何者にだってなれる」と可能性を提示してきたアイドリッシュセブンは、「アイドル・アーティストである」と明示してきた。6年間という時間で得た、私たちの中の彼らの居場所。それは日々形作られ、強固なものになっていく。いつの間にか生活に入り込んだアイドリッシュセブンはもう現実のものとなった。今の彼らを定義するのなら紛れもなく「アーティスト」「アイドル」だ。これから見せるアイドリッシュセブンの世界は、「アイドル」として、「アーティスト」としてのものになっていく。今はまだ、白紙の地図かもしれない彼らの世界が、どんな色で染まっていくのか、私は楽しみでたまらないのだ。


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