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舞台『赤シャツ』(ネタバレあり)

はじめに

『坊ちゃん』を読んで『赤シャツ』を観劇した感想です。
『赤シャツ』は読まずに観に行ったので、『坊ちゃん』に出てこなかった裏側のシーンはこうなってたんだ!と興味津々で観てきました。

※『赤シャツ』はマキノ先生が執筆した作品で勿論『坊ちゃん』と作者が違うから、本当の物語の裏側はこうだったかもしれないし違っていたかもしれない。でも舞台の感想を書くにあたってそこを考慮するのは野暮なので、置いておきます☺️

坊ちゃん

『坊ちゃん』の主人公。『赤シャツ』には役柄として出てきません。映像シーンのみ登場します。
『坊ちゃん』を読んでいない人にはミステリアスな存在になるかもしれません笑
さて、坊ちゃん自身は『坊ちゃん』の中で無鉄砲で真っ直ぐな性格と自己分析していますが、『赤シャツ』では周りの人からもそう思われているようです。
『坊ちゃん』では片方からの話しか聞かず自分の中で都合のいいように捉えるような性格も出てきましたが、『赤シャツ』では実は赤シャツから憧れられていたりして『坊ちゃん』の中よりもかっこいい人物像になっているような気がしました。

赤シャツ

今回の舞台の主人公。原作とのギャップNo. 1。
『坊ちゃん』を読んだら、「あれもこれも赤シャツの根回しなのか〜」と思うけど、『赤シャツ』の世界になるとこれが180度回転するから面白かったです。
八方美人と自己分析していて、正にそこが原因で周りの人達の勘違いを引き起こしている赤シャツ。自業自得といえばそうだけれど、人に好かれたいとかズルしたいというよりも、人に嫌われたくない争いたくないという心が見えてなんだか応援したくなってしまいました。
戦争に行かない方法を模索したのも、そういった性格もあってなのではないかと思いました。
そしてもし小鈴さんと結婚した場合、あの街であの学校で教頭として働き続ける事は出来るのでしょうか…大切なものを守るためには八方美人ではいられないと恐らく気づいたのでしょうが、あの後の赤シャツなりの正義の通し方がとっても気になります。

ウシ

『坊ちゃん』ではほぼ出てこないけれど、『赤シャツ』では裏主人公ではないかと思うくらい、出番が多い赤シャツ家の下女。
とてもサッパリした性格で、恐らく舞台を見た人はみんな彼女のことを好きになるのではないでしょうか。赤シャツと武右衛門兄弟に対しても、どちらかをものすごく贔屓している訳ではなさそうです。(もしかしたら赤シャツより武右衛門に対しての方がちょっと甘いかも?)
赤シャツは特にウシに対してすごく心を開いているので、彼らが幼少の頃から一緒に居たのかと思って見てたけれど、彼女が知らない話(兄弟仲)もあったりして意外でした。
そしてウシさんは、野だにバカにされても取り合わず、小鈴さんのことは初めて会った時から大事にして、赤シャツと人を見る目が似ているのかも?(ご主人と相手の関係に合わせてるのかな?と思ったけど、赤シャツが野だを気に入ってないことを知らなかったようなので。)
赤シャツがマドンナと結婚するなら、「武右衛門が独り立ちしたら私も家を離れる」と宣言をしていたけれど、赤シャツが小鈴さんと一緒になる道を選ぶならウシも引き続き家にいるんでしょうか?

武右衛門

『坊ちゃん』ではあまり出てこなかった赤シャツの弟。赤シャツの中では大分出てきます。
バッタのイタズラ、武右衛門の仕業だったんかい笑
やんちゃ、無邪気、悪ガキ。でも可愛いですね。
ちょっと困らせよ〜と思って巻き込んだ事で、慕っていた山嵐(と坊ちゃん)が学校を去ることになって、彼はどう思ったんでしょう。なんかあんまり気にしてなさそうだったけど笑
そして彼のいいところは物怖じしないところ。兄が嫌いなばかりに小鈴さんの前で酷いことを言ってしまうけど、その後素直に謝って仲良くなれる。山嵐を慕って下宿に入り浸っている。大人だらけのミューズの会に参加しようとする。お説教中に校長にわからない漢字を素直に聞く。コミュ力の塊…?
彼は兄のせいで大分迷惑しているらしく可哀想な部分もあるけれど、側からみると兄のおかげでうまく行っていることも少なからずあるだろうなって思います。でも、彼の戦争への思いが変わらない限り、兄とも仲違いしたままなのかもしれません。いつかはこの兄弟も腹を割って話せるようになっているといいな。
彼の戦争への思いは、その後数十年の日本の青年のスタンダードな考え方なんでしょう。厳しい道に進んでも、健康にそしてあの明るさを失わずに育って欲しいと思いました。
ところで武右衛門は、「広島の陸軍学校への口利きが少しは出来るかも」みたいなことを赤シャツに言われた時に特に反応してなかった気がするけど、そこは素直に甘えるのかな?と気になりました。

マドンナ

『坊ちゃん』より登場回数が多く、また、全然違う印象でキャラがはっきりしていました。舞台の後半は登場しなかったようだけれど、そんな気がしなかったくらい印象の濃い人物。
所謂「ハイカラ」という印象で、明治時代というより大正時代みたいなイメージの人でした。随分先進的な人だったんでしょう。
「自転車に乗ってきた」というセリフが気になっていましたが、やっぱり当時の自転車はかなり高級品だったようですね。赤シャツの家に自転車を停めているだけで「マドンナが来てる」ってバレちゃうの怖いですね笑
彼女の口調もまた特徴的でしたが、お嬢様の言葉かと思っていたら当時では下品な類の若者言葉だった様ですね。ミューズの会に入ったり東京に行ってみたり、赤シャツに会うために汽車の時間を合わせたり。好奇心旺盛でいつも楽しいことを探している女の子って感じですね。
付き合ったら楽しそうだけど、常に楽しませ続けないと飽きられちゃうのかも?そういう意味では赤シャツもうらなりも彼女を精神的に楽しませ続けるユーモアはなかったかもしれないけど、お金があればある程度彼女の好奇心には付きあえそうなので、彼女が新しい人を探すのに切り替えたのはいいことだと思いました。何目線か分からないけど笑

うらなり

『坊ちゃん』では坊ちゃんが、『赤シャツ』では赤シャツが気に入っていた人物。イマイチはっきりしないおどおどした人だったけど、2人の主人公から気に入られた中々珍しい人。
彼と赤シャツが腹を割って話した時に彼の漢気が出ていてよかったですね。彼のマドンナへの恋は真っ直ぐで。婚約した時はきっととっても嬉しかったんだろうな〜。
彼の恋は、お金がなくなっていなかったら成就していたのかもしれない。時が経てば意外とマドンナと仲の良い夫婦になってたかもしれない。なんて思ったり。
「日向はここみたいに悪いやつはいないいいところだ!」みたいなことを山嵐が言っていたけど、実際その後平和に暮らしていけたんでしょうか。せめて騙されることなく暮らせてたらいいな…
因みに彼が読んだ「巨人 引力」という詩は英語の教科書から引用して『吾輩は猫である』に載っているらしいです。あの詩が赤シャツの心をとっても動かしていましたね。

小鈴

『坊ちゃん』では赤シャツと示し合わせている芸者という印象でしかなかったけれど、『赤シャツ』ではとっても可愛らしくて素直な人。
あれだけ可愛らしくて、恐らく贔屓にしている人は他にもいたんだろうけど、赤シャツを慕っていたのはやっぱりお金や身分ではなく彼自身にとても惹かれてたんでしょうね。
最後赤シャツに自分の気持ちをお話しに行くのは勇気がいったでしょう。彼女が素直で勇気ある行動ができる人物だったことで、全員がバラバラになったまま終わらなかった唯一の望みですかね。
小鈴さんには幸せになって欲しいです。

山嵐

『坊ちゃん』『赤シャツ』どちらでも人望のあるまともっぽい人。でも真っ直ぐではあるけれど、意外と人の話を聞かない男。なので、彼の言動が周りを巻き込んでいたり、彼自身騙されやすかったりするんじゃ…?と心配になる人。
その後、坊ちゃんとすら会っていないくらいだから、きっと赤シャツの誤解は解けないままなんだろうなあ…。
あと彼もまた、うらなり先生には情があった1人だけれど、うらなり先生は彼には腹を割ってお話ししなかったんですね😅

野だいこ

坊ちゃんにも赤シャツにもあまり好かれていなかった…逆に、登場人物で彼のことを気に入ってる人はいるんでしょうか?笑
すっごく嫌なやつって訳ではないんだけど、いい人でもない、憎めない人。
彼が1番権力のある狸ではなく赤シャツに擦り寄っていたのは狸には相手にされなかったからかな?とか、『坊ちゃん』の釣りに行くシーンなんかでは2人でコソコソ話して悪巧みをしてそうな感じに見えてたけど、赤シャツの八方美人がそうさせてるんだろうなとか勝手に色々と思いました。
みんなから相手にされてないけど、それでも八方美人な権力者である赤シャツがいたからこそ成立する野だの立ち位置。この先、赤シャツと彼が離れ離れになることがあっても(もしくは赤シャツが権力を失っても)野だは新たに擦り寄る先をすぐに見つけるんですかね。
自分が偉くなることよりもくっついて生きていくことを選んでいる野だこそ、八方美人な赤シャツよりももっと困っちゃう存在だけど、いつの時代も彼みたいな人が1番しぶとそうですね。

『坊ちゃん』では序盤から登場するけど『赤シャツ』では最後の方に登場する校長先生。
もっともらしいことを言ってるような言っていないような人。
校内では1番の権力者ではあるものの、独断で何かを決めたりはしないのかな〜いいような、悪いような笑
もし彼がもっと権力を振りかざすタイプだったら、他の先生たちとの間に挟まれて八方美人な赤シャツはもっと大変だったかもしれませんね。

武右衛門と坊ちゃんとウシと清


『赤シャツ』の中では、坊ちゃんと武右衛門の境遇や性格が少し似ている対比も面白かったです。
どちらも兄と暮らしている、兄とは反りが合わない「弟」。良くも悪くも素直で家族に対しての反抗心があり、あんまり後先考えずに行動してる(つまり無鉄砲?)ってところは似ています。
成り行き任せの坊ちゃんと、一応進路を考えている武右衛門という点では違いますね。あと人懐っこさの違い笑

さて、清は坊ちゃんの家の下女です。『赤シャツ』には坊ちゃん自体姿が出てこないので、清ももちろん出てきません。
『坊ちゃん』の中で、清は坊ちゃんのことを崇拝してるレベルでベタ褒め。物語の最後の方は清から坊ちゃんへの執着だけでなく、寧ろ坊ちゃんが清へどんどん執着していくように感じました。清は亡くなってしまったけど、成り行き任せとはいえ最後に2人で暮らせたというのは2人にとってはハッピーエンドだったんでしょう。
一方『赤シャツ』の中で、ウシは赤シャツに対して対等、若しくは嗜めるような関係性で、武右衛門に対しても赤シャツより特別贔屓することはなく見えました。
武右衛門も、希望通りの進路に進めば自ずとウシとも離れて暮らすことになります。ウシは武右衛門が家を飛び出したら追いかけてきてくれる存在ではあるけれど、後に武右衛門が夢を諦めることがあったとしてもウシと2人で暮らす事になるというのは想像出来ませんね。お互いに執着はしていなさそうだし、ウシには武右衛門だけでなく赤シャツもいるし、赤シャツ家に依存せず離れて生きていこうとする気概もあるし…。
主従関係を抜きにして、坊ちゃんにとって清は「唯一自分を理解してくれる、守りたい存在」だって気がついたんですよね。そういう相手がいるかどうか、そこも大きな違いだと思います。
ウシと武右衛門がどうこうというより、坊ちゃんにとっての清とか、赤シャツにとっての小鈴さんのように、いつか武右衛門にも心を開いて待っていてくれる存在の人が現れたらいいなあ…と思いました。武右衛門が坊ちゃんの歳になる頃にはそういう相手に出会えているかもしれませんね。

時代背景について

当時の時代背景についてはパンフレットに色々載せてくれてたから何となく理解しました。自分では全然調べてないので、思ったことを少しだけ書きます。
・蓄音器や自転車、学生服を掘り下げて調べたらもっとあの世界観を楽しめそう(男子の制服って当時から現代まであんまり革命的に進化はしてないんですね。)
・学校の先生が暇を持て余すほど定時で帰れるのもまた時代でしょうね。夜勤がたまにあるのは大変だろうけど、基本的には仕事ばかりでなく私生活もそれなりに充実させることができる勤務体系っぽいですよね。

さいごに

『赤シャツ』は『坊ちゃん』からの派生ということもさることながら、お話がとっても面白くて笑えるところ考えさせられるところ、沢山ありました。
本の中でイメージしていた登場人物たちが動いてお話しする。話の展開は大体知っているのにすっごくワクワクしました。
内容が濃いので、休憩に入った時は「まだ半分?!もうだいぶ観た気がする!あ、でもまだ取っ組み合いとかご飯のシーン観てないか…」って思いました。後半は怒涛の展開で、体感ではあっという間にカーテンコール。
ネタバレなしにも書きましたが、自分でチケットを取ってお芝居を観に行ったのは今回初めてでした。「舞台に慣れていない人に舞台の楽しさを伝えたい」とキャストの方々は仰っていたけれど、まんまとその術中にハマりました😊

今まで特に好きな俳優さんがいた訳でもないので、舞台やショーに出演者目当てで行くのも初めてでしたし、今まで見たものは全て当たり前のように「その役」として受け入れていました。でも、目当ての人がいると「本人としてではなく役として切り替えて見られるかな?」って緊張感増しで観られるんだな〜と思いました。
今回は松島聡くん目当てで観に行ったけれど、舞台上には武右衛門しかいなかったです!
ただ、武右衛門の足の裏が見えたりご飯を食べるシーンが見れたり…時々ふと、「普通に生活していたら見ることが出来ない推しの一部分」を見ることが出来て舞台って不思議な空間だなと思いながら見ていました。

また、演者の女性陣が皆さん美しくてびっくりでした。客席からでもわかるキラキラした美しさ。女性は3人しかでてきませんが、それぞれハッキリとした意志を持っているキャラクターなのがビジュアルからも伝わってきます。
そして1番驚いたのはうらなり先生。想像よりふくれてはなく、でもおどおどしてるって印象でしたが、帰宅してパンフレットを読んでびっくり。こんなにかっこいい人があのおどおどしたうらなりを演じていたんだ〜!って。役者の方ってやっぱりすごいですね。

キャストの方達が仲良さそうに楽しそうにしているのも、近寄り難い雰囲気がなくていいなと思いました。
中学生役って何歳まで演じられるものなのか分からないですが、数年後に同じキャストで再演したいと書いてあったのでそれが叶ったらぜひまた行きたいです☺️

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