読書の記録 4月

読書
2023年は月に二冊ずつ読もう。それで何かしら感想を書き残そう。

4月
①「畜犬談」太宰治
②「D坂の殺人事件」江戸川乱歩

太宰治「畜犬談」
短文・長文の絶妙な使い分けと、文中の読点の多用によって生み出される疾走感のあるリズムは読み心地良く、声に出して読めば落語のような小気味の良いものになるのではないかと思った。
 物語については主人公のキャラクターを一文目で読者に分からせる明晰な出だしが印象的である。「私は、犬については自信がある。」この一行で我々読者はこの素っ頓狂な自信家の物語の趨勢に早くも釘付けである。その後も「私は、人の三倍も四倍も復讐心の強い男なのであるから」といった一文に見られるように、主人公が主観的に自己を語る描写が目立つ。それは犬に対する畏怖からくるものであり、読者に対し彼の小心者としての印象を強める効果を持つ。また、犬の被害にあった友人に対して思いを馳せる描写も「三日、七日、二一日」が文中で繰り返し出てくることによって印象的である。彼の情に厚いことが窺える。
 後半には皮膚病を罹い臭いを放ったポチを殺しに行こうとする描写があるが、道中の他の犬との戦闘に際し応援するという主人公の行動の変容が見られる。忠犬ハチ公にもみられるようなポチの忠誠が鬱屈した主人公の心に訴えかけ実を結んだ象徴的なシーンだ。しかしそれでもなお毒入りの肉を与え、最後には芸術家であるという大義名分のもと、「弱者」としてポチを東京に連れて行くことを決めている。言葉がわからない動物を弱者として扱う点には現代のペットに対する考え方と異なる部分があると感じた。そこには飼う者としての責任感が欠落している。しかし、野犬がいた時代を経験していない私にとって、当時の人々と犬の距離感を把握するのは些か難しく、一概に主人公の態度を批判することもできかねる。
 主人公の情に脆く小心者のイメージが物語の最初から最後まで、心地よいリズムでもって印象的に描かれていた。

D坂の殺人事件 江戸川乱歩
主人公に誤った推理をさせる手法はやはり王道と見て取れるが何度くらっても騙されてしまう。(アニメのコナンでも毛利小五郎を使って用いられる手法。)物質と心理の両面からの推理が比較できて面白い。序盤から散りばめられる謎が、終盤、一手に集められるからかなりの読み応えがある。

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