窓際

「寂しさの根源を、ずっと知りたかったんだ。」

雨音が室内を満たしている、2人は何も言わずに部屋の中にいた。

結局、僕達は1人だった、いくら2人で身を寄せようとも、互いの腹の中を明かして、弱さを見せあって、この人しか居ないと真に思いあっていたとしても、傍らには常に孤独がいて、不意に寂しさを思い出させる。

笑いあう日々が多いほど、孤独や寂しさの反動は大きい、それを分かっているのに少しでも忘れようとしてしまうそれを弱さと呼ぶのだろうか、答えは雨に紛れて見えない。

「少しだけ、わがままを言ってもいいかな。」

窓際に座り雨を眺めていた彼女が呟く。

無言の肯定を向ける僕を察したように、ぽつぽつと語り始めた。

「私を許して欲しい、貴方と居るだけでは満たされていない、寂しさをごまかせないわがままな私を、どうか許して。」

涙が頬を伝っていた、こんなふうに泣く彼女の姿を、僕はもう見慣れてしまっていた。
彼女が泣く度に、僕の心は絞め上げられていって、呼吸が不自然になっていく、それを悟られてはいけないと、小さく深呼吸をして彼女に笑いかける。

「君が嫌いな雨が降って、その気持ちを曇らせているんだと思う、いつもみたいにまた雨が過ぎるのを待とう、大丈夫、僕達は離ればなれになんかならないよ。」

的外れなんだと、自分でも分かっていた、きっともう彼女には僕は見えていない、孤独にこころを拐かさた人間は戻ることはない、たとえこの場所が穏やかに眠れる場所だと分かっていても。

「うん、ありがとう」

短くそう呟いた彼女は、そのあと目を合わせずに寝室に落ちていった。

一人になったリビングで、雨音がやけにうるさく聞こえた。
「……僕の気持ちは、君には関係ないんだね」

泣いて吐露する方が幸せだと、そう思ってしまった、誰にも話せない寂しさと、恋人に貴方では足りないと言われる惨めさに比べたら。

最低だ、全部。

自分にはこの人が居なければいけないと本気で思っていても、過ぎる時間の虚しさは消せない。
寂しいと泣く彼女に、ただ笑いかけることしかできない。

「結局、僕は弱いままだ……」

雨音が少し静かになった、時計の針だけが動いていた、
誰も居ない窓際に目をやると、泣き出しそうなぼやけた輪郭がただよっていた。

不幸比べなんかしても悲しくなるだけだから、笑っていよう、最初に決めた約束を、今になって思い出してしまった。

「こんな感情、きっといらない」

彼女が待つ寝室へは向かえなかった、このまま、窓際で朝を待つことにした。
宥めるように降る雨と、責め立てるように鳴る秒針と共に。



気がつくと朝になっていて、窓際から鳥の声が聞こえていた。
身体には身に覚えのない毛布がかかっていた、部屋の中には誰も居ない。

毛布からは、優しさの滲む温もりが残っていた。


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