見出し画像

真夏の縄文テーブルウェア

このところの毎日の食事、今日は何にしよう?と頭にうかぶのは、さっぱり、ヒンヤリとするものばかり。あまり手がかからなくて、火を使うのは短時間で、となると益々選択肢が少なくなってしまいます。

ついついワンパターンになりがちのメニューですが、できれば楽しい気分で食卓を囲みたいものですね。
最近は、東南アジアを思わせるラタンのランチョンマットに、大きめのガラス食器、白地に青海波文様の器を使うなどして、涼し気でちょっとよそ行き気分を味わっています。

さて、縄文時代の食卓は?と思い浮かべると、〝大きな縄文土器を火にかけて鍋を囲む〟そんなイメージですが、果たして夏の暑い時期も鍋を囲んでいたのでしょうか。

狩猟採集が主な食料を得る方法であったの縄文時代は、春:ゼンマイやワラビなどの山菜、夏:魚介類や海藻、秋:クリやどんぐりなどの木の実やブドウなどの果実類、冬:イノシシやシカなどの野獣類と、多種多様な種類と概ね十分な量を得ていたと言われています。

食べきれなかった食料は、干物や乾物にして常備食としていたようです。魚や肉は竪穴住居の高いところに吊るし乾燥させ、土器の甕の中には木の実などを粉にして貯蔵し、食べ物が取れない時はそれらを食べていたと考えられています。
私達が買い物に行かずに「今日はあるものですませよう」とする日があるように、縄文人も毎日狩りに出かけていたわけでないようですね。

当時も今とさほど変わらない暑さの中、新しい食材は採りに行けないし、竪穴住居での代り映えしない食卓に少々飽きてきた…という時もあったかもしれません。

そんな縄文人にお勧めしたい夏向きの〝テーブルウェア〟をご紹介します。


貝殻模様の土器はいかがでしょうか。

貝殻のような文様が全体に装飾された土器は、縄文時代前期に長野県茅野市で作られました。

海のない長野県、この貝殻のような文様は、淡水に住む貝からインスピレーションを受けたのかもしれませんね。

土器の口縁部には大きな二枚貝をぐるりと配置し、胴部にはランダムに小さな巻貝。巻貝の廻りには隆起した線状の文様が水の流れを表している…
そんな風に土器を見ていると、谷間を流れるせせらぎの音や、冷たい川の中にいる魚や貝が思い浮かんできますね。

大きく見えますが、高さ22㎝の小ぶりな土器です。
茅野市尖石縄文考古館

「蝶つがい」まで表現されているような二枚貝は、貝殻一枚一枚づつが緩やかなすり鉢状になっていて、大胆なようで実に繊細な造形に驚かされます。

画像2
デザイン性もさることながら、
細かい技も光る一品です。


透かし彫り調の土器も涼しさを演出します。

カゴのような透かし彫りの文様がついた土器も、貝殻状文様と同様に縄文時代前期に長野県で作られました。

全体に施された透かし彫りのような文様は、よく見ると、楕円形とVの字形、逆Vの字形からなり、その一つ一つには線状の文様がそれぞれの形に添って刻まれています。
あたかも、紐などを編んだ時にできる網目のような表現がされていて、その緻密な造形には脱帽です。

この土器と前述の「貝殻状装飾付」は、
同じ地域で作られています。
素晴らしい芸術が生まれる地域には
何かがある⁉と思っています。
高さ25㎝


今日は火をおこしたくない!
そん時には、浅鉢がお勧めです。

海のご馳走アワビをダイレクトにかたどった「アワビ形土器」は、縄文時代後期の千葉県で作られました。
貝殻のざらざらした表面を、一本の盛り上がった文様に凸凹を施して表している…潔いデザインが現代的にも感じます。

画像5
この時代のアワビは、
現在のものより小ぶりであったようです。
加曽利貝塚博物館蔵


夏らしい図柄の浅鉢もお勧めです。

私が個人的にお勧めしたいのは、縄文時代中期に神奈川県で作られた「お魚文様の浅鉢形土器」。2匹のお魚が鉢の中に対に描かれていて、海の中を優雅に漂う魚たちのようです。
シンプルなデザインは、今の私達の食卓でも活躍しそうですね。

「魚影文土器」
高さ14.5㎝、口径44.0㎝
縄文時代中期 / あつぎ郷土博物館

詳しくは、以前に書いた記事▽コチラをどうぞ。


星空を眺めながらの夕食には、
持ち運びが楽なココヤシ製の器が最適です。

時には竪穴住居の暑さを避けて、外で食事をしたかもしれませんね。
これは縄文時代晩期に石川県で作られた「木製の鉢」です。
そしてこの時代からは全く想像できない〝南国産のココヤシ〟の実から出来ています。
〝ココヤシ〟は遠い南の国から漂流してきたものと考えられています。

画像7
普通「木」は腐ってしまい殆ど残りませんが、
近くに河川跡が確認されているこの遺跡では、
多くの水分を含んだ土壌が
良好な状態で遺物を残してくれています。
中屋サワ遺跡/金沢市埋蔵文化財センター

………… ………… ………… ………… ………… …………

貝殻模様の土器を作ったり、ココヤシの実を器にしたりと、縄文人たちの発想は私達の想像よりもはるかに自由であるようにも感じます。
縄文人の食卓を覗いて見たら、何かもっと違うもので、夏の暑さを和らげ、楽しみながら食事をしているかもしれませんね。

もうすぐ立秋ですが、まだまだ暑さは厳しそうです。
毎日の食事、睡眠、心の安定を大切にしながら、暑さを乗り越えていきたいですね。

最後までお読みいただき有難うございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?