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【基礎編】葬儀業界(葬祭業)のマーケティング

このnoteでは、葬祭業のマーケティングについて記載したいと思います。

2021年3月末で家族葬のファミーユ(旧 エポック・ジャパン)のマーケティングセクションを退職しました。
約15年営業企画やマーケティングに携わってきました。
黎明期から株式上場まで会社の変遷を実体験できたこと、そして、北は北海道から南は九州までエリアマーケティングを実践し、多くの貴重な経験を積ませていただいたことに心から感謝をしております。

今では当たり前になってきましたが、15年前の当時は業界内で「マーケティング」という言葉を耳にすることは珍しかったように思います。
ですので、マーケティング部があり、採用している企業はほぼありませんでした。
そんな中、これからの葬儀業界はマーケティングが必須になり、そのためにもマーケティングを体得したいと思い、右も左もわからないド素人状態で入社したのがエポック・ジャパン(現 家族葬のファミーユ)でした。

当時の自分を振り返ってみると、戦術・施策レベルを試行錯誤していたレベルでした。
時にはイベントなどプロモーションで当たりを出すこともありましたが、今からすると無駄な時間と労力をかけたなぁと思っています。

あの頃はマーケティングの書籍といってもハウツーものばかりが多く、もっとファンダメンタルなマーケティングを学べるものは無いのかと思い、アウトプットを含めこのnoteを書きました。ですので、このnoteのターゲットは15年前の私です。

ということで、当時の私が必要としていたマーケティングについて、私なりの理論をまとめていきたいと思います。

決して㈱家族葬のファミーユのマーケティング戦略を晒すものではありませんのでご承知おきください。
※きっと式場を保有している葬儀社向けの内容だと思いますのでご了承ください。

それでは進めたいと思います。



1.現状の葬儀業界の課題

新型コロナによる葬儀の小規模化や低単価訴求のWeb葬儀社が台頭してきてから、葬儀市場は低価格化に拍車がかかっているように見えるのは私だけでしょうか。

どの葬儀社も価格をメインにした、似たようなWebサイトを作り、似たようなリスティング広告などのコミュニケーションを継続しています。

生活者からすればどこも似たり寄ったりで、何が違うのかがよくわからない。
どこも同じようならば安いほうがいい。
だから安さで決めてしまうという人も少なからずいらっしゃると思います。

また、生活者の大半は、普段から葬儀のことは考えていませんし、基本的に考えたくもないはずです。

大切な人がお亡くなりになられて初めて葬儀社を探す、だからよくわからないので、病院から紹介された葬儀社や、控室でスマホを使って検索し、よくわからないから「なんとなく」で決めてしまうという人が後を絶たないのが現実かもしれません。

また、最近ではTV-CMで認知を拡大しているので、さらにWeb葬儀社が台頭してくるのではないでしょうか。

まとめますと、生活者からすると、検討する時間が短い上に、葬儀は何が違うかよくわからない。自分たちにとってその葬儀社を選ぶベネフィットが何なのかわからない。
そして比較する基準が価格や場所くらいしかない。それが現状の葬儀業界の課題ではないかと感じています。

2.マーケティングとブランディング

私はこの課題を解決するにはやはりマーケティングが重要だと考えています。
「マーケティングってチラシとかWebとか広告活動のこと?」と思われるかもしれませんが、「マーケティング」は諸説ありありですので、まずは私が考えているマーケティングについて下記の図でお伝えしたいと思います。

  • <広義のマーケティング>生活者(顧客)の問題を発見して解決すること。

  • <狭義のマーケティング>商品・コミュニケーション(広告など)を通じて顧客の知覚に変化を及ぼし、購入へ促す活動。矢印の向きは、企業→顧客。

  • <ブランディング>生活者に狙った知覚(意味・約束)を持ってもらう活動。矢印の向きは、顧客→企業。

上記の図の通り、ブランディングと狭義のマーケティングは「顧客にどのような知覚(意味・約束)を持ってもらうのか」という点で被っていて、広義のマーケティングはこれらを内包しています。

ですので、最近よく言われるチラシやイベントなどのオフラインプロモーションやWebマーケティングと言われているものは狭義のマーケティングです。
このnoteでは広義のマーケティングを細分化して狭義のマーケティングと一部ブランディングについて話をしていきたいと思います。

3.狭義のマーケティング 3つのビジネスドライバー

ではまず狭義のマーケティングについてですが、葬祭業、特に式場を展開している企業で基本となるのは「認知」「出店」「プレファレンス(好意度)」の3つです。

しつこいようですが、多くの生活者は、普段から「葬儀」のことは考えていないはずです。
なぜならば、今あなたが「カギの救急車」のことを考えていないのと同じように、何かのきっかけがあり、受容性が高まらないと人は考えたり、探したり、思い出したりしないように脳の仕組みはできているからです。※これについては後述いたします。

だからこそ、何かのきっかけで受容性が高まった人の頭の中にインプットし、必要な時に思い出してもらうためには、まず「認知」が必要です。
理由は簡単で、人は知らないものを思い出せないからです。
そして、認知と言っても「第一想起(Top of mind)」が特に重要だと考えています。

4.認知と第一想起(Top of mind)

では、別の角度でなぜ認知が重要なのかを考えてみたいと思います。

認知が重要だと考える理由は、「認知」とその先の「想起」は自社でコントロールできるうえ、基本的に生活者は知らないブランドを購入(選択)することがありません。
人は絶対に失敗したくないと考える生き物だからです。
100円ショップのようなコモディティ商品は例外として、それなりに費用がかかる商品やサービスに対してリスクを取りたくありません。

にしたんクリニックで有名な西村社長が、なぜあのようなインパクト型のコミュニケーション手法を取られているかというと「認知(書籍では知名度と言っている)は人の購入選択に大きな影響を与える」とお考えだからだそうです。

ですので、葬儀社といえども、自社ブランドを認知してもらう必要があります。特に式場を所有しているならば、式場を認知してもらう必要があると考えています。
そして、認知の先にある想起(記憶想起)はさらに重要ですのでここから詳しくお伝えします。

まずは、認知や想起と言っても、どのようにすればわかるのかと思われるかもしれませんので、いくつかある方法の中で一つをお伝えします。

私はよくWeb調査を活用していますが、調査設計の中で必ず聞くのが下記の2つの質問です。

① お葬式と言えば、思い浮かぶ会社名(式場名)を教えてください(フリー入力で聞く)
② 〇〇葬儀社をご存じですか?(10社くらい聞く)

実は、この2つの質問には大きな違いがあることがお分かりになるでしょうか。

①はノーヒントで頭に思い浮かぶ名前を聞くスタイルで「想起率」を調査するときに使います。これを純粋想起=非助成認知(Unaided Awareness)と言います。
②はヒントを与えて聞くスタイルで、一般的に認知率調査と言えばこの質問をします。通常、助成想起(Aided Awareness)と言います。

※気を付けなければならないのは、①→②の順番で聞かなければ、調査の信ぴょう性が下がってしまいますのでご注意ください。

ビジネスに影響があるのは①純粋想起=想起率で、特に最初に頭に思い浮かべた葬儀社名のことを第一想起(Top of mind)と言いますが、私は第一想起が重要だと考えています。
※ちなみに頭の中に思い浮かべたいくつかの社名をエボークトセット(想起集合)と言い、日用品の場合、想起されるブランド名は平均2.6個と言われています。※諸説あり

ではなぜ、第一想起が重要なのでしょうか。

例えば、あなたはマクドナルドをご存じでしょうか。日本人のほとんどの方が知っていると思いますが、いくら認知率が高いマクドナルドとはいえ、誰かが朝食や昼食を食べたいと思ったときに、数ある飲食店の中からマクドナルドを思い出して来店していただかないと売上には影響しません。

同じように葬儀においても、「葬儀をしなければならない状況」になった時に思い出してもらわないといけません。
まして、葬儀は急に必要になることがありますし、ご遺族は動揺している中で葬儀社選択を迫られることがあります。
その時に思い出していただく必要があるので、第一想起は重要なのです。
(実際にある市のシェアの違いを分析した際に、シェアの高い葬儀社は第一想起が高いことがわかりました)

ですので、まずは①知ってもらうこと(認知)②必要なタイミングで一番に思い出してもらうこと(第一想起)
この仕掛けが必要だと思うので、やはりビジネスドライバーの一つは「認知」だと考えています。

さらに、認知や第一想起と言っても「誰に」認知や想起してもらうのかも重要です。
不特定多数の大勢に認知してもらうことができれば、ビジネスは圧倒的に楽ですが、どの会社も広告宣伝費を中心としたリソースには限界があるはずです。

ですので、「誰に」「何を」「どのように」知ってもらうのか、が肝要であると考えています。

では、ここからはP&Gのマーケティング・フレームワークで有名な「WWH」で説明したいと思います。

出典: FEATUReS

WWH=「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」の略なのですが、まずは「誰に(WHO)=ターゲット」についてです。

以前、「50歳以上の男女がターゲットだ」と、ある葬祭業の経営者が言っているのを聞いたことがありますが、私は正しいようでちょっと足りないかなと思います。
その理由を下記に述べたいと思います。

5.葬祭業のターゲットとは(WHO)

「戦略ターゲット」「非戦略ターゲット」という言葉をご存じでしょうか?
戦略ターゲットとは「中長期的にリソースを投下する目標となる生活者」のことで、
非戦略ターゲットは一切リソースを費やさない層のことを言います。
※リソース=経営資源=人・物・金・時間・情報・知的財産(IP)

かんたんに言うと「戦略ターゲット=狙う人たち」「非戦略ターゲット=狙わない人たち」ということです。

ではなぜ、「狙う人たち」「狙わない人たち」を決める必要があるのでしょうか。
いくつかの理由がありますが、最たる理由はリソース=経営資源には限りがあって、すべての人たちを狙うことはできないからです。

マーケティング総額をターゲット数で割ったものが一人当たりのマーケティング予算ですが、すべての人たちにマーケティング予算を割り当てると、薄い予算になってしまい認知形成や知覚刺激→購買意欲を掻き立てるのに不十分になる可能性が高くなります。

もしも、会社に有り余るリソースがあるならば式場をバンバン建てて、TVCMをガンガン流してなんてことができますがそんな会社はほぼ無いはずです。

限られたリソースをどのように使うのか、そのために「誰に(WHO)=ターゲット」を絞る必要があると思うのです。

これ以外にもいくつかターゲットを選ぶ理由がありますが、もう一つお伝えするとすれば、それは「選ばれる確率」が違うからです。

簡単な例でいうと、「葬儀のことが気になっている人」と「葬儀のことは全く気にもしていない人」では同じ葬儀の広告を打ったとしても当然、選ばれる確率が違うはずです。

ですので、ターゲット=誰に(WHO)をしっかり捉える必要があると考えています。

ではどのようにターゲット(WHO)を決めればよいのでしょうか。
これはあくまでも持論ですが、葬祭業における戦略ターゲットは「喪主になりうる人、またそのインフルエンサー」だと考えていますが、今後はさらにその中でもセグメントをする必要があると考えています。

セグメントの切り口として代表的なのは下記の3つです。

①デモグラフィック(性別、年齢、職業、家族構成などの人口動態要素)
②ジオグラフィック(居住地、出身地などの地理的要素)
③サイコグラフィック(ニーズ、価値観、行動特性などの心理的要素)

例えば横浜市でビジネスをしているならば、横浜市内の喪主になりうる人やそのインフルエンサーが戦略ターゲットになりますが、その中には「安くお葬式を済ませたい」「自宅の近くがいい」「安心できる会社に頼みたい」などのニーズや価値観があるはずです。

ですので、ただデモグラフィックやジオグラフィックでセグメントするのではなく、生活者のニーズや価値観でセグメントして、ターゲットを見定める必要があると考えています。
つまり、サイコグラフィックセグメンテーションが重要だと考えています。

これが前述した「50歳以上の男女が私たちのターゲットだ」がちょっと足りない気がした理由です。

6.何を提供するのか(WHAT)

次に誰に「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」のWHATについてです。
率直にWHATとは生活者が買っている(選んでいる)真の理由(便益)のことを言います。

今までのお客様が、数ある葬儀社の中から当社を選んでもらえたのは何かの理由があるはずです。
ではその理由は何なのでしょうか。
そこで考えるのがポイント オブ ディファレンス(Point of Difference)です。

ポイント オブ ディファレンス(以下POD)という言葉はあまり聞きなじみが無いかもしれませんが、 バリュープロポジション(Value Proposition)やユニークセリングプロポジション(Unique Selling Proposition 略してUSP)とほぼ同義です。

ではPODとはいったい何なのかを説明したいと思います。

PODとは下の図でいうと、Customer(顧客)とCompany Brand(自社)がクロスしている部分のことを言います。
つまり、顧客が求めていて、自社だけが提供できる理由(便益)= 競合よりも自ブランドを選ぶ理由ということです。

Point of Differenceを普通に訳すとついつい「差別化」と言いたくなりますが、差別化は何が違うか(成分や機能など)ということですので差別化ではありません。生活者が買う理由=便益のことですので、競合よりも自ブランドを買う(選ぶ)理由が正しい表現だと理解しています。

次にCompetitor Brandを含めてすべての円がクロスしている部分のことをPoint of Parity(ポイント オブ パリティ 以下POP)と言います。これは「ほぼ同一条件」ということです。
また、CustomerとCompetitor BrandがクロスするところはPoint of Failure(以下POF)と言います。「競合ブランドを選ぶ理由=自ブランドを選ばない理由」ということです。

ここからは下のようなポジショニング・フレームワーク使用してWHATを考えます。

まず初めに右の競合他社の名前を入れます。ここでは「低価格Web葬儀社」としておきます。次に競合他社のPOD、当社のPOFを入れます。最後にPOPを入れます。

例えば、当社は価格積み上げ式の葬儀社で、かつ、アンケート調査で割高感があることがわかっています。なので、低単価Web葬儀社のPODに「安い」という便益を記載し、当社のPOFに「割高感」を記載しました。
また、商圏内において生活者が利用可能な式場数はほぼ変わらないのでPOPは近い(式場数)という便益を記載しました。

さて、このポジショニングを変えなければなりませんが、まず初めに考えることは当社のPOFをPOPに上げることです。

つまり、選ばれない理由は消さなければなりません。ここでは「割高感」を消さなければいけないということです。また一般的には価格の便益はミートしなければなりませんが、当社は価格競争をしませんので「安い」ではなく「リーズナブル(適正価格)」を入れ、ほぼ同一条件としました。
これで低価格Web葬儀社のPODと当社のPOFを消します。

最後にPODを入れます。
当社は幅広い葬儀に対応していて満足度調査でも97%であり、アンケート調査でサービスの品質も評価されており、当社のPODを「心残りのない納得感が得られる」にしました。対して低価格Web葬儀社はPOFを後悔しそう(安かろう悪かろう)にしました。

これが、私が学んだWHATを作るポジショニング・フレームワークです。
そして、このフレームワークで考えたPOD(可能であればPOPも)をコミュニケーション(HOW)に活用していきます。

7.どのように生活者に伝えるのか(HOW)

それでは最後に「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」のHOWのパートです。

ここまで考えてきたWHO(誰に:ターゲット)とWHAT(何を:POD)をどのように伝えるのかということですが、HOWは戦術(Execution)ですので、生活者が「自社が考えた戦略」を目にできるようになるということです。

このときに気を付けなければならないのが、競合他社を注視してしまうことです。
「〇〇社はネットで集客できているらしい、似たようなホームページを作ろう」
「■■社のチラシのいいところを真似してみよう」
と競合目線で戦術を考えてしまうことは危険です。

なぜならば、ターゲットは近しいとしても、伝えるべきPODが違うからです。
先ほどのWHATのパートで記載したフレームワークのように、競合他社のPODが「安い」として、当社のPODが「心残りのない納得感が得られる」ならば、戦術は違うはずです。

ではどのように戦術を考えるべきなのでしょうか。

  1. 「WHO:(ターゲット)がレセプティブモーメント(受容性が高まる)になるタイミング」はどこなのか

  2. そのタイミングでコミュニケーションできる手法は何なのか

  3. POD(可能であればPOPも)をコミュニケーションに入れる

この順番だと考えています。

ちょっとここでレセプティブモーメント(Receptive Moment)と脳の構造について記載します。

8.レセプティブモーメント(受容性が高まる瞬間)とは

人の脳は体重の約2%あり、人間の1日のエネルギー消費量の約20%を使用するそうです。

その大半は数万~数十万回行われている“意思決定”のために使用されていると言われています。

脳は生存するために自動的にエネルギーを消費するようにできているのですが、
人間の体はエネルギー消費を抑えるために、できるだけ脳を使わないようにできているそうです。

つまり、脳のエネルギー消費を抑えるために無駄な情報は無視・忘却するようにできていて、「意思決定は論理的よりも直感的」に行われるようにできていると言われています。

ちなみに、今朝、通勤途中で見た看板などの広告を覚えていますでしょうか?
きっと何かの広告は見ているはずなのですが覚えていないのではないでしょうか。

つまり、「会社に行く」という目的に関係ない情報を、いちいちエネルギーを消費しないように脳は無視をしているのです。

これを脳のオートパイロットモード(自動運転状態)と言いますが、ほとんどの人間の行動はオートパイロットモードでできています。前述の通り脳のエネルギー消費を抑えるためです。
ところが離発着(判断)などコントロールを必要とする時に脳はパイロットモード(操縦)に変わると言われています。

そのパイロットモードになるタイミングをレセプティブモーメント(Receptive Moment 受容性が高まる瞬間)と言います。

ということは、お客様に何かのメッセージを伝えたいならば、お客様がレセプティブモーメントの時に伝える必要があるということです。

それでは、葬儀に対してレセプティブモーメントになるタイミングとはいつなのでしょうか。

・親が入院した
・医者に危篤と言われた
・TVで葬儀の特集を見た

などが考えられるのではないでしょうか。

ちなみにあなたは今、レンタカーのことを考えていますでしょうか?
弁護士のことを考えていますでしょうか?
Receptive Momentでない人は頭の片隅にもないはずです。

重複しますが、人は何かのきっかけでレセプティブモーメントにならないと物事を考えないようにできているということです。

話を戻します。

では葬儀にレセプティブモーメント状態の人たちは、どのような場所で葬儀の情報を得るのでしょうか。

①病院の帰り道
②自宅のリビング
③病院の廊下や霊安室

などが挙がるかもしれません。

そこで、どのようにすれば自社を認知または記憶想起してもらうことができるのかと考えるわけです。

例えば、
①病院の帰り道ならば、病院と自社の間にある道路の看板であったり、自社式場があればポールサインなどの看板もそうです。
②自宅のリビングならば、ネット広告や折込チラシなど自宅に入り込める媒体も可能性がありそうです。
③病院の廊下や霊安室ならば、病院からの紹介や病院の葬儀社リスト、スマホも手段になると考えられます。

と考えると、戦術が考えられるようになります。

そして、その戦術を自社のリソースに照らし合わせて選定し、WHAT(POD)を伝えていくという流れです。

9.HOWで気を付けなければならないプレファレンス(好意度)とは

HOWで実行するときに注意しなければならないのがプレファレンス(好意度)です。あまり聞きなじみのない言葉だと思いますが、簡単に言うと「好きになってもらう」ということです。

理由は簡単で、基本的に人は好き嫌いで判断する生き物です。嫌いなものを買う人はほとんどいないはずです。
だから戦術展開で嫌われる活動はやってはいけないということです。

ずいぶん昔の話ですが、当時の私の先輩が「チラシはアテンションが重要だ」といって背景色を黒にして、黄色い字で大きく「家族葬」と書いたチラシを作って折り込みました。結果、それ以降のシェアが急落したことを今でも覚えています。
きっと生理的に不快感を与えるクリエイティブだったのだと思います。

確かにAIDMAやAISASの法則でも言われるようにアテンションは大切ですが、やりすぎてプレファレンスを毀損してはいけないということです。

チラシだけでなくWebサイトやイベント、施行も同様です。
生活者とのタッチポイントでプレファレンスを獲得することは非常に重要です。なぜならば、認知率や想起率というのはいくら頑張ったとしても、100%以上になることがないからです。
※ちなみにアンパンマンでも認知率は100%ではないそうです・・
しかし、プレファレンス=好きになってもらうことに上限はありません。

好意を持っている会社と嫌いな会社、同じ製品やサービスを選ぶならどちらを選ぶでしょうか。当然前者のはずです。

だからこそ、プレファレンスを上げる必要があります。

10.プレファレンスの構成要素

プレファレンスは3つの要素で構成されています。
1つは製品(サービス)パフォーマンス、2つ目が価格、最後にブランド・エクイティです。

葬儀社は他業種と異なり頻繁なリピートはなかなかありませんので、どのようにサービスパフォーマンスを感じてもらえばよいのでしょうか。
まだ参列者が来ていたころは、参列者や親族に対する対応でサービスパフォーマンスをお伝えすることができましたが、家族葬が主流になり、参列者が減少している今、さらに工夫が必要です。

式場を保有している葬儀社であれば、イベントで事前にスタッフのサービスパフォーマンスを感じていただくことも手になるはずです。
また、当然ですが、葬儀施行もサービスパフォーマンスをお伝えする一つです。

次に価格です。価格はプレファレンスの構成要素として重要ですが、価格はお客様が決めるものなので、高すぎても安すぎてもダメだと考えています。
「地域最安値、他より高かったら値下げします」とうたっている葬儀社がありました。
(今でも頑張っているようですが・・・)
その葬儀社の戦略ターゲットは「安ければ安いほどいいと考える人」だと思いますが、生活者の中でも少数なのではないでしょうか。
「安かろう悪かろう」という思いは払しょくできないはずです。

人は基本的に失敗したくない生き物なので、安すぎてサービス品質がよくなかったり、家族や親族から後から苦言を言われるリスクを負うのが嫌なはずです。
ですので、安ければ安いほどいいと考える方も確かにいらっしゃると思いますが、本筋ではないというのが私の考えです。

ではどうするのか、
ポイントはブランド・エクイティだと考えています。

11.ブランド・エクイティとは

①ブランド・エクイティとは、製品やサービスに与えられた付加価値である

フィリップ・コトラー&ケビン・レーン・ケラー

②消費者の頭の中にあるブランドに対するイメージ

 株式会社刀 代表取締役CEO 森岡毅氏

と、諸説あるのですが、私は総じて「生活者がブランドについて想起するイメージ(付加価値)」だと認識しています。

つまり、プレファレンスを上げるためにもコモディティ化を脱するためにも、これからはブランド・エクイティの構築→ブランディングが必要ではないのではないでしょうか。
それでは次章からは「ブランディング」についてまとめていきたいと思います。

12.葬儀業界のブランディング

ある程度競合に模倣されることがイノベーションや市場創造を助けるが、技術的に追随可能なものはうまくブランド化しないとコモディティ化することがある

音部大輔氏(マーケティングプロフェッショナルの視点より)

と、マーケティング界隈で有名な音部大輔氏も言われていますが、これが現在の葬儀業界のように思えます。

話を戻しますが、ブランディングとは何なのでしょうか。

「当社もブランディング広告をやろう」
「ブランディング訴求のCMをつくりたい」

のようなことを聞かれたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ブランディングという言葉はなんとなく「戦略」と同じようにふわっとしてかっこいいカタカナ言葉だと思われるでしょう。

ブランディングは「Brand(ブランド) + ing」です。
では、そもそもBrand=ブランドの定義とは何なのでしょうか。

ブランド=高級品、ブランド=マークやロゴとお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。辞書で調べてみるとブランドとは下記のように定義づけられています。

ブランド(Brand)
銘柄。商標。特に高級品として有名な商品と、その商標。「デザイナーズ—」「—品」

weblio辞書より引用

と、いまいちよくわからないのですが、これ以外にも調べてみると「ブランド」という言葉の定義は諸説あるのですが、私はブランド=「約束・意味」だと考えています。

「ブランド=製品(サービス)+意味や約束」

例えばビールです。最近はプライベートブランドを含めると様々なビールが出ていますが、ビールと聞いてどのようなブランドを頭に思い浮かべるでしょうか。


私はスーパードライ、プレミアムモルツ、一番搾りなのですが、味や機能性の違いはあれど中身はビールで共通です。
しかし受けるイメージが違いませんでしょうか。下記はあくまでも私が感じているイメージです。

スーパードライ = ビール + さわやかな喉ごしと爽快感
プレミアムモルツ= ビール + 特別な日や時間に花を添えてくれる
一番搾り    = ビール + 食事を引き立ててくれる

ビールは製品としてはビールなのですが、そこに意味や約束が付加されるとブランドが成り立ちます。
私たちは同じビールでも、この意味や約束をイメージして比較検討して購入しているのではないでしょうか。

これはきっと葬儀に対しても同じことがいえると思います。

葬儀社A= 葬儀 + なんとなく高そう
葬儀社B= 葬儀 + 知名度と安心感がある
葬儀社C= 葬儀 + 昔からある古い感じ

いかがでしょうか。

製品やサービスに狙った意味や約束を付与→生活者に狙った認識を持ってもらう活動が「ブランディング」だと考えています。

前述の通り、認知、特に第一想起は重要ですが、第一想起を上げるためにも、いかに狙った認識(私はポイントオブディファレンスだと思っています)を持ってもらうかということがさらに重要であると考えています。

13.どう認識されているかが全て(Perception is everything)

実例でお伝えしますと、掃除機カテゴリの純粋想起ではダイソンが一番という調査データがありますが、ダイソンはただ想起率が高いだけではなく、「吸引力が変わらないただ一つの掃除機」という認識を持たれていることも想起集合→第一想起を上げている理由であると思います。
※ちなみに掃除機カテゴリの中で想起順位ごとの購入率は第一想起が約70%、つまりダイソンが一番売れているということです。

Evoked Set調査2022(2022年2月実施/トライバルメディアハウス調べ)」

さらに突き詰めていえばブランディングは「利益の創造」だと解釈しています。
下記の二つの式をご覧ください。

似ていることはお分かりいただけますでしょうか。
生活者が商品を購入するときに支払う金額を価格といい、工場から出てきた製品を購入する際に支払う金額を原価と言います。
そうすると「ブランド=利益」ということになるのです。

ちょっとわかりづらかったかもしれませんので、Tシャツを例にしてみます。

Nikeはご存じだと思いますが、NikeのTシャツと無メーカーのTシャツの比較をしてみましょう。
NikeのTシャツは約5,000円で売られています。無メーカーのTシャツだと1,000円程度で売られています。

ちなみに使われている綿は市場でほぼ同じ金額で取引されていますし、加工なども最近では海外の同じような場所で作られているので、製造原価もほぼ同等としましょう。

ではなぜ5倍の金額で4,000円もの差がつくのでしょうか。ちなみに4,000円の差は利益です。

それが、Nikeの持つブランドであり、生活者はNikeが狙ったブランドイメージを購入しているのだと思います。

製品やサービスに狙った意味や約束を付与する活動ブランディングは利益を創造することと言えると思います。

では現状の葬儀業界はどうなのでしょうか。

ブランドを持たれている葬儀社が少ないので、生活者からすると、式場やサービスもほぼ同一と見えるため、市場価格に収れんします。
これが葬儀業界で起こっている低価格化の理由の一つではないでしょうか。

14.最後に、私は葬儀業界を元気にしたい

ここまで私が体得してきたマーケティングを部分的に記載いたしましたが、私は広義のマーケティングで葬儀業界を元気にしたいという思いも込めてこのnoteを書きました。
お読みいただいた方々には賛否両論あることも承知しております。

家族葬ニーズの増加による家族葬ホールが増える中、「一日一組」や「一日一家族」と同じような機能性をコミュニケーションしている葬儀社が増えているように感じています。つまりコモディティ化です。

そして少子高齢化、核家族化、老々介護などの環境の変化にプラスし、Web葬儀社の台頭で、低価格化がさらに進行しています。

20年以上前の高単価を得ていた時代が良いとは思えませんが、葬儀業界は生活者に対して、葬儀を通じて何の価値を提供しているのか、これが生活者からするとわからないので、現状に至っているのではないでしょうか。
だからこそ、私はこれからも葬儀業界の価値の創造をしていきたいと考えております。

冒頭で記載いたしました通り、このnoteのターゲットは15年前の私ですので、私のアウトプットのための内容になっておりますが、ご意見やご質問などがあれば、遠慮なくご連絡ください。
できる限りご返信したいと思っております。

また、これからの業界やマーケティングについて、一緒に語れる方々とお会いできればいいなと思っております。

他の葬祭業のマーケティングに関する記事は下記のサイトの「リサーチ&レポート」からご覧いただけます。
https://www.plusmarketing-jp.com/%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%81-%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88/

以下にお問合せフォームからご意見やお問い合わせをお待ちしております!

最後までお読みくださいましてありがとうございました。


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