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フィリピン人の子

午後はフィリピン人の子と現場が一緒だった。一緒だったと言っても属してる会社は別である。なんだか日雇い現場日記みたいな事になっているなと思いながらも電車内で書いている。

現場に到着すると先方から「もう一人いるから二人でやって」と紹介されたのがフィリピン人の子だった。すぐさま作業に取りかかる、全ては早く帰るためである。

作業開始と同時に頭の中で思い描いていたのは映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」だ。
ポール・マグサリン演じるアンドレイを回想していると自作品で登場した斉藤天鼓演じるテイン・アー・チンまで登場してきてしまった。

そんな事はさておき作業はコンクリート用の砂とセメントの搬入、地上から地下一階まで階段で降ろす作業、セメントが約25kg約30袋と砂20kg約80袋である。三分の一は既に搬入済みで残りを載せたトラックが後から来るという事だった。

これも現場では恒例なのだがまずは力比べが暗黙で取り行われる。僕は砂を二袋担いで階段を降りる。
フィリピン人の子も二袋担いで降りるのをすれ違い様に確認する。やるじゃねぇかと思いながらも三往復ぐらいしたところから一袋になっている。
すれ違い様に相手の担いでる数を確認するのも恒例である。

(勝った)

力比べに勝利したのは良いが負担が大きくなるのは僕の方である、当惑したが早く帰るために僕は二袋担ぐ事を続け速度を上げるしかないと腹を括る。

20分弱で終了し、もう一台のトラックが到着するまでフィリピン人の子と近くの公園で休憩していた。

話してみると今日が建築現場自体が初めてらしかった。だとしたら最初に二袋をやってのけた彼は逸材である。その後も質問を続けると日本に来て七年で祖母がパブを経営していて夜はそこで働いていて日中、暇だから建築のバイトを始めて、パブが終わると毎日欠かさずジムに通っていると教えてくれた。だからかとは思ったが、筋トレ器具の負荷と重量物は別物である。と僕は思っている。

質問も尽きてきたので「彼女居ないの?」と訊くと
「居ない居ないです」と彼は照れ臭そうに言った。

「どれくらい居ないの?」「一年ぐらいです」
「その人は日本人だったの?」「そう、日本人です」
「へぇ、なんで別れたの?」
「日本人の彼女冷たいです、熱くない」
少し笑いそうになったが
「どゆこと?」と訊いた、すると彼は
「あまり本音言わないから楽しくない、もっと愛情表現したいのに出来ない、愛してるっていっぱい言いたい、もっと近づきたい」
「・・・」
映画かドラマかとも思ったりしたが
何も言えずにいると僕の方をまっすぐ見て

「愛してるって言う?」と訊いてきた。
「言うよ」と言った。

事実ではあるが顔が紅潮してくるのがわかる。地黒だからバレないのはわかっている。

そして、彼に気押され何故か僕は
「めちゃくちゃ言うよ」と付け足した。
すると彼は大きく何度か頷き接近してきた鳩を
「くわー」と言って追い返した。

そんなところでタイミング良くトラックがやってきて僕は約40〜50kgを運び続けた、作業は30分で終了した。

無理をして左足と脇腹を痛めたのは彼には内緒である。

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