近未来の管理会社を考える(その3)

 今回のシリーズは、「DX」により大きく変革を遂げるであろうと思われる「近未来の管理会社」「近未来の委託管理」の姿を「AI」・「ブロックチェーン」・「メタバース」といった技術を題材に考えたいと思います。
 ・・・と書きながら、今回は前回の続きです。

ちなみに「DX」とは?
 「Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション」の略。
 進化したIT技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革させることを言います。

 なお、「DT」と表記されないのは、英語で「Transformation」を「X-formation」と表記されることがあるため・・・というのが理由だと言われています。
 たぶんですが・・・「DT」という略語は既に使われているので、混同を避けるため「DX」なのかも?と思っています。(例:「Data Translator」= データ変換装置 、「Data Transmission」= データ伝送、データ送信)

前回の記事は、こちら!   
 「近未来の管理委託を考える(その1)
 「近未来の管理委託を考える(その2)

「生産性の低さ」に寄せられたコメント

 前回は、管理が死者のフロント担当者から見えた「生産性低下」を招く事例を・・・幾つか紹介しました。
 その事例に対して・・・そうならざるを得ない事情をコメントとして、私のDM(tani@msnet.or.jp)に返信をしてくださいました。
 本題に入り前に、このメールを拝見して・・・感じたことをお話したいと思います。

問題点に気づいているけど・・・

 メールには・・・フロント担当者の業務に関して、生産性低下を招く要因として改善したい課題が記されていました。
 例えば、長時間労働や残業を強いられる問題、マルチタスクが求められる問題、チームプレイより個人プレイが横行する問題、その他・・・という感じでした。

マルチタスクとは?
 元々は、コンピューターで使われる言葉です。昔のコンピューターは、頭脳であるCPU(中央演算装置)が1つしかなく・・・命令(タスク)は、1個づつ順番にしか計算(実行)できませんでした。
 ただし計算は超早いので、(例えば0.05秒とか)超短い時間で区切って複数(マルチ)の命令(タスク)を順番に計算させます。
 計算した答えを書き込んだり一時保存したりする部品(例:メモリー、ハードディスク)の処理速度が遅く・・・CPUの手待ち時間を少なくする工夫です。
 こうすると1つの処理しかできないはずなのに、同時進行で計算しているように見えます。これを「マルチタスク」と言います。

 これと同じように、仕事を同時進行で行なうことを「マルチタスク」と言います。仕事でマルチタスクを行なうと、注意散漫になりミスが増えたり、コンピューターのように瞬時に仕事を切り替えられないので「スイッチングコスト」がかかると言われています。要するに・・・働き方としての「マルチタスク」は、生産性が低くなる要因になり得る!ということです。

余計に生産性が低くなってない?

 そして、その課題に対しては、「ノー残業DAYの設定」とか、「業務フローを見える化する取り組み」とか、「無駄な業務の洗い出し運動」とか、「社員のスキルアップ勉強会の実施」とか、「情報共有のためのIT技術やツールの導入」・・・みたいなことを行ってきたそうです。
 
 それを読んだ私の感想は「その取り組みによって・・・余計に生産性が低くなってない?」でした。
 カッコ良すぎです。掛け声だけで、ポーズだけで、終わっていそうな気がしたからです。(知らんけど・・・(笑))

 私がそう思ったのは・・・私が事例として取り上げたことに対するコメントを読んだ時かな?
 コメントには「ペーパーレス化には管理組合に機器購入等の負担を強いるし、理事役員に馴染んでもらえないので・・・」とか、「ウォーキングシューズやパンプスでは管理組合から理解してもらえない」とか・・・「あきらめ」的なことが列記されていたからです。

理由は、そこではないかも?

 このメールを拝読して私は、「生産性低下」を招く最大の原因が見えたような気がしました。問題に取り組む姿勢(体質?)に問題があるかも?と感じたからです。
 改善するための原理や理屈は頭で分かっていても・・・いざ現場で実践!となると途端に頓挫してしまう・・・
 「実行できる手立て」は、探せばあると思うのだけれど・・・「できない理由」が優先される。
 それは、何故なのか?(と、エラそうに話す私も・・・できない理由が大好きなのですが・・・(笑))

組織の体質は、どうなのか?

 「あぐらをかいている」とまでは言いませんが、柔軟性や革新していく姿勢に欠けるかもなあ・・・と正直思いました。

 キチンと説明すれば、全てでなくてもペーパーレス化に向けた機器購入等の提案に応じてくれるマンション管理組合が現れるかもしれないし、ウォーキングシューズもパンプスも問題のない・・・と私は思うのです。やる前からNG(無理)と決めつけるのは、「やる気がないから」としか思えません。
 そして・・・「やる気がない」のは、「そこにメリットを感じていないから」だと思うのです。

スズキ自動車のトップダウン

 ここで、今年の6月までスズキ自動車の会長を続けて来られた鈴木修会長(現:相談役、御歳もうすぐ92歳!)の対談記録を紹介したいと思います。

 鈴木会長は、倒産しかけていた会社を立て直し、国内の軽自動車販売やインドでの自動車販売でトップシェアを取る企業に育て上げられた超ワンマンな経営者です。

 私は、鈴木会長の対談記録に触れるまでは、ボトムアップ(=下層部からの提案を上層部が吸い上げるて意思決定する組織のスタイル)が理想だと思っていました。それが国民主権主義の根幹だと思っていたからです。

 鈴木会長は、対談の中で「ボトムアップは効率が悪すぎて使えません。それに経営責任を取るのはトップです。何の責任も取らないボトムの意見に基づいて経営すれば倒産するだけ。企業はトップダウンでないと成長できない」とボトムアップを否定されていました。
 私は、確かにそれはそうだろうけど・・・ボトムアップを全否定されたことに「さすが!超ワンマンな方だなあ」と違和を感じました。

 ところが・・・目からウロコで感銘を受けた言葉がありました。
 それは鈴木会長が「私の言うトップダウンは『上意下達』という意味ではなくて、トップが工場や販売店の現場(末端)に下りていくことだと思っています」と話された言葉です。
 実際に鈴木会長は・・・全国各地の点在するディーラーや小売店の整備工場へは自らの足で出向かれ、現場スタッフやユーザーの声から経営戦略や販売戦略を考えられていたそうです。

 目標達成のためには、周囲から(部下から)無理だと言われてもトップダウンで粉骨砕身の努力を惜しまない。
 そうして結果を出して来られた鈴木会長のトップダウン思想の神髄に触れた時、ホントに目からウロコが落ちました。

「スズキ アルト」の販売戦略

 今回の話の最後に・・・鈴木会長が事例として話されていた「スズキ アルト」の誕生秘話をお話します。

 「スズキ アルト」は、1979年に初登場し「軽ボンネットバン」と呼ばれた新ジャンルを開拓した自動車です。スズキ自動車V字回復の原動力となる超ヒット商品となりました。
 「軽ボンネットバン」とは、軽商用車とすることで後部座席が狭くなるが物品税や自動車税等を節税できる、ほぼ2人乗り軽自動車のことです。

 「スズキ アルト」は、実は1978年に発売される予定だったのですが、1年遅らせて販売されました。
 1年遅らせた理由は、製造原価35万円という目標を掲げ、(当時の)鈴木社長が陣頭指揮をとって「目標達成のためなら、スペアタイヤでも灰皿でもエンジンでも外せ!」と徹底したコスト削減を行なうためだったそうです。

 私が、初代の「スズキ アルト」に乗った記憶では・・・さすがにエンジンは付いてました(笑)が・・・助手席側のドアには鍵が付いていなかったし、ウインドウォッシャーは(電動ではなく)手動ポンプ式だったと思います。

 なお、「スズキ アルト」の発売時期を延期してでも製造原価にこだわった理由は・・・鈴木会長の持論である現場主義から得た販売戦略からだったそうです。
 その戦略とは「新車は高値の華だけど中古車ならば・・・と中古車を40~50万円くらいで手に入れて、主に買い物や子供の送り迎えなどに自動車を使う主婦層が増えているらしい。そんな人に45万円の新車を提案したならば飛ぶように売れる・・・販売価格45万円にするには製造原価は35万円でなければならん!」ということだったそうです。

 45万円販売の目標は達成できなかったけれど、「ズズキ アルト」は47万円で販売され・・・空前の大ヒット商品となりました。

 「まず目標ありき・・・目標達成のために知恵と汗を絞る!」という鈴木会長のスキームは、生産性を高めていくために必要な柔軟性や革新していく姿勢と同じかも?と思い、鈴木会長のお言葉を思い出しちゃいました。
  (つづく)



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