『PERFECT BLUE』

◆オタクのカメラが写す偶像
  アイドルとは、いつも笑顔で歌って踊り、ファンを喜ばせるものだ、というのが世間一般の認識だろう。主人公の未麻も、その認識の通りにアイドル活動をしていたが、事務所の意向により女優に転向することになる。グループの仲間の「未麻ねえ」という呼び方からわかるように、メンバーの中で年長であろう未麻の将来的な成功を考えた事務所側の判断だったのだろう。アイドルを辞め、女優の仕事を始めた未麻だったが、思うように上手くはいかなかった。その一方で、未麻が脱けたグループは順調に活動を続けていく。本心ではアイドルとしてステージで歌い続けたいと思いつつも、周りの期待を裏切れない未麻に、アイドル姿の未麻の虚像(ヴァーチャル未麻)が付き纏うようになる。オタクの"カメラ"に写っていた純潔のアイドル像と、女優を志す未麻の精神的不一致がヴァーチャル未麻を生み出した。ヴァーチャル未麻は"鏡やガラス"に映り、女優に転向した未麻を嘲笑うように本心を代弁し続ける。裸を晒し、犯され、かつてのアイドルだった頃の自分を失った未麻は、心を惑わすヴァーチャル未麻を追いかけてとらえようとする。女優業に勤しむ今、アイドルだった過去を追い求めたことにより、未麻は現実と虚構の狭間で憔悴していく。

◆幻想を追い続ける元アイドル
  猟奇的なオタクの内田を操りながら、未麻を穢した関係者達に制裁(共通して目潰し)を加えていったマネージャーのルミ。肥満気味の体型と、短く切り揃えた髪は、アイドルだった面影を残していない。未麻に感情移入していたルミは、女優転向後の未麻の姿を受容れることができなかった。ルミにとっても、アイドルの未麻こそが自己投影の媒体であり、その存在が失われてしまえば、ルミの存在を映し出すものもなくなってしまうのだ。女優の道で揉まれていく未麻を見るに耐えなくなったルミは、自分自身がアイドルの未麻(幻想)となり、不必要になった女優の未麻という"映写機"(実体)を破壊しようとする。結果としてルミの願いは潰えるが、トラックに轢かれそうになる直前まで純粋なアイドルを夢見ていた彼女を、未麻は助けずにいられなかった。

◆合致する実体と幻想
  酸いも甘いも嚙み分けた未麻は、女優として成功した。アイドルの虚像として実体化したルミの命を救ったことで、ヴァーチャル未麻は実体の未麻という鞘に収まり、ダブルバインドから解放される。逃げ続けてきた本心と向き合うことで未麻は前に進むことができたのだ。青空の下、"バックミラー"越しに「私は本物だよ」と悪戯っぽく笑う未麻。「あなたは誰なの」の問いに対する完璧な答えだった。

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